キュートなの、好きなの?

「うぐっ……!?」


 ずいっ、と自分の目の前に突き出されるスマートフォン。そして、そこに映し出されている写真。

 それを目にした枢は小さく呻くと共に、反応に困ったように目を泳がせつつも、ちらちらと視線を画面へと向けていく。


 全体的にふわっとしているセーター型の衣装は、芽衣の通常衣装と基本部分は共通しているように思える。

 下も丈が短めのホットパンツという部分は共通しているし、せいぜい違うのはフードが付いているのと腰にベルトを巻いている部分かな~、と冷静に考える枢。


 だがしかし、少し恥ずかしそうにしながらちょこんと床に女の子座りして、うさ耳の飾りが付いたフードを被っている芽衣の姿を見ていると、どうしたって気持ちを落ち着けることができないでいる。

 露出がないという部分に関してはほっとしたが、おひつじ座をモデルとしているお陰かもこっとした衣装と実に相性がいい彼女のサンタコスプレ姿は、枢の心臓をどきどきと高鳴らせていた。


「これは枢の奴に独占させてやった方が良さそうね。私たちが見たら逆に炎上しちゃいそうだし」

 

「お嫁さんのめごぇ姿見られるのは、旦那さんの特権ってやづだね!」


 愛鈴とスイのそんな会話が耳に入ってはいるが、ツッコミの言葉が思い付かなくなるほどに枢はのぼせ上っていた。

 これは確かに、他の誰にも見せたくないな……と、以前の誕生日配信でも見せた独占欲を湧き上がらせた彼へと、たらばがこんなことを言う。


「ふっふっふ~……! 気付いたかね、枢くん? これ、上下が合体してるつなぎタイプの衣装だってことに。それだけだったらなんだって話なんだけどさ~……実はこの服、ちょっとばかりえっちな服なんだよね~……!!」


「は、はい……?」


 意味深なたらばの言葉に、期待と不安が半々になった心境で彼女へと視線を向ける枢。

 そんな彼の顔を見つめながら、たらばはコスプレ衣装に付属していた説明書に記載されていた文章を噛み砕いて解説していく。


「これね~、普通のコスプレとしても使えるけど、正しい使い方は下に何も着ないで素肌に直に着ちゃうことなんだって! で、彼氏の前でジッパーを開いて、プレゼントはわ♡た♡し……! っていうのがおすすめの使い方らしいよ~!」


「ななな、なっ……!?」


「あ、体にプレゼント用のリボンを巻くとより効果的だって! 確かに妄想が働いちゃうね! うん!!」


 あまりにも卑猥なその服の真の着こなし方を聞いた枢が絶句すると共に顔を赤く染めていく。

 その脳内では、今しがたたらばが言ったままの格好をした芽衣の姿が浮かび上がっており、恥ずかしそうに頬を赤くしながらも大胆な出で立ちをしているその姿を空想した彼がぱくぱくと金魚のように口を開け閉めする中、トドメとばかりにたらばがこう言った。


「ちなみにだけど……このサンタさんのコスプレ、そのまま芽衣ちゃんにプレゼントしてあるよ~! 枢くんが頼めば、着て見せてくれるんじゃないかな~?」


「うぐっ、ふっ……!?」


「……リア様、よく覚えておいてくださいね。あれが、ってやつです」


「ほへ~、ためになります……」


 いけないとは思いながらも、そんなことを聞かされたら健康な青少年としては期待せざるを得ない。

 ほぼ反射的に、弾かれるようにして顔を動かして芽衣の方を見れば、顔を真っ赤にした彼女は上目遣いでこちらを見ながら小さな声でこう答える。


「……下に何も着ないとか、体にリボンを巻くとかはやらないよ? えっちなのはだめなんだからね」


「えっ……? 普通に着てくれるならOKってこと……?」


 普段の枢ならば、そんな不用意なことは言わなかったと思う。

 だが、目の前の嫁のかわいさについ彼が思ったことを口にしてしまった瞬間、ぽんっ、と音を立てるような勢いで芽衣の顔が真っ赤に染まった。


「……枢くんのえっち。もう知らない、自分で考えれば?」


「あ、はい……」


「……ねえ、あれで付き合ってないって流石に無理じゃない? 空気がもう完全に甘くなってるもん」


「カナッペのしょっぱさがい感ずだね! もぐもぐ!」


 既にリアの方はラブコメ映画でも見るかのように枢と芽衣のやり取りを料理をつまみながら鑑賞している。

 もうクリスマスは同期で集まるんじゃなくって、あの二人だけでオフコラボとかさせた方がいいんじゃないかな~……と、愛鈴が思う中、この空気を生み出すきっかけを作ったたらばが満面の笑みを浮かべながら口を開いた。


