大したもんだぞ、このチーム


「ラスト1パーティ、東の方向に3人固まってます! まだちょっと距離ありますね!」


『了解! 今の内に安全エリアの中央まで詰めて有利ポジション取っちゃおう! ひちゅ、羊坂さんもついて来て!』


『は、はいっ!!』


【チャンピオン目指して頑張れ~っ! あともう少しだよ!】

【十分勝てる可能性ある。むしろ、こっちが有利】

【3人とも、ファイト!】


 試合も大詰め、零たち3人と残りもう1チームの一騎打ちとなった戦いは、最終決戦に向けて大きく動き出していた。

 コメント欄の盛り上がりも最高潮で、リスナーたちも楽しく配信を観てくれているようだ。


 索敵スキルを持つ零が相手の位置を補足し、その情報を基にリーダーである陽彩が作戦を決める。

 有栖は一歩引いた位置で2人に追従しつつ、様々なサポートスキルを活かして援護を行う……というそれぞれの役割を決めての零たちチームの動きは、かなり良い形で機能し続けていた。


「見えた見えた! 坂のちょい下にいます!」


『シールド張りました! 危なくなったらこの後ろで回復してください!』


 迫る危険エリアから逃げるように安全圏の中央まで移動した零たちは、緩い坂の下に最後の敵である3人組を見つけ出すと一気に勝負に出た。

 先陣を切っていた零が愛銃であるコブラから弾丸をばら撒き、その後方で有栖が敵の攻撃を防ぐ長方形のシールドを張っての安全地点を作り出す。


 アサルトライフルの弾丸を打ち切り、リロードのために陽彩とスイッチしつつ後方へと下がった零は、その最中も敵の動きに注意を払い続けていた。


(きっちぃ~っ! わかっちゃいたけど、個人戦とは要求される動きが全く違うな……!)


 個人戦と違い、チームワークや全体での動きの良さを要求される団体戦は、そういった仲間との連携を如何に上手く取り続けるかという部分が肝になる。

 今も自分が戦闘開始の合図を出すと共に有栖がシールドを張り、絶え間なく攻撃を続けるために弾倉を空にしてしまった自分に代わって陽彩が前に出て……といった形でのチームワークを発揮している3人だが、こういった動きを常に意識し続けなければならないというのは結構神経を使うものだ。


 自分1人の失敗が、チーム全体の敗北に直結する。

 そういったプレッシャーを感じながらプレイするゲームは心臓がぐっと鷲掴みにされるような苦しさがあるものの、連携が上手くいった時なんかは言葉にできないくらいの爽快感を覚えることも確かだ。


 このひりついた感覚が、その先に待っている勝利の快感が、バトロワ系ゲームの醍醐味。

 そりゃあ、どっぷり嵌る者が続出するはずだと、2週間ずっとスタバトをプレイし続けていた零が、そんなことを考えていると――


「げっ!? やばっ――!!」


 眼下に見える敵の1人の手から、何か赤く光る物体が投擲されたことを見て取った零が焦りと驚きに小さな呻きを上げる。

 敵が投げた物体の正体は火炎瓶……所謂、投げ物系の武器というやつだ。


 有栖が張ったシールドは発生中はその後方に攻撃を通さない仕様になっているが、それはあくまでシールドに当たる攻撃を限定とした効果をとなっており……キャラクターよりも少しだけ高い壁の上を飛び越え、そのまま落下してくる手榴弾のような武器には無力となる一面も有していた。

 このままでは安全地帯として用意したこの壁の背後に火炎瓶が発した炎が広がり、自分たちはこんがり焼かれてしまうと焦った零が前方へと飛び出そうとした時、攻撃のために前に出ていた陽彩が小さな声で呟く。


