到着、ゲームセンター

 ナンパ男たちに絡まれるというトラブルはあったものの、幸いにもその後のお出掛けには影響が出ることはなく、三人は予定通りにゲームセンターへと足を運ぶことができた。

 大型のモール内にあるだけあって、かなりの規模を誇る遊興施設の賑やかさに目を輝かせる陽彩は、自身にとっての夢の国を存分に堪能していく。


「わわわわわ……げ、ゲームがこんなに沢山……!! うわっ!? 格ゲーの最新作だ! まだ据え置きのゲーム機に移植されてないから、ゲームセンターでしかできないんだよね……! はぁぁ……! ゲームセンターのハンドルコントローラーってこんなにしっかりしてたんだ……!」


「ふふふっ! 楽しそうだね、陽彩ちゃん」


「ゲームは好きだけど、ゲーセンに来る機会はそこまでなかったみたいだしね。見るもの全てに興味津々って感じだ」


 格闘ゲーム、レースゲーム、シューティングゲーム、その他諸々。

 家には絶対に置くことはできないであろう様々なジャンルのゲームの筐体やそのプレイ画面を見ては興奮を露わにする陽彩のことを、零と有栖は微笑ましく見守っている。

 さながらその姿はゲームセンターではしゃぐ子供とその両親といった雰囲気で、年齢が近いことを除けばまるっきり家族連れの様子そのものであった。


「うわぁ……! クレーンゲームの筐体もいっぱいある! ボク、こういうのはやったことないから、ちょっと興味あるなぁ……!!」


「おっ!? もしかして、これだったら俺でも蓮池先輩に勝てますかね!?」


「ふふふ……っ! 零くん、クレーンゲーム得意だもんね。前に一緒に遊びに行った時、ぬいぐるみ取ってくれたの覚えてるよ」


 アニメキャラのフィギュアやかわいらしい動物のぬいぐるみ、超巨大なお菓子の詰め合わせ等が景品として用意されているクレーンゲームに対しても、陽彩は興味津々なようだ。

 ガラスに顔をくっつける勢いで景品たちへと熱い視線を向ける彼女の様子を温かく見守っていた有栖は、その中に見覚えのあるものを見つけて大きな声を出す。


「あっ!? 見て! あれ、前に零くんに取ってもらったぬいぐるみと同じシリーズのやつじゃない?」


「お、本当だ。よく気が付いたね」


「えへへへへ……!」


 以前のデートの際、零からプレゼントしてもらった大きめのサイズをした蛇のぬいぐるみの色違いバージョンを発見した有栖がくいくいと彼の服の袖を引っ張ってそれを伝える。

 近くに寄って見てみれば、蛇の他にも羊のぬいぐるみも存在しており、ちょっとした運命に驚いた二人は目を丸くしながらそのぬいぐるみのシリーズについて確認していった。


「ははぁ、干支の動物をモチーフにしてたのか! 確かにそっちにも蛇と羊がいるもんなあ……!」


「ふふふっ! こう考えると、Vtuberにも干支がモチーフの人たちがいてもおかしくなさそうだよね!」


「確かに、俺たちが知らないだけでもういたりするんじゃないかな?」


 細長く抱き枕にうってつけの蛇と、もこもことした正統派のぬいぐるみらしい風貌の羊。

 ちょうど同じクレーンゲームの中に景品として収められているそれを見た零は、隣に並ぶ有栖へとこう問いかける。


「良ければまたプレゼントしようか? 蛇シリーズ、コンプリート狙ってみる?」


「うん! じゃあ、私も頑張って羊の方をゲットしてみるよ! 景品、交換し合いっこしよう!」


 今回もまたお出掛けの戦利品としてぬいぐるみをゲットしようと、その上でお互いに獲得したそれを交換しようと、そう楽しそうに話す零と有栖。

 そうやって、傍から見るとイチャつきにしか見えない会話を繰り広げる二人であったが……?


「……あれ? そういえば、蓮池先輩は?」


「え? あっ!? 話に夢中で目を離しちゃってた!」


「……ずっとここにいたよ。なんか声をかけづらくって、ずっと黙ってました」


 今日、ここに遊びに来たのは自分たちだけではなかったと、もう一人の友人である陽彩の存在を不意に思い出した二人が周囲を見回してみれば、自分たちのすぐ傍で死んだ目をしている彼女の姿があった。

 自分が完全に蚊帳の外状態になっていることに凹む彼女は、若干煤けた背中を零と有栖に見せつけながら哀愁漂う愚痴を吐き始める。


「いいんだいいんだ。ボクはちょっと離れた位置でイチャイチャする二人を見てるのがお似合いなんだ。今日もボク抜きで二人でデートした方が楽しい一日になったに違いないんだ……」


「す、すいませんっ! 蓮池先輩のことを忘れてたわけじゃあないっす! ただちょっと目を離しちゃっただけで――」


「そりゃあそうだよね。零くんの目には有栖ちゃんしか映ってないもんね。君だけしか見えない状態で二人の世界に突入してたもんね」


「ごめんね、陽彩ちゃん! でも、本当に陽彩ちゃんのことを忘れてたわけじゃあないから! ねっ!?」


 どんよりオーラを放つ陽彩のことを、二人掛かりで励まし、慰め、謝罪する零と有栖の姿は、さながら拗ねた子供をあやす夫婦のそれだ。

 彼女を放置して二人で盛り上がっていたことだけは言い逃れようのない事実であり、それに関して平謝りする零と有栖は、今度こそ陽彩と共にゲームセンターを楽しむべく、彼女を挟んで歩き出す。


「クレーンゲームは後にして他のゲームで遊びましょう! 今取っても荷物が増えるだけですし、それがいい!」


「陽彩ちゃんにもぬいぐるみをプレゼントするね! 三人でプレゼント交換しようね!!」


「わわわわわ……!? わかったから引っ張らないで、普通に歩かせて……」


 やや強引に両親に引っ張られる娘状態になった陽彩が慌てて二人を制止する。

 その声を聞いて立ち止まった二人は、ちょうどそこにあったゲームの筐体を目にして彼女へと提案を投げかけた。


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