「いや~! お姉さん的には大満足な感じだよ~! この調子でてぇてぇしてほしいね~! ……ところでなんだけどさ、お姉さん、枢くんにちょ~っとお願いがあって……さっきのコスプレ写真の対価として、それを聞いてほしいんだけどな~!!」


「……なんすか、急に。まあ、聞きますけど……」


 このままこの空気に引っ張られてはマズいと気を取り直した枢が咳払いの後にたらばへと向き直る。

 芽衣の方は顔の火照りを覚ますようにシャンメリーをちびちびと飲んでおり、甘さに満ちた自分の心ををどうにかしようと二人がそれぞれ頑張る中、遠い目をしたたらばが言う。


「あのね……今、こうしてみんなから集めたマシュマロに回答してるじゃない? みんな優しいからいっぱいマシュマロを送ってくれるじゃない? ここまでは大丈夫?」


「ええ、まあ」


「そう。それでね……みんながいっぱいマシュマロを送ってくれたのは嬉しいんだけど、その中には間違いなく枢くん宛てなんだろうな~、ってやつがいっぱいあってね……これ、放置するのは可哀想だなって、お姉さんは思うんだよ」


「……待って、たら姉。今の話を要約すると、クソマロがいっぱい届いてるから俺に消費しろって、そういうこと?」


「正解! 流石は枢くん! 話が早くて助かっちゃうよ~! はははのは~っ!!」


「嘘でしょ……? 俺、聖なる夜にまでクソマロの相手させられるのかよ……!?」


 あまりにも唐突過ぎるその話に愕然とする枢であったが、たらばは部下に無茶な仕事を振る上司が如く、無責任な笑みを浮かべて肩を叩いてきている。

 愛鈴はどこか楽し気に微笑みながらぶどうジュースを注いだワイングラスを揺らしているし、リアに至ってはクソマロ捌きショーを楽しむ準備は万全とばかりに飲み物とつまみを手にこちらへと期待に満ちた視線を向けていた。


「頑張んなさいよ、枢~! 日々の配信で鍛えたクソマロへの対処術を見せてやんなさい!」


「ファイト! 枢兄っちゃ!!」


「あんたら、他人事だと思って! 絶対にいつかやり返してやるから、覚悟しとけよ……!!」


 下々の者たちを利用したデスゲームを楽しんでいる趣味の悪い富豪のような雰囲気を醸し出す二人へと、怨嗟に満ちた憎しみの言葉をぶつける枢。

 この時点で既に逃げられないことを悟った彼は、クソマロ捌き一級の資格を持つ者として覚悟を決め、たらばへと言った。


「いいっすよ、わかりましたよ。やればいいんでしょう、やれば!」


「うんうん! 枢くんもやる気を見せてくれて嬉しいよ~! じゃあ、そういうことで――」


 決してやる気を見せてるわけじゃあないぞと、そうツッコむ余裕は今の枢にはなかった。

 ただ一人だけが可哀想なこの空間の中、とても楽しそうな笑みを浮かべたたらばは、配信用のPCを操作すると共に堂々と誰もが予想していなかった一大イベントの開始を宣言する。


「蛇道枢くんのクソマロ配信、クリスマススペシャルバージョンの始まり、始まり~!!」



――――――――――

すいません宣伝させてください!

このお話と同じタイミングでVtuberもののラブコメ(新作)を投稿しました!


一年間を空けてのカクヨムコン参加作品でもあるので、良ければ読んでくださると嬉しいです!


本日は10時に2話、18時にもう2話の4話投稿!

明日明後日は2話ずつ投稿し、そこから一日一話のペースで進めていく予定です!


この『Vtuberってめんどくせえ!』とも時系列は違いますが世界観を共有している設定ですので、もしかしたら「おや……?」と思っていただけるような部分があるかもしれません!


どうか応援のほど、よろしくお願いします!

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