これからの、CRE8
「お疲れ様です、社長。花咲さんから朝の配信が終わったとの報告がありました。今日はまた夜から配信を行うそうです」
「ああ、わかった。報告ありがとうね」
社内通話で沙織のマネージャーとなった社員から報告を受けた薫子は、がちゃりと音を立ててその通話を切ってからPC画面へと視線を向けた。
画面には各タレントに配置されたマネージャーからの報告と配信予定が記載された日程表が映っており、内容を確認した後、薫子はマネージャーたちへと情報共有のためにそれをメールで送信する。
そこから手帳を開いて本日の予定を確認した彼女は、小さく息を吐くと共に椅子から立ち上がると、会議室へと向かって歩いていった。
「産業医の選定と各人の夏休みの日程配分に秋から始まる商品コラボの会議か……決めることはそこそこあるね」
会社の業務だけでなく、所属Vtuberの休暇の日程や先の予定に関しての内容など、会議で話すことは山ほどある。
未だにファンたちからの不信の声が見受けられる今だからこそ、誠実に着実に成果と変化を見せることで再び信頼を勝ち取るべきだと判断した薫子は、同じビジョンを社員たちと共有して会社の運営に臨んでいた。
マネージャーの配置等のすぐに出来ることには着手したが、まだまだすべきことは山のようにある。
これを1つずつ確実にクリアしていこうと意識を新たにした薫子が会議室の扉を開ければ、準備を行っていた数名の社員が丁寧に頭を下げて挨拶をしてきた。
「お疲れ様です、社長。会議の準備は終わってますので、人が揃えばいつでも始められますよ」
「ありがとう、助かるよ。おや、これは……?」
先んじて会議の支度を済ませてくれた彼らに感謝した薫子は、机の上に広げられているポスターを目にすると嬉しそうに微笑んだ。
「次のコラボで使うポスターの決定稿です。ついさっき、完成したものが届いたんですよ」
すっ、と道を開けながら説明する社員に小さく頷きつつ、改めてそのポスターを確認する薫子。
数種類の絵が描かれたポスターの内、13名の所属タレントが並んでいるポスターをじっと見つめた彼女は、感慨深そうに息を吐きながら呟きを漏らす。
「……小さいようで、大きくなったもんだ。内側から見てると、そんなことにも気が付かなくなっちまうんだね」
今より約半年前に会社を立ち上げ、8名のVtuberをデビューさせた時は、まだこの先がどうなるかわからない状態だった。
単純なビジネスとしてだけではなく、バーチャル世界という新たな可能性に夢を見た若者たちを応援するために作り上げた【CRE8】という会社を生き延びさせることに必死で、ただただ前に進んできたが……気が付けば、自分たちは随分と成長していたようだ。
人気が増え、所属タレントの数も増え、出来ることが増え……そして、それに伴って責任も増えた。
会社として、タレント事務所として、人生を預かっているVtuberたちを守るためには様々な支度が必要だということもわかった。
ここから改めて、彼らの夢を応援するための体制を整えよう。
それが自分たち裏方の人間のすべきことなのだから。
輝く13の星座がなんの憂いもなく己の内側にある光を放ち、夢を追い続けられるような事務所を作り上げるのだと思いながら、会議室に揃った社員たちの顔を眺めた薫子が言う。
「さあ、会議を始めようか。【CRE8】をより良い会社にするために、ガンガン意見を出しとくれ!」
それぞれが椅子に座り、議題が提出されれば、活発な話し合いがすぐに始まる。
表も裏も、ようやくいい形になり始めたなと考えた薫子であったが、これもまたスタートでしかないと自分を戒めると共に、社員たちとの話し合いに自らも参加していくのであった。
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