チームとして、共に

「……そうだね。阿久津くんの疑問に答えるためにも、ここからは仕事の話をしようか。とはいっても、僕も多くを知っているわけじゃあないんだけどさ」


 零の言葉を受け、水を飲んで一旦雰囲気をリセットした優人が鞄からファイルを取り出す。

 そこに挟まれていた資料を取り出した彼は、それをグループの仲間たちに見せながら説明を行っていった。


「知っての通り、僕たちはデザート部門を担当するグループだ。ただ、実際にデザートを作ったり、監修したりといった作業をするわけじゃあない。僕たちの仕事は、宣伝と特典制作への協力だよ」


「宣伝は配信とかでやるとして、特典ってどんな感じのものを作るんですか?」


「一番わかりやすいのは、対象商品を購入した際に貰えるポストカードかな? その絵をチェックしたり、要望があれば伝える。他にも購入者が聞ける限定ボイスの収録もあるだろうし、宣伝で店内放送やサイトでアップするコマーシャルなんかを録ることもあるだろう。発売前に実物を食べて、それに関するポジティブな感想を言うのも仕事の一つだろうし、他にも細々とした仕事を割り振られることになると思うよ」


「なるほど……サンユーデパートさんから依頼されたことをこなしていく、って形になるんですかね?」


「強いて挙げるなら、特典ボイスの脚本は僕たちが作るものかな? それも向こうの意向に沿ったシチュエーションのものを制作することになると思うけど、その点に関しては阿久津くんたちは気にしなくていいよ」


「なにせこっちにはトラキンのクリエイティブ担当である、私たちハートスートのメンバーがいますからね! しかも、そこに【CRE8】さんでも随一の脚本家である須藤さんまでいるんですから、そういうのは任せてくださいよ!」


 えっへん、と胸を張って堂々とそう言い切る恋の言葉に頼もしさを感じる零。

 確かにこのグループにはボイスの脚本を書き慣れた人間が三人もいるのだから、その部分に関しては何も心配いらないだろう。


 自分は仲間に助けてもらうばかりで、申し訳ない気持ちになってしまうな……という零の考えを見抜いたのか、優人がふわりとした笑みを浮かべながら彼へと言う。


「裏方作業は慣れてる僕らに任せてほしい。その代わりといってはなんだけど、阿久津くんと喜屋武さんには宣伝の方を頑張ってもらいたいんだ。チームで仕事にあたる時は、全員が得意な分野で力を発揮して助け合うことが肝心になる。二人は僕たちなんかより料理に造詣が深いだろうし、宣伝するデザートの良い部分を見つけることに関して、力を貸してほしいんだ」


「……うっす! 狩栖さんの言う通り、俺は俺のできることを全力でやらせていただきます!」


「うんうん、それが大事だよ~! お姉さんもばっちり頑張っていくから、一緒に頑張ろうね~!」


 チームのバランスを取るのが上手いというか、円滑に仕事を進めていくだけのスキルが高いというか、そういった能力を見せつける優人は流石の手腕でグループのメンバーをまとめている。

 引っ張ってもらう立場というのは気を遣いがちだが、それでも彼のお陰で気持ちが随分と楽になったな……と、零が考える中、少しだけ不安気な表情を浮かべた澪が優人へと口を開いた。


「ねえ、ゆーくんは大丈夫なの? あたしたちだけじゃなくって、【トランプキングダム】さんのメンバー全員分のボイス脚本を考えることになるんじゃない? 他にも抱えてる作業があるだろうし、体の方は大丈夫なの?」


「そこは君と古屋を頼りにさせてもらうよ。こっちの事務所の面子の内、男性メンバーの脚本は僕が考えて、女性は古屋に任せる。このグループの脚本は僕たち三人で話し合って決めていけば、負担も軽減できるはずさ」


「……本当に平気? 忙し過ぎてパンクしちゃうっていうのが一番怖いんだから、無理はしちゃだめだよ?」


 珍しく明るい茶化した雰囲気ではなく、真面目に優人を心配している雰囲気で彼に問いかける澪。

 そんな彼女の言葉に少しだけ言葉を詰まらせた優人は、それでも安心させるように笑みを浮かべながら大きく頷く。


「大丈夫さ。何も心配ないよ。この程度のこと、僕は慣れっこだ」


「……ゆーくんがそう言うならこれ以上は突っ込まないけどさ、本当に無理はしないでね? 約束だよ!?」


「須藤先輩の言う通りっすよ。俺も昔、無理し過ぎてぶっ倒れたことありましたし、体調には気を付けてくださいね」


「ははは、わかってるさ。本当に大丈夫だから、気にしないで」


 本心からそう言っている優人だが、人間、限界を迎える時というのは唐突に訪れるものだ。

 まだまだ平気だと思っていても急に倒れることがあるということを身を以て経験している零が澪に同調し、優人へと注意を促す中、今度は恋の方が話題を流すために大声を出す。


「先輩を心配する気持ちもわかりますけど、私がしっかり見張っておくんで安心してください! ボイス脚本作りよりも、そっちの方に力を注ぎますんで!」


「……それはそれで僕の負担が増えるんだけど、わかって言ってるのかい?」


 後輩のボケを含んだ言葉に優人がツッコミを入れれば、少しだけ不安でピリついていた空気が和やかさを取り戻した。

 そんな空気の下、手を叩いた恋がこの場に揃った面々へと提案を口にする。


「そうだ! これから先、色々と連絡を取り合うこともあるでしょうし、連絡先を交換しておきましょうよ! そっちの方が何かと便利でしょうし、ねっ!?」


「そうだね~! いちいち須藤先輩や狩栖さんを通じて連絡を取るのも二人に負担がかかっちゃうし、そっちのが自然だもんね~! これからよろしく、って意味も込めて、連絡先を交換しておこうよ~!」


 同業者として、同じ仕事に取り組む仲間として、ごく自然な流れで連絡先を交換することを提案してきた恋の言葉に沙織も同調する。

 零も優人も澪も特に反対することはなく、一同はそれぞれの連絡先を共有することになった。


「ありがとうございます! これでコラボとかもしやすくなりましたし、脚本の相談もできますね!」


「まあ、同じVtuberとして活動する者同士、この仕事が終わっても繋がりは続くだろうしね。いい関係を築いていけたらいいなって、僕も思うよ」


「……うん、そうだね。本当にそうだよ、うん」


 何気ない優人の一言に、しきりに頷きながら同意を示す澪。

 しみじみとした彼女の言葉から、澪が優人と築いていきたい関係性を読み取った零もちょっとした尊さを感じて大きく頷く。


 こうして、サンユーデパートコラボ企画・デザート部門メンバーの初顔合わせは和やかなムードの中で終わりを迎え、一同は仕事の達成に向けて団結する様子を見せるのであった。

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