映画鑑賞後、ず~ん……
「……ごめん。本当にごめんね……」
「あ、有栖ちゃんが謝る必要なんてないよ! 元気出して! ねっ!?」
「そうそう! そんなに凹まないで大丈夫だから!!」
それからきっかり二時間後、有栖はモール内のカフェにて友人たちに頭を下げて謝罪の言葉を繰り返していた。
その理由は単純で、彼女がセレクトした映画が実にお粗末な出来だったからだ。
言葉を選ばずに言ってしまえば、クソ映画。面白くもなんともない、つまらないにも程がある映画ということである。
自分たち以外の観客や劇場内のボルテージがどんどん冷めていくことを感じながらの映画鑑賞は、有栖の心をボッコボコに凹ませるに十分過ぎる程の出来事であった。
「私がもっと下調べをしておけば……映画の評判を確認しておけば、こんなことには……」
「そんな、別に何一つとして面白くなかったみたいなわけじゃなかったよ! あ、アクションは良かったって!」
「そうそう! シナリオと演技と演出がダメだっただけで、それ以外は良かったと思うよ!!」
不幸中の幸いは傷心状態の自分を慰めるために、零と陽彩が一致団結してくれていることだ。
フォローの仕方はちょっとアレかもしれないが、それでもある意味では二人が心を一つにしてくれていることは有栖にとって喜ぶべきことだろう。
ただ、自分がこうして凹んでいるせいでお出掛けの雰囲気を悪くしていることも理解している彼女は、これではダメだと自分自身に言い聞かせる。
さりとてここで開き直ることができる程、肝が据わっているわけでもない有栖がどんよりとしたオーラを纏って肩を落とす中、カフェの店員が料理を手にテーブルへと近付いてきた。
「お待たせいたしました。ケーキセットでございます」
「ほ、ほら! ケーキが来たよ! これ食べて元気出そう、有栖ちゃん!!」
「甘いものを食べれば気分も晴れるって! ささ、食べよう食べよう!」
注文してあったケーキセットが届けられたことをこれ幸いにと話題に出しつつ、有栖へと食べることを促す二人。
ショートケーキ、モンブラン、チーズケーキといったかわいらしいケーキの見た目を楽しんだ後、陽彩が率先して自分の分のケーキを頬張っていく。
「はわぁ……! 甘くて美味しい……! いつもコンビニで買ってるケーキとは大違いだ……!」
「こっちのモンブランも栗の味がしっかり出てていい感じですよ。甘さも程良くって、俺好みです」
たった一口でもわかるケーキの美味しさに舌鼓を打ちつつ、それぞれの感想を伝え合う零と陽彩。
コーヒーの味も楽しむ二人は、残るチーズケーキを有栖へと差し出すと、改めて彼女へと言った。
「ほら、有栖さんも食べてみなよ。すっごく美味しくて、ほっぺが落ちると思うからさ」
「……うん、ありがとう。それじゃあ、いただきます」
優しい友人たちの気遣いに感謝しつつ、いつまでも自分が暗いままでは美味しいケーキも不味く感じられてしまうと考えた有栖が零に返事をすると共に気持ちを切り替える。
フォークを手に取り、やや硬いレアチーズのケーキを切り取った彼女は、それを口に運ぶと共に大きく目を見開いてみせた。
「うわ……っ!? 本当だ、美味しい! 甘酸っぱくて、凄くさわやかな味で、クッキーもサクサクしてる!」
「でしょ!? って、俺はそのケーキを食べてるわけじゃないんだけどさ」
一口ケーキを食べた瞬間に元気を取り戻した有栖の姿を見た零が安堵の表情を浮かべながらからからと笑う。
コーヒー用のミルクと砂糖を差し出した彼は、ケーキの甘さに合うコーヒーの味も楽しんでくれと無言で伝えつつ、自分もまたモンブランをパクついていった。
「こ、こっちのショートケーキも美味しいよ。クリームとスポンジの甘さもそうだけど、間に挟まってるイチゴの甘酸っぱさが最高なんだ」
「うわ~! 聞くだけで涎が出ちゃうなぁ……! ねえ、私のチーズケーキと一口ずつ交換しない? そっちもちょっと食べてみたいからさ」
「う、うん、いいよ。ボクもそっちのケーキの味が気になってたところだし……」
「わ~い、ありがとう!」
すっかり元気を取り戻した(というより気持ちを切り替えることに成功した)有栖と仲良く話をしながらお互いにケーキの感想を伝え合っていた陽彩は、彼女の提案に大きく頷いてみせた。
そのまま、彼女へとショートケーキが乗った皿を差し出そうとしたのだが、そんな陽彩の前に、少し大きめに切り取られたチーズケーキを乗せたフォークが差し出される。
一瞬、それが何を意味しているか理解できずに硬直してしまった陽彩であったが……そのフォークの持ち主であり、彼女とケーキを交換することを約束した有栖は、無邪気に笑みを浮かべながらこう言ってみせた。
「はい、あ~ん!」
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