『大丈夫、そのままでいて』


 そう、一言発するや否や、エイムを敵から視認した赤い光へと移した彼女がアサルトライフルの引き金を引く。

 ダダダダダ、という発砲音が連続して響き、放たれた弾丸の内の1発が放物線を描く火炎瓶を捉えた瞬間、空中でそれが大爆発を起こした。


 着弾予定地点よりもずっと手前で爆発した投擲物による脅威が消え去ったことを確認した陽彩は、残弾数とこれまで積み重ねてきた敵のダメージを確認すると攻撃を続行判断を下したようだ。

 小さく息を吐き、火炎瓶を投擲したばかりの無防備な敵にエイムを定めた彼女は、弾倉の中の弾丸を全てその相手へとお見舞いしてやった。


『まず1人……一気に決めるよ! 2人とも、ボクについて来て!!』


「う、うっす!」


『はいぃ!』


 1つ目の武器の弾丸を撃ち切ると共に狙っていた敵をダウンさせた陽彩は、自分たちと相手チームとの間に生まれた数の利を活かすべく一気に勝負を畳みに動く。

 リロードを終えた零と、サポートに徹していた有栖を引き連れて敵との距離を詰めた彼女は、2つ目の武器であるサブマシンガンを手に取ると跳躍し、相手の頭上からそれを斉射してみせた。


『このまま後方に跳ぶから、2人はそのまま距離詰めつつ射撃を! 挟み撃ちで決めちゃおう!!』


「了解っす! 芽衣ちゃん、俺と一緒に右の奴狙って!」


『わ、わかった!!』


 アクロバティックな動きで敵の頭上を取り、多少粗めのエイムではあったがばら撒いた弾丸の半分以上をヘッドショットで残る相手に直撃させた陽彩は、そのまま相手の背後を取ると今度は正確に狙いを付けながら銃の引き金を引いた。

 同じく、前方から相手チームとの距離を詰め続けていた零と有栖もまた、各々の獲物を手に攻撃を仕掛けていく。


 お互いに体力とアーマーがMAXで、弾丸にも余裕がある状況だが……この戦いには、3対2という明確な数の差が存在していた。

 そして、前方と後方からの挟み撃ちという双方に対処しにくい盤面を作られてしまった以上、相手チームが自分たちの不利を覆すことは相当に困難になる。

 しかも敵チームには熟練のスタバトプレイヤーである陽彩がいるのだ、プレイスキルに頼っての逆転も非常に難しい。

 

 先に敵を補足する、有利なポジションを握る、先手を打って攻撃を仕掛ける、相手の反撃を確実に潰す、敵チームのダウンを見るや否や一気に詰めて勝負を決めにかかる。

 そういった、得た有利を1つずつ活かして更に大きな有利を掴んでいく陽彩の判断のお陰で勝利まで目前に至った零は、有栖と共に狙っていた敵へと銃弾を雨あられのように叩き込み、そのHPを根こそぎ削り取ってやった。


【VICTORY YOU AER CHAMPION!!】


「いよっしゃ~っ!! 完・全・勝利っ!!」


『か、勝てて良かったぁ……!!』


『お疲れ様。2人とも、凄く良い動きだったよ!』


【88888888888888888】

【GGWP! いいチームワークだ!】

【ナイスオーダーだウオミー! 枢と芽衣ちゃんもよくついていった!】

【優勝おめでとう代¥10000】『Pマンさん、から』

【チャンポンおめおめ¥5000】『ニヤニヤニーヤさん、から』


 時を同じくして陽彩も最後の1人の敵を仕留め、これを以て試合が終了し、画面には零たちの勝利を告げる派手な文字とエフェクトがババーンと表示された。

 見事なチームワークで勝利を掴めたことを喜び、ミスなく試合を終わらせられたことに安堵し、お互いの健闘を称え合う3人のことを、リスナーたちもまた祝福してくれている。


 大量のコメントやスパチャが飛び交う中、改めて勝者となった零たち3人のキャラクターと総合ダメージなどの情報が記載されたデータをゲームが表示する中、そういった熱狂がある程度落ち着いたことを確認してから、陽彩が口を開いた。


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