ルピアの、焦り



『南門の方に盾張りながら入ろうとしてるチームがいる! 足止めで弾ばら撒くわ!』


『内部に突入させなければ他のチームが背後からそいつを撃ってくれるはず! 足止めに注力しつつ、倒せる敵だけ倒して!』


『空っ! ルピア先輩、空を飛ぼうとしてる敵がいるっす!!』


『方角はっ!? 位置情報、もっと詳しく教えてっ!』


 ゆかりからの報告を受けたルピアが即座に空中を飛んで壁を乗り越えようとしている敵へとスナイパーライフルの照準を合わせる。

 そのまま、覗き込んだスコープの中に捉えた敵に対して数発の銃弾を浴びせてやれば、体力が尽きたそのチームの面々は高く飛び上がった状態からどこへと移動することもできないまま、地上へと落下していった。


『流石ルピア! エイム抜群じゃんっ!!』


『軽口叩いてる暇があったら防衛に精を出しなさい! ゆかり、あんたもよ!!』


『う、うっすっ!!』


 中央エリアを囲む高い壁を越えるための手段として、ああいった移動用の必殺技ウルトを使用するチームが出てくることは予想していた。

 そういった敵に対処し、その目論見を打ち砕くことができたことに多少安堵しているルピアであったが、完全に気を抜くことはできない状況だ。


 一見、有利ポジションを抑え、他のチームが内部へと突入することを上手く防げているこの状況は、彼女たちが思い描いた展開通りに動いているように思える。

 確かにこの展開の大筋はルピアが想定していた通りのものではあるのだが、何もかもが彼女の思い通りに動いているわけでもない。


『ちっ……!!』


 また1つ、部隊が壊滅させられたことを知らせるログを目にしたルピアが顔をしかめながら舌打ちを鳴らして苛立ちの感情を露わにする。

 おそらくは、今しがた自分が撃ち落とした部隊が落下先で別チームに倒されたのだろうと考えた彼女は、また別の敵へと狙いを定め、引き金を引きながら焦りを募らせていく。


(思っていたよりもが稼げてない。遠距離で足止めしつつ他のチームたちが潰し合ってくれる展開を望んではいたけど、ここまで確殺が取れないだなんて……!!)


 スタバトのようなバトルロイヤル系FPSゲームの大会において、最終的な順位を決めるために重要視されている要素は2つある。

 1つはその試合の中でどれだけ生き残れたかという、【ゲーム内の順位】。

 もう1つがその試合中にどれだけの敵を倒し、脱落させたかを示す【キルポイント】だ。


 極端な話であり、ほぼあり得ない話ではあるが、一切の戦闘を行わずに最後まで生き残って1位を取ったチームとそのゲームに参加したプレイヤーの大半を撃破して2位になったチームがあったとしよう。

 その場合、1位を取ったチームは【ゲーム内の順位】で得られるポイントは最大になるが、【キルポイント】に関しては0ということになってしまう。

 逆に、2位のチームは前者は1位のチームより少なくなってしまうものの、後者に関しては彼らとは比べものにならない量のポイントを獲得できる。


 この2つの得点を合計して優勝チームを決めるというのがスタバトの大会における通例であり、各チームはこういった状況を頭に叩き込んだ上でそれぞれの作戦を考え、行動しているわけだ。


 ただ、ここで1つ厄介な要素として、キルポイントというのは相手の体力を0にした者にのみ与えられるポイントだというものがある。

 わかりやすくいうならば、100あるHPの内、99を零が削ったとしても、最後の1ポイントを有栖が削って相手にトドメを刺した場合、キルポイントが入るのはHPの大半を削った零ではなく有栖だということだ。


 こういった相手のHPを完全に削り切ってトドメを刺すことをというのだが、今のルピアたちはこの確殺を獲れていない。

 中央エリアに侵入しようとしている敵を迎撃し、そのHPを削ることができても、距離が離れすぎているためにトドメを刺すことができないからだ。


 自分たちが有利なポジションから一方的に攻撃を加え、そうしてHPが減った敵を背後から他のチームが撃破することで乱戦を引き起こすという狙いはルピアにもあった。

 ただ、その狙いが上手くいきすぎているが故に自分たちがあまりキルポイントを稼げていないことが、彼女が感じている焦りを加速させてもいる。


(もうそろそろ、この場所での迎撃を止める頃合いなのかもしれない……攻撃の手を緩めて、他のチームたちをある程度消耗させた上で中央エリアに誘い込んで、そいつらを狩る戦法に切り替えてキルポイントを稼ぎにいくべきかも……)


 檸檬が放つ、索敵用のオレンジの光が一定範囲を照らす様を見ながら自身のオーダーを確認するルピア。

 予想以上にキルポイントを獲得できていない現状に焦る彼女であったが、その迷いを振り払うように首を振った彼女は、また新たな敵へとスナイパーライフルの弾をお見舞いしながら自分に言い聞かせるように強く思う。


(これでいい。まだこのポジションを捨てる理由はない。確かに予想よりもポイントを稼げていないかもしれないけど、最初の戦いである程度のキルは取れた。焦って中途半端な動きをしたら、逆にテンポが悪くなるだけよ!)


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