五人目の、メンバー
待ち合わせ場所は、以前と同じ居酒屋だった。
前に利用した際にはディナータイムであったが、今回は昼時ということで客層もがらりと変わっている。
どちらかといえば女性の方が目立つ店内の様子を眺めながら、前に来た時と同じように奥の個室へと進んだ零は、扉を開けると共にそこで待ってくれていた優人へと挨拶をした。
「お疲れ様です、狩栖さん」
「待たせてごめんね、ゆーくん!」
「気にしないで、僕たちも少し前に来たばかりだから」
前回とは逆に、零たちのことを待っていた優人が柔和に微笑みながら零たちへと言葉を返す。
そんな彼の隣には見知らぬ女性がおり、彼女もまた楽し気に頬笑みを浮かべていた。
「とりあえず座りなよ。お互いに新顔を連れてきたわけだし、彼女たちの紹介をしないと」
「そうだね! 注文する前に、パパッと自己紹介を終わらせちゃおっか!」
促されるまま、三人掛けの椅子に座る零。
沙織と澪に挟まれる形になったことを少しだけ気まずく思いながら優人へと視線を向ければ、彼は三人に向けて自分の後輩を紹介し始める。
「紹介するよ。僕と同じ【トランプキングダム】のハートスートに所属している、
「はじめまして、古屋です! ハートのエース、アンジュ・ヘイローを担当してます! 今回のコラボでご一緒できて、とても嬉しいです!」
そう、元気に挨拶する恋のことを簡潔に表現するならば、平凡な女性といった感じだった。
沙織のようなアイドル級の美女でもなく、澪のようなトランジスタグラマーというわけでもない、どこにでもいる女性。
だが、それが彼女の魅力だと思う零は、挨拶をする彼女に対して座ったまま頭を下げ、無言で反応を見せる。
続いて、こちら側の初参加者である沙織が、【トランプキングダム】の二人へと自己紹介を始めた。
「はじめまして。喜屋武沙織っていいます。花咲たらばを担当してて、零くんとは同期です。少し話し方に沖縄訛りが混じるかもしれないんですけど、容赦してくれると助かります」
「大丈夫ですよ! それが花咲さんの魅力だってことはわかってますし、モーマンタイです!! むしろ私の方が色々やらかしそうなんて、そちらをご容赦していただけると……」
どうやら、恋も優人と同じくコミュニケーション能力は人並み以上にあるようだ。
初対面の沙織とも臆せずに会話できているし、人当たりも良い。
少なくとも、ここに集まったメンバーとそのやり取りを見る限りは何も心配はいらないな……と思う零の前で、場を取り仕切る優人が口を開く。
「【CRE8】さんから三名、【トランプキングダム】から二名で合計五名。ここに集まったメンバーがサンユーデパートさんとのコラボでデザート部門を担当することになる。期間も長めだし、宣伝のために一緒に配信をしたりすることもあるだろう。仕事で円滑にコミュニケーションを取れる関係を作るために、今日は一緒に食事を楽しもう」
「もー! ゆーくんてば、固い固い! 顔合わせをしつつ一緒にご飯を食べて仲良くなろうね~、くらいの気持ちでいいでしょ!!」
「いや……仮にも仕事仲間なんだから、締めるべきところは締めた方がいいでしょ? 緩くし過ぎるのもそれはそれで問題が――」
「石頭~! 頑固者~! 融通利かず~!! もう少し雰囲気を和らげないと、楽しく食事なんてできないだろ~! わ~っ!!」
「う、ぐぅ……」
仕事の延長線上として親睦会を取り仕切る優人に対して、茶化しともアドバイスとも取れる言葉を投げかける澪。
彼女に押される優人の姿を見た恋は、面白いものが見れたとばかりにくすくすと笑うと、楽し気な声で言った。
「ふふふ……っ! 狩栖先輩がこんなふうになってる姿、初めて見ました! 聞いていた通りの面白い方なんですね、須藤さんって!」
「おや? ってことはゆーくん、あたしのことを後輩ちゃんに話してる!? ねえねえ、ゆーくんってあたしのこと、なんて言ってた!? 教えて、教えて!」
「今はいいでしょ、そういうのは。まずは注文して、談笑はそれからで――」
「え~っ!? 仲良くなるんだったらいっぱいお喋りした方がいいじゃ~ん! 恋ちゃんもそう思うでしょ~?」
振り回される優人と振り回す澪、そんな二人を見ては大笑いする恋と出会ったばかりだというのに随分の場は盛り上がっている。
これは結構大変な食事会になりそうだなと沙織と顔を見合わせて苦笑した零は、今回のコラボで一緒に仕事をする面々との親睦を深めるために会話に加わっていくのであった。
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