エピローグ・おはよう2期生



「ふか~っ! くか~っ! すやすや……」


「んぐぐぐぐ……ね、寝苦しい、息苦しい……」


「ふあぁぁぁ……っ! あ~、よく寝た~! みんな、そろそろ起きるさ~! 朝ごはんの時間だよ~!」


 それから数時間後の朝7時。普段の朝活配信の時間に合わせて起床した沙織が、ぐぐっと大きく伸びをしてから同期たちに声をかける。

 まだ欠片も目を覚ます気配のないスイと、そんな彼女に抱き締められて苦しそうにしている天を揺すって起こした彼女は、そこで零と有栖の姿が見当たらないことに気が付いたようだ。


「お、おはよう、沙織……! あの後、結局全員寝ちゃったのね」


「そうみたいだね。でも、零くんと有栖ちゃんの姿が見当たらないさ~」


「なんですって!? まさかあの2人、私たちが寝静まったのをいいことに、あんなことやこんなことをして過ごしてるんじゃないわよね!?」


「あはは、それはないよ~! 私、有栖ちゃんがスイちゃんと同じくらいに寝ちゃったこと覚えてるし、抱き枕にしてた覚えもあるしね~! そもそもあの零くんがそう簡単に女の子に手を出すとは思えないさ~!」


「すや~っ、すや~っ……」


 2人がいないという情報を聞いた天が一瞬にして繰り広げた不埒な想像を笑い飛ばす沙織。

 未だに夢の世界にいるスイの腕から脱出した天は、ふんすと鼻息を荒げると腕を振り回しながら廊下に向けて歩き出した。


「まさかと思うが、別の部屋でイチャコラしてるんじゃないだろうな~!? もしくは零が自宅にお持ち帰りか? そんなスキャンダル、神様は許してもこの秤屋天が許さな……」


「ん? 天ちゃん、どうかしたの?」


 呪いの言葉を吐きながらドアを開けた天がその詠唱をぴたりと止めて硬直する様を目にした沙織が訝し気に彼女へと問いかける。

 そうすれば、天は半笑いの楽しそうな表情を浮かべながら振り返り、廊下の先を指差してみせた。


「見て、見て! あれ、あれっ!」


「ん~……? ああ、なるほどね~!!」


 天の横に並び、彼女が指差すものを見た沙織が納得したように頷きながら笑みを浮かべる。

 薄暗い廊下の先、玄関とリビングのちょうど中間地点に当たるそこには、1つの毛布に寄り添いながら包まっている仲睦まじい様子の零と有栖の姿があった。


「んっ……」


「すぅ、すぅ……」


 背後の壁にもたれ掛かり、静かに瞳を閉じている零と、そんな彼に寄り添うようにして体を預けて寝息を立てている有栖。

 どうにも無防備で、それでいて深い信頼関係を感じさせる2人の様子を目にした沙織と天は、顔を見合わせて同時に噴き出した。


「いや~、エロいことはしてないと思ったけど、まさかこんな大胆なことをしてるとはね~……! どっちがどう誘ったんだか?」


「仲良しこよしさんでいいことだよ~! もう少し、このまま寝かせてあげようか。多分だけど、零くんの方はちょっと前に寝付いたんだろうしさ~」


 寄り添って眠っている2人を起こさないよう、小さな声で天と話した沙織が慎重にリビングのドアを閉める。

 そうした後、窓を覆う厚手のカーテンを開けた彼女は、差し込む日差しを浴びて気持ち良さそうに伸びをしてから相棒へと言った。


「折角だし、今日はみんなで朝ごはん食べよっか! お姉さん、腕によりをかけちゃうよ~っ!」


「やったぜ! じゃあ私は……邪魔にならないよう、隅っこの方で大人しくしてるわね!」


「ふが~っ、くか~っ……」


 キッチンで冷蔵庫の中身を確認する沙織と、自身の壊滅的な料理スキルを理解しているからこそ手伝わないでいる天。

 未だに目を覚まさないスイの元気な寝息が聞こえるリビングで、年下の同期たちの普段は見ることのできない一面を目の当たりにした彼女たちは、ちょっとした愉快な気持ちを抱くと共に気持ちのいい朝を迎えるのであった。




 ……なお、余談ではあるが、沙織が作った朝食をスイが【みんなで一緒に花咲さんが作ってくれた朝ごはん食べる!!】というコメントと一緒に投稿したことで、蛇道枢の下には【たら姉の手料理をご馳走になるとか羨ましいことしてんじゃねえ】や、【まさかとは思うが、本当にパジャマパーティーに参加して一夜を共にしてないよな?】や、【食べるんだったら芽衣ちゃんを食べろ】といったリスナーたちからのコメントが殺到した。


 まあ、要するに……今日もまた、蛇道枢は元気に炎上するというオチを迎えたということである。

 この事態に直面した枢は寝不足も相まって怒る気力もなく、解散して自宅に帰った後にベッドに倒れ込み、泥のように眠ったそうな。


 それでも、やっぱりパーティーに参加するんじゃなかった……という感想が彼の口から出なかったことを見るに、零もなんだかんだで同期たちと過ごした夜を楽しんでいたようだ。

 目を覚ます頃には炎上は盛り上がりを見せているだろうが……それはそれとして、楽しかった夜を思い返しながら眠る今の彼の横顔は、どこか幸せそうなものであった。



――――――――――――――――――――


本日まで長い短編に付き合っていただき、本当にありがとうございました。

これにて第3部の短編集の投稿は終わりにして、明日より第4部に入らせていただきたいと思います。


詳しいことは近況ノートにまとめると思いますので、そちらをご一読ください。


それと、3部&3部短編に登場したキャラクターたちの紹介もこの後投稿する予定で

すので、気になった方は読んでやってください。

愛鈴、リアの配信タグ等々の情報も色々載せてありますので、多少は楽しめると思います。


改めまして、短編とは名ばかりの長いお話に数か月付き合っていただき、本当にありがとうございました。

明日からはまた現代ドラマしているお話を楽しんでいただけるよう、頑張っていきます!

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