大晦日、二期生集合


「お邪魔しま~す。すいません、遅くなりました」


「配信お疲れ様、零くん。みんなで見ながら待ってたよ」


「お蕎麦も茹でてるところだから、もうちょっと待っててね~!」


 十二月三十一日、大晦日……今年最後の配信を終えた零はその足で沙織の部屋へ向かい、そこで待っていた同期たちと合流していた。

 リビングではぬくぬくと温まりながらのんびりとしている天とスイの姿もあり、自分を出迎えてくれた有栖とキッチンで年越し用のソーキそばを作っている沙織から声をかけられた彼は、軽く会釈をしてから上着を脱ぎ、くつろぎ始める。


「あれ? 零、あんた何持ってきたの? 鍋?」


「ああ、これは明日の朝に食べる用のお雑煮の汁ですよ。あとで餅も持って来なくちゃいけないし、だったら先にこっちに置いておこうかなと思って……」


「お雑煮!? お雑煮ですか!?」


「ははっ、そんな目を輝かせるようなものでもないんですけどね。しょうゆをベースに酒とだしと砂糖で味を調えて、具材に鶏ももと小松菜とかまぼこを加えただけのシンプルな品なんで」


「いや、十分過ぎるでしょ? その中に餅を入れて食べるって想像しただけでお腹が空いてくるんだけど?」


「わー、早ぐお雑煮食べてぇ……!!」


「これは明日の朝のお楽しみですよ。今は、喜屋武さんが作ってくれる年越しそばを楽しみましょう」


 そんな楽しい会話を繰り広げながら笑みを浮かべた零は、視線を部屋の壁にかけられている時計へと向ける。

 現在時刻は十一時四十分、配信が終わってから色々と準備していたら結構ギリギリの時間になってしまったなと苦笑する彼の前に、年越しそばを作り終えた沙織がそれを手にリビングへとやって来た。


「お待たせ~っ! 沖縄名物ソーキそば、できたよ~! さあさあ、伸びない間に食べるさ~!」


「わぁぁ……っ! 美味しそう……!!」


「お肉だ、お肉! ほんに美味すそう……!」


 そばというよりかはうどんと表現した方が正しそうな太麺の上に、甘辛く煮込んだ豚のスペアリブと紅ショウガ、紅白のかまぼこと小ねぎをトッピングして、和風のつゆに浸した沖縄の郷土料理、ソーキそば。

 流石は料理上手な沙織というべきか、見栄えも香りもとても美味しそうで、食欲をそそる料理の出来に零たちは一気に空腹感を募らせていく。


「さあさあ! お蕎麦が延びる前に食べるさ~! 美味しい物は美味しいうちに食べる、基本だよね~!」


「……今さらなんだけど、年越しそばなのに年を越す前に食べちゃっていいのかしら?」


「むしろ今年の厄を落とすって意味合いがあるんで、年を跨いで食べる方が良くないらしいですよ」


「本当だが!? じゃあ、急いで食わねど……!!」


「ふふふ……! そんなに焦っちゃだめですよ、三瓶さん。時間はまだあるんだから、今年を振り返りながらゆっくり食べましょう」


 一つ、また一つとテーブルの上にお椀を並べ、箸を持つ。

 配膳を終えた沙織が席に着いたことを確認した後で、五人はそろって手を合わせると食前の挨拶を口にした。


「「「「「いただきます!」」」」」


 家族が食事を共にするように、全員で挨拶をした後で蕎麦へと箸を伸ばす五人。

 麺をすすり、ほろほろと崩れる肉を頬張り、その味と温かさを堪能してほっと一息吐きながら……笑みを浮かべた零が小さな声で言う。


「なんかいいっすね、こういうの。騒ぐでもなく、配信も何もなしに集まってのんびりするのって、不思議といい感じです」


「わかる。いつも騒いでばっかりだし、たまにはこういう穏やか~に過ごす時間があってもいいわよね~……」


 零の言葉に同意しつつ、ずずずと音を立ててそばつゆを飲む天。

 ほは~っ、とどこか年寄りくさい反応を見せる彼女の様子を見て笑ってしまったのは零だけではないようで、他の面々もついつい噴き出してしまう。


「何よ? 何がそんなに面白いわけ?」


「だって天ちゃん、なんかおばあちゃんみたいだったんだもん! それがおかしくって……!」


「わ~い! 天おばあちゃん、お年玉ちょうだ~い!」


「お~、スイちゃんはかわいいね~! おばあちゃん、お年玉もしっかり用意してあるからね~……って、誰がおばあちゃんだ! わたしゃ沙織と同い年だっつーの!」


 孫を迎える演技をした後で、丁寧なノリツッコミを披露した天の反応に今度は大爆笑する一同。

 当の天も笑みを浮かべながら同期たちと過ごす一時を楽しんでいるようで、特にそれ以上は何も言わずに年越しそばを食べる作業に戻っていく。


「美味いっすね、本当。俺、ソーキそばって初めて食べましたけど、このスペアリブの味が堪んないっす」


「私もこのお肉の味、好きだな。これだけで食べてみたいくらいだよ」


「そう? なら、今度レシピを教えてあげるよ~! あっ、そうだ! 甘酒も買ってあったんだった~! みんなで飲も飲も!」


「甘……! 酒と名のついたものを目の前に並べられると、過去の失態を思い出して動悸が……!!」


「気にす過ぎだよ、秤屋さん。酒っていってもほどんどアルコールは入ってないですし、普通の飲み物ど同ずなんだはんで」


 温かい蕎麦と甘酒をテーブルの上に並べ、それを肴に会話を繰り広げる零たち。

 まるで本当の家族のような雰囲気を醸しながら、温かく穏やかな時間を過ごしながら、終わってしまう一年を思う五人は、時計を見つめながら話をし始める。

 

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