数日後、魚住しずくの配信


『あーあーあー……声の大きさ大丈夫ですか? 誰かが大きかったり、小さかったりしてない?』


『待ってて、今、リスナーさんたちに聞いてみるから……』


『申し訳ないけど、みなさん協力をお願いします』


【了解! 今のところは大丈夫そう!】

【ワクワク! ワクワク!】

【慌てないでゆっくり準備してね!】


 【ペガサスカップ】から数日後の夜、魚住しずくのチャンネルでコラボ配信が行われようとしていた。

 配信開始後の音量チェックをしているのはチャンネルの主である魚住しずくこと蓮池陽彩と、【Milky Way】のチームメイトであった零と有栖だ。


 祝勝会と大会の振り返り雑談を目的とした配信であるが、それにしてはリスナーたちの注目も盛り上がりもかなり高まっているように見える。

 それもそのはずで、この配信には3人以外のスペシャルゲストが参加することになっていた。


『えっと……お待たせしました。【CRE8】1期生タレント、魚住しずくです。今回は素敵なゲストさんたちと少し前に参加した【ペガサスカップ】の振り返り雑談をしていこうかなって思ってます』


『こんばんめ~! ゲストその1、羊坂芽衣です。大会では応援してくださって、本当にありがとうございました!』


『どうも、ゲストその2の蛇道枢です。そして――!』


 ゲストであるというのに軽い挨拶のような自己紹介で存在をアピールした零が次の人物へとバトンを渡す。

 彼から話を振られたその人物たちはやや緊張した雰囲気で口を開くと共に、前の2人とは打って変わった丁寧な自己紹介を行っていった。


『こんばんは、お邪魔しています。Vtuber事務所【Virtual Gaming Act】所属、夕張ルピアです。本日は魚住さんからのお誘いを受け、この配信に参加させていただくことになりました』


『同じく【VGA】所属の三三檸檬で~すっ! 同期と後輩が結構ガチガチに緊張してるみたいなんで、自分だけでも明るく軽い雰囲気で自己紹介させてもらってま~す! 今日はよろしくぅ!』


『押忍! 【VGA】格闘ゲーム部門所属の武道ゆかりと申します! 【CRE8】さんから配信にお誘いいただけるなんて光栄の極みっす! 粗相のないよう、全身全霊で配信に臨ませていただきます!!』


【よっ! 待ってました!】

【ウオミーの配信とは思えない人口密度だぁ……】

【これまで基本ぼっちプレイだったウオミーにもこれだけ友達ができたんだって思うと、熱いものが込み上げてくるね】


 そう、この配信に参加するのは【Milky Way】の3人だけではない。

 【ペガサスカップ】で激闘を繰り広げた相手である【Winning Girls】もゲストとして招待されていた。


 普段の強気な雰囲気を引っ込めた緊張した雰囲気のルピアと、そんなルピアの固さを解すように明るく振る舞う檸檬と、緊張しているんだか素なんだかわからない様子のゆかり。

 それぞれが全く違う挨拶をした3人へと、コミュニケーション能力が高い零が代表として声をかける。


『遊びに来てくれてありがとうございます。お三方がいるお陰で、リスナーたちも盛り上がってくれてますよ』


『いやいや、こっちこそ誘ってくれてありがとうございますって感じだよ! 本番もそうだったけど、大会の準備期間から結構バチバチだったじゃん? 嫌われててもしょうがないかな~とか思ってたから、こうして配信にゲストとして呼んでもらえて凄く嬉しい!』


『夕張先輩なんて本当に大丈夫かな? って何度も言ってましたもんね。自分が参加したせいで魚住さんたちに迷惑が掛かるんじゃないかってずっと心配してました』


『ちょっ、ゆかり!? あんたさらっと暴露してんじゃないわよ!!』


【ルピアって何だかんだで周囲の評価気にするよな。いや、もちろんいい意味でだけどさ】

【だ~いじょうぶだって~! こっちには対炎上のプロである蛇道枢がいるんだぜ? この程度じゃ燃えない、燃えない!】

【砂で火炎瓶撃ち抜ける正真正銘のプロフェッショナルだからな。そこは安心だ】

【(なお、燃やす側のプロが大量に集まっていることは考えないこととする)】


『よかったね、枢くん! みんなからも信頼されてるよ!』


『あのね、芽衣ちゃん。これは信頼されてるんじゃなくて、おもちゃにされてるって言い方が正しいんだよ?』


 普段通りの扱いをされている零に対して有栖がおどけた様子でそう言えば、零もまた丁寧なツッコミを入れて共演者とリスナーたちの笑いを誘う。

 数日前までお互いの間に漂っていた緊張感を払拭するように笑った後、陽彩が少しだけ固い口調でルピアへと話しかける。


『あの、えっと……こんばんは、夕張さん。こうして夕張さんとお話できる機会ができて、本当に嬉しいです。今日はどうぞよろしくお願いします!』


『……こちらこそ、よろしくお願いするわ。私もあなたとお話できて嬉しいわよ、しずく。それと、優勝おめでとう。ナイスゲームだったわ』


 激闘を繰り広げたライバルからの温かい言葉に緊張が解れたのか、ルピアもまた親しみを込めて彼女へと挨拶を返す。

 出会い方こそ最悪に近しい自分たちであったが、ゲームの中で本気でぶつかり合うことでお互いへの理解を深め、距離を縮めることができた。


 敵視していたライバルから、良きゲーム仲間へ。

 陽彩への見方を変え、彼女と同じく相手を尊敬するようになったルピアのことをリスナーたちも喜んで迎え入れている。


 沢山の話したいこと、聞きたいこと、これからしていきたいこと……そういったことを互いに話し合う陽彩たちの会話は時が経つにつれて弾んでいった。

 炎上による余裕のなさと対立を煽る存在を抜きにした純粋な話し合いは予想以上に盛り上がり、その最中にゆかりが有栖へと大声でこんなことを言う。


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