歌しかないなら、歌わせろ
【本当に大丈夫なのか、枢……!?】
【流石にちょっと不安だわ。いや、ちょっとで済む時点で結構凄いんだけどさ】
【リア様と一緒に再炎上みたいなことにならなけりゃいいんだが……】
そんなこんなで迎えたリア・アクエリアスと蛇道枢のコラボ配信の待機枠では、配信の開始を待つリスナーたちの不安に満ちたコメントが数多く寄せられていた。
つい最近燃えたばかりの女と、常に火を纏っている男が初対面した上でコラボ配信をするだなんていうのはまさに危険過ぎる組み合わせというやつで、下手をすればお互いが跡形もなく吹き飛びかねない。
炎上の切っ掛けになったほぼ喋らないリアの問題に関しても解決しているとは思えないし……と、リスナーたちが様々な心配事を抱える中、配信の画面が切り替わり、チャンネル主とそのコラボ相手の立ち絵が彼らの前に表示された。
『おいっす~、待たせてごめんな。今日も今日とて配信やってくぞ~! ……で、今回はゲストを呼んでるんだ。自己紹介、お願いします』
『……【CRE8】2期生、リア・アクエリアスです。今日は、よろしくお願いします』
【リア様! 今日もふつくしい……!!】
【くるるんもコラボした相手が増えてきたね。これで4人目だ】
【マリちゃん加えると5人になる模様】
【大丈夫なのか? また聞かれたことにぽつぽつ答えるだけのほぼ無言配信になるんじゃないの?】
零が会話した中で、最も長い台詞を口にしたスイが機械的な自己紹介を行う。
彼女を歓迎するリスナーたちのコメントが多く寄せられているが、中には蛇道枢とコラボすることになった彼女の反応を不安視する声や、敵視するようなコメントもちらほらと見受けられる状態だ。
無理もない、まだリア・アクエリアスが炎上してから1週間程度の時間しか過ぎておらず、彼女のよろしくない言動を快く思っていないファンも多く存在しているのだから。
愛鈴とのコラボ配信でやったような無言モードへの突入を、今回蛇道枢との配信でもやるのではないか……という再び炎上しかねない言動をリアが見せる可能性を危惧するファンたちが見守る中、零は今回の配信の企画について説明していく。
『え~っと、実はな、今日の配信でなにをするのかっていうのは、アクエリアスさんにも話してないんだよ。今から企画内容を発表するんで、アクエリアスさんにはぶっつけ本番でそのお題に挑んでいただきます!』
『……はい、わかりました』
感情を感じさせない平坦な声で返事をするスイの反応に、コメント欄がよろしくない意味での盛り上がりを見せ始める。
また愛鈴の時と同じことを繰り返すのか……という彼女への罵声コメントが目立つようになってきた配信の中で、零はそんなものをまるで気にせず、スイとリスナーたちの前に彼女が挑戦するお題を表示してみせた。
『今回、アクエリアスさんに挑戦してもらうのは~……これだっ!!』
『……これ、は……?』
『【音域確認の歌~あなたはどれだけ高い声で歌える?~】……アクエリアスさんも聞いたことないっすかね? タイトルの通り、人間の限界に挑戦するレベルの高音で歌を歌うってだけの曲ですよ。今からアクエリアスさんには、これに挑戦してもらいます。俺たち2期生の中でダントツに歌が上手いって話ですけど、その実力は如何なるものなのか? 生配信でチェックしてみようって企画です!』
【ほう、なるほど! 考えたなくるるん!】
【確かにリア様がどれだけ高い声で歌えるのか気になるかも!!】
『歌の、挑戦……どれだけ高い声で歌えるかの確認、ですか……』
自己紹介よりも長い台詞を口にしたスイの反応と、コメント欄で騒ぐリスナーたちの盛り上がりを確認した零は、自分の策が上手く進んでいることに画面の前でほくそ笑んだ。
これこそがスイとのコラボ配信で彼女と一緒に炎上しないために用意した、零の策。
彼女が歌にしか興味を示さないのなら、歌うこと以外に対しての反応が薄いというのなら、こちらからそれに歩み寄ってやればいいだけだ。
ネタであり、挑戦でもある歌の企画を持ち込み、スイにそれを行わせる一方で、自分はそれに対しての反応を見せたりして配信を盛り上げればいい。
挑戦が上手くいけばリスナーたちはスイことリア・アクエリアスの歌唱能力の高さに感嘆するだろうし、失敗したとしても彼女が普段は見せないような可愛らしく面白おかしい姿を見られるのだから、それはそれでリスナーたちも盛り上がってくれるだろう。
無理に雑談やゲーム実況といったアウェーの場にスイを引き摺り出す必要はない。
零に余裕があるのだから、彼女が持ち味をのびのびと活かすことが出来る場を作り上げてやればそれでいいのだ。
女性恐怖症の同期に、自由奔放が過ぎるお姉さん、更にはメンタルが残念過ぎる
要は零にとっても蛇道枢にとってもフォローというのは炎上と並ぶお家芸のようなものであり、リスナーたちもまたそれをよく理解しているのだから、スイが歌という武器を存分に振るう中で、零もまた誰に遠慮するわけでもなくフォローという特技を思う存分に活かすことが出来る状況になっているのである。
リア・アクエリアスのファンにとっては彼女の歌を聞きつつ、普段とは違った推しの姿を楽しむことが出来る一風変わった場となっており、蛇道枢のファンから見ても初絡みの問題児をいつも通りにフォローする彼の姿を眺めることが出来るという、どちらにとってもおいしい状況に仕上がっているのだ。
(逆に考えるんだ、喋らせなくたっていいさ……ってな。そんな連発出来る手じゃあねえが、リスナーたちの三瓶さんへの悪印象を吹き飛ばすにゃあうってつけの策だろ!)
どうやってスイに歌以外のことをさせるのか? という方法ではなく、スイを喋らせずとも炎上を避ける方法はないか? という逆転の発想の末に得たこの答えは、現在打てる手の中では最上策に位置しているもののはずだ。
自分と彼女の強みを同時に活かすことの出来る企画を堂々と提案した零が、試すような視線をPCの画面に映るリア・アクエリアスへと向ける中、その挑戦的な眼差しに気が付いたのか、彼女の魂であるスイが静かながらもはっきりとした声でこう言い切る。
『……わかりました。やってみます』
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