ビッグ3に、相談だ

「来年の目標か~……どうすっかな~……?」


 それからほどなくして、零は事務所の休憩スペースでそんなことをぼやいていた。

 頭の中にあるのは先ほど薫子から言い渡された年末の宿題、来年の目標についてだ。


 こうして改めて考えてみると、そういった目標が全く出てこないことに気付いてしまう。

 どうにか案を絞り出そうとしても、いい感じの小目標が思い浮かばないのだ。


(チャンネル登録者数何万人突破とか、配信時間何千時間突破とか、そういうんじゃねえよな。もっとこう、普段の活動と地続きになっているようでそうでもない、みたいなのがいいんだろうけどさ……)


 別に今挙げた目標も来年の目標として相応しくないということもないのだろう。

 だが、薫子が求めているのはそういうものではないということくらい零にもわかる。


 自分の存在を証明したい、というVtuber活動を通しての目標を達成することに繋がる、いわば中継地点になるような目標を設定してほしいのだと、そう理解している零であったが、それがそう簡単に思い付かないからこそ悩み続けているのだ。


 思えば、自分はいつも巻き込まれて何かをするばかりだったような気がする。

 有栖の時も、沙織の時も、二期生の初コラボの時もゲーム大会も声劇コラボも……元は目の前の問題を受け、それを解決するために悪戦苦闘し始めたという感じで、自分から動いたことがなかったではないか。


 もしかしたら、薫子も零がそういう受動的な動きばかりを見せている部分を気にしていたのかもしれない。

 トラブルに巻き込まれて動くのではなく、自分から動いて何かを達成してほしいと……そう思っているからこそ、こんな宿題を出したのかもしれないと思いながら、零は天井を見上げる。


 ああでもない、こうでもないと悩みながら、苦悶の唸りを上げていると……?


「どうした、少年? 年の暮れにお悩みかな?」


「あっ、左慈先輩! ど、どもっす!」


 ひょっこりと、上から覗き込むようにしながら声をかけてきた明日香に驚きつつも、挨拶をする零。

 くすくすと笑う彼女の近くに玲央と流子の姿があることに気が付き、二人に対しても会釈して挨拶をした彼へと、明日香が再び同じ質問を投げかける。


「どうしたの? こんなところで唸ってるけど、何か悩み?」


「え、ええ……お恥ずかしいところをお見せしちゃいましたね……」


「珍しいな、お前が悩みだなんて。割とさっぱりしてるし、簡単に切り替えられる奴だと思ってたよ」


「ああ、あれかな? 芽衣ちゃんを育乳してロリ巨乳にするのもいいけど、今のロリロリした感じのままでもいてほしい……俺はどっちにすべきなんだ!? 的な? うぐぐぐぐぐっ……!?」


 馬鹿なことを言った流子が玲央に首を絞められ、先ほどの零よりも苦し気に呻き始める。

 そんな二人のやり取りをまるっきり無視した明日香は、笑顔を浮かべながら零へとこう続けた。


「良ければ相談に乗ろうか? 後輩の悩みを解決する手助けをするのも、先輩の務めだからね!」


「あはは……じゃあ、お言葉に甘えて……実は――」


 えっへんと胸を張って得意気に言う明日香の姿に苦笑しつつ、事務所を代表する先輩である彼女の助言は確かに自分の悩みを解決する糸口になるかもしれないと考えた零がその言葉に甘え、相談することにした。

 薫子から出された宿題と、自分の考えを話してみせれば、三人は思い思いの反応を見せてくれる。


「なるほどね。そりゃあお前が悩むはずだ」


「二期生で3Dライブをするって言ってたじゃん。あれでいいんじゃないの?」


「ダメだよ。あれは元々、沙織ちゃんが言い始めた目標でしょ? 零くんが自分から見つけた目標じゃなきゃ意味がないって」


 零が思っていた以上に真剣に相談に乗ってくれている三人は、難しい表情を浮かべながらそれについて考えこんでいた。

 予定が詰まっているであろう大先輩たちにここまでさせてしまうのは普通に申し訳ないなと恐縮する零に対して、明日香が言う。


「零くんの夢は自分の存在を証明する、だったよね? 確かにそれは小目標を作りにくいかもしれないな……」


「そうなんですよね。ざっくりし過ぎていて、叶え方もわからない夢ですし……」


 零が掲げている夢は、自分自身でもそれを叶える道筋がよくわかっていないものだ。

 ただ純粋に配信を続けて人気者になればいいというわけではないその夢をどう叶えるのか? 新年の目標を通じてその内容に本格的に取り掛かっている零の姿を見た玲央が言う。


「薫子さんもいい宿題を出してくれたね。デビュー一年を前に、自分がどう活動していくのかっていう部分に向き合う機会をお前に与えたわけだ」


「そうなんでしょうね。いつも俺は受け身に回ってた部分がありますし、せめて夢に関しては自発的に動いてほしいってことなんだと思います」


「誰かのために一生懸命になるお前だからこそ、自分のことは蔑ろにしがちってことか……そこがお前のいいところだけど、悪い部分でもあるってのは皮肉だな」


「え~? でもさ~、別に零がやってたことって夢を叶えるのに一ミリも役立ってないってことはないっしょ? チャンネル登録者数百万人突破とかになったら、もうそれは自分の存在を証明できてるってことになるだろうしさ」


 何かと自分を後回しにしがちな零の性格を振り返ってそう評価した玲央に対して、逆に彼のフォローをする流子。

 目標の明確な達成基準がないからこそ、どの行動も正解に思えてしまうという状況に零が困惑する中、えへんと咳払いをした明日香が人差し指を立てながら口を開く。


「よし! じゃあまずはについて私たちと一緒に考えてみよう! ちょうどここには三パターンの夢があって、それぞれ別でありながら同一の道を辿れる夢なわけだから、それを例にしつつ話をしていくね!」

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