ミッション1・映画を楽しもう!
さて、こうして三人で遊びに行くことになったはいいが、問題はその行き先だ。
意外、というわけでもないのだが……この三人、共通している属性が案外少ないのである。
有栖と陽彩は気弱なコミュ障という部分が共通しているが、それを遊びに活かせるかと聞かれると間違いなくNOと答えざるを得ない。
というよりむしろ、選択肢が狭まってしまう結果に繋がってしまっている。
運動が苦手だからボーリングやアスレチックなどの体を動かす系の施設には遊びに行けないし、適当にぶらつくという選択肢も会話が続かないからアウト。
基本的にアウトドア的な遊びが苦手な二人のことを考えると、自ずと行き先はインドア寄りの場所になるというわけだ。
そういった部分も踏まえ、入念に計画を練った有栖と陽彩が選んだ行き先は、映画館が内蔵されているショッピングモールであった。
主目的として映画を見て、その後で休憩がてらカフェで休憩を取り、その後はモールを見て回って時間を潰し、最後に祝勝会と称して夕食を共にする……という完璧(少なくとも彼女たちはそう考えている)な計画を立てた二人は、上手いこと零との距離を詰めるための作戦も考えてから本番当日を迎えている。
零にとっては同僚の女性二人と出掛けるという一歩間違えれば燃えかねないシチュエーションではあるが、それでもすんなりと一緒に遊びに行くことを了承してくれたのは、彼が自分たちに気を遣ってくれた部分もあるのだろう。
あるいは、自分たちが相手ならば炎上まではいかないだろうという確信と信頼があるのかもしれないが……なんにせよ、そのお陰で彼と一緒に遊びに行くという計画の第一段階を無事にクリアできたことを有栖は喜んでいた。
(私が零くんと陽彩ちゃんの間に入って、二人の仲を取り持つんだ! 陽彩ちゃんのためにも、頑張らなきゃ!)
同年代の友人たちに仲良くなってもらいたいという純粋な願いを持つ有栖であるが、同時に誰かから頼られるというシチュエーションに舞い上がってもいる。
生まれてこの方周囲の人々から助けてもらった記憶しかない彼女からしてみれば、友人から相談を持ち掛けられるだなんてのは初めてのことで、必ずや力になってみせると意気込んでいるようだ。
問題は、有栖自身もそこまで他者とのコミュニケーション能力が高いわけではないということなのだが……それでも頼ってもらえたからには全力を尽くそうと意気込む彼女は、拳を強く握り締めて決意を漲らせている。
そんなふうに、親友の望みを叶えるためにも責任重大なこの役目を果たしてみせるぞ……と気合を入れる有栖へと、何も知らない零が声をかけた。
「はい、チケット。席順は適当でいいよね?」
「あ、うん。ありがとう、零くん」
三人分のチケットを購入してきた零がその内の一枚を有栖へと手渡す。
もう一枚を陽彩へと渡した彼は、時間を確認してから二人へと言った。
「上映まではもう少しだけ時間があるね。売店でも行って、ポップコーンとか買う?」
「そうだね。アナウンスされるまで、時間を潰してよっか」
「ボクは少食だから、ドリンクだけでいいかな。この後、食事もするわけだし……」
ここまで来ると多少は緊張も解れているようで、陽彩もどもったりせずに普通に会話に参加できるようになっている。
まずは最低限のラインは超えられたかと、彼女の様子を確認して安堵する有栖であったが、まだまだ超えるべき関門は残っていた。
(陽彩ちゃん、わかってるよね? 映画を観終わった後はどこかで軽食を取りつつお話をして、距離を縮めて――)
(よ、夜の食事の時に名前で呼んでって話を切り出すんだよね? わ、わかってる、大丈夫だよ……!!)
第一の関門は映画を観終わった後にやってくる。
有栖に間に入ってもらいながら、零と二人でも話せる状態を作るというのがそれだ。
最終目的である名前を呼んでもらえるようになる関係になるためには、やはり有栖を抜きにしても普通に会話ができるようにならなければならないだろう。
そのためには、映画の感想というどう足掻いても滑ることのない鉄板の話題を用いての会話で距離を縮めておくことが必須だ。
この会話の内容でその後の距離感が決まり、零の攻略難度が大きく変わる。
ここで上手く話ができるようになっておかないと、後々のショッピングの際に会話の糸口が見つからない……なんて羽目になる可能性も十分に有り得た。
(そうならないためにも、まずは映画を楽しもう! 私は零くんがどこで集中してたを確認しておくから!)
(わかった! ありがとう、有栖ちゃん……!!)
ひそひそ声で会話し、秘密の作戦会議を行う女子二人。
少し離れた位置でそんな彼女たちを見守っている零は、うんうんと温かい眼差しを向けながら大きく頷いている。
(やっぱり仲がいいなあ……! にしても、さっきから二人で何を話してるんだ?)
よもや彼女たちが自分と仲良くなる方法をあれやこれやと話しているだなんて考えもしていない零は、ちょっとだけ不審な二人の様子に違和感を覚えているようだ。
だがしかし、まあ有栖と陽彩が楽しそうならなんでもいいか、と楽観的に考えた彼は、深くは突っ込まずに同い年の同僚たちとの映画鑑賞へと臨んでいくのであった。
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