話し合いって、何をするんだ?
「謝罪と今後の話し合い、かぁ……確かにまあ、後者は必要なことだよな……」
配信を終えた部屋の中、天井を見上げながら昼間の出来事を振り返った零がひとり呟く。
わざわざ謝罪のためだけに【CRE8】の事務所に足を運ぶと聞いた時は驚いたが、改めて考えてみると大事なのはそちらではなく【ペガサスカップ】に向けての話し合いの方だということがわかる。
零たちが参加する場合はもちろんのこと、辞退するにしてもできる限り双方にダメージが行かない方法を考える必要があり、そういった意味でも会議は行うべきだろう。
この話し合いの主役はどちらかといえば問題を起こした緑縞穂香ではなく、彼女から被害を受けながらも大会参加の意思を表明している夕張ルピアの方だ。
穂香の方は本当に謝罪を行うため、自分のしでかしてしまったことへの説明責任を果たすためだけに話し合いに参加するわけであって、少なくとも【ペガサスカップ】関連で彼女にできることは何もない。
今、【VGA】側がメインで考えているのは夕張ルピアと彼女のチームのケアについてであり、同じVtuber組として参加する零たちへの被害を軽減する方法だ。
針の筵、と言ってしまうと些か過激な表現にも思えるが、実際にその通りとしか思えない穂香の境遇に、零は彼女の自業自得とはいえ同情の念を抱く。
たった今、自分が行った注意喚起が【VGA】側の負担を軽くできればと思いながら、過激な行動を取るアンチを【CRE8】のタレントから遠ざけた結果、本来の火種を抱えるあちらの方に追いやっただけかもしれないと、自分自身の行動がマズい事態を引き起こす可能性があることを自覚している零は、何ともいえない渋い表情を浮かべていた。
こちらを立てればあちらが立たぬ、という展開になることは重々に理解してはいるものの、やはりどちらにも得がある展開にしたいという欲は彼にだってあるようだ。
それでも、自分は陽彩や有栖の夢を守るために必要なことをしたのだと考えを切り替えた零は、座っている椅子の背もたれに寄りかかりながら深くため息をつく。
「どんなことになんのかな、明日の話し合いは……」
緑縞穂香がリーダーを務めていた【VGA】Aチーム及びスマーフ&ブースト行為に手を染めたプロゲーマーが率いるチームの大会参加辞退……それが零が認識している、今回の炎上で起きた目に見える形での影響だ。
ファンが杞憂民と化したり、アンチが活動を活発化させたりという部分もあるが、それは大会そのものに影響を及ぼしているわけではなく、Vtuberである零たちのみに及ぼされるものと考えるべきだろう。
ここからどんな展開が待っているのかは零には想像もつかないが、少なくとも陽彩には後々に訪れる不都合を思い当っているようだ。
陽彩とは解散する前にほんのちょっとだけ話した程度ではあったが、その短い時間の中でも彼女の口からはスクリムへの不参加やランドマーク争いに参加できないといった発言が飛び出していた。
それが何を意味するのかは零にはわからないが、とても重要な何かであることは間違いないのだろう。
そういった不都合をどこまで軽減できるか? そして、どうしても拭い切れない問題に対してはどう対処するのか?
明日の会議では配信者、Vtuberとしてだけでなく、大会に臨むゲーマーの立場からも話をしなければならないことに対して、零は少しだけ緊張を覚えていた。
「蓮池先輩をフォローするために参加するつもりだったんだけどな……なんか、逆に面倒かけちまいそうだ」
気負う陽彩を支えるはずが、逆に陽彩に支えてもらうような事態になることだけは避けなければと思いながら、椅子から立ち上がる零。
配信部屋の電気を消し、小さく伸びをした彼は、一抹の不安を抱きながらも明日の話し合いに万全の状態で臨むため、休息を取るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます