第73話「追加コンテンツ」

 アレから家に帰って、そのまま2階に上がると、VRヘッドギアを頭に装着して準備を完了。

 すると丁度アップデートが終わったらしく、蒼空は即座に「ゲームスタート!」と口にして〈アストラルオンライン〉を起動させた。

 頭がまるごとスッポリ入るヘッドギアの機能で、安全チェックが済むとユーザーの脳に接続が開始される。

 接続が完了すると、装着者である蒼空に仮想の五感情報が与えられ、眼の前に仮想空間が生成された。

 無事にログイン出来ると、蒼空は冒険者ソラとして〈ヘファイストス王国〉で目を覚ます。


 この国のテーマは、鍛冶の神の名を冠しているだけあって、殆どの建物が職人の店である。

 しかも各武器と各防具のカテゴリー全ての専門店が揃っていて、職人プレイヤーが目を輝かせて観光しているのをよく見かけた。

 周囲に漂っているのは鉄の臭い。それと鍛冶職人〈スミス〉達による、金属を打つ力強いつちの音。

 立ち並ぶ建物のデザインはやはり中世のヨーロッパがベースになっていて、あちらこちらにある煙突からはモクモクと煙が上がっている。

 自然を愛する風精霊達が見たら、憤慨ふんがいしそうなくらいの環境デストロイキングダムだ(そもそも周囲は溶岩地帯だが)。


「うおー! なんだこの神アップデートは!?」


「急いで近くのスキルショップに行こうぜ!」


「おっと」


 他の冒険者が、一気に多数ログインしてきたのを見て、思わずソラは身を隠す。


 隠れた理由は単純なもので、見かけられたら確実に声を掛けられるから。


 リアルと同じ銀髪碧眼の少女の姿はとても目立つし、それ以上に自分の名前は有名だ。

 他の冒険者の目を避ける為に黒いコート〈ステルス・ダークコート〉のフードを目深まで被り、目立たなさそうな通路の壁際に立つと、コートの隠蔽(いんぺい)スキルで周囲から身を隠す。


 隠蔽率は60%


 凝視(ぎょうし)されなければ、誰が立っているのか分からないパーセントだ。

 先ず持って看破かんぱされる心配は、要らないだろう。


〘おはようございますマスター。運営よりアップデート内容のお知らせです。ごらんになられますか?〙


 一息つくと、タイミングをうかがっていたのか、全冒険者の中でもオレしか所有していないユニークサポートの〈ルシフェル〉が、メニュー画面からお知らせ内容を表示してくれる。

 相変わらず便利なサポートだな、と思いながら、先程同じプレイヤーが叫んでいた例のアップデート内容に目を通した。


――――――――――――――――――――――


 【アップデート内容①】


 プレイヤーのさらなる個性を高めるために、スキルショップを実装しました。


 スキルショップには、その国でしか買うことのできない多種多様なスキルが置いてあり、今後はプレイヤーの好みで自分だけのキャラクターにカスタマイズする事が可能です。

 購入したスキルは【攻撃】【防御】【補助】にそれぞれ三つまでセットできて、変更する際にはスキルショップの店員に話しかけてください。

 スキルは、世界の共通通貨【エル】を使用する事で購入する事ができます。


 【アップデート内容②】


 武器の強化を実装。

 それに伴い、武器に下記の項目を付け加えます。


 【強化回数】


 【強度】【鋭利】【加重】【軽減】


 武器の強化は〈鍛冶職人〉に、エルと専用の素材を提供することで可能となります。

 武器に追加されたスキルの詳細は、下記に記します。


 【強度】耐久性の向上。


 【鋭利】クリティカル率の向上。


 【加重】攻撃力の向上と重量の増加。


 【軽減】攻撃力の減少と重量の軽減。


 アップデート内容は以上です。

 快適な〈アストラルオンライン〉のプレイをお楽しみ下さい。


――――――――――――――――――――――


 スキルショップと武器強化の実装だと!?


 目を輝かせたソラは、直ぐマップを開いて確認。

 するとプレイヤーの混雑を避ける為か、このヘファイストス国には、合計五つものスキルショップが配置されていた。


 正にこれは、神アップデート。


 今まで職業と使ってる武器、或いは特殊な条件でしかスキルを取得できなかったというのに、そこに自由で追加できるスキルが増えると、戦略の幅が大きく広がる。


 果たしていくらするのかは、このお知らせでは分からない。


 だけど、スキル一つで出来る事が増えるなら、何万エルでもこいやという気持ちになる。


 ふふふふふ……新しいスキルか。


 いけないいけない、よだれが出てしまう。

 特化型かバランス型か、弱点を補う方向性で行くか。

 それに合わせて、武器の強化の方向性も考えないといけないので、これで今までのアスオンの常識が変わるのは間違いない。


 ソラはステータスを開くと、現在の自分の現状を全て確認する。


――――――――――――――――――――――


 【冒険者】ソラ

 【レベル】50

 【職業】付与魔術師

 【スキルレベル】77

 【HP】1000

 【MP】500

 【筋力】50

 【片手剣熟練度】75

 【積載量】250


 【上半身装備】

 ・火の精霊服

 ・ステルス・ダークコート

 ・スチール・ブレストプレート

 ・精霊の腕輪


 【下半身装備】

 ・火の精霊服

 ・革の靴

 【総防御力】

 ・D−


 【右手】

 ・白銀の剣

 【左手】

 ・無し


 【所持エル】3,500,000


 【攻撃スキル】

 ・ストライクソードⅣ

 ・ソニックソードⅣ

 ・ガードブレイクⅣ

 ・デュアルネイルⅣ

 ・トリプルストリームⅣ

 ・クアッドスラッシュⅢ

 ・レイジスラントⅢ


 【防御スキル】

 ・ソードガードⅣ


 【補助スキル】

 ・魔法耐性Ⅲ

 ・物理耐性Ⅲ

 ・状態異常耐性Ⅲ

 ・洞察Ⅱ

 ・感知Ⅱ

 ・火属性付与Ⅳ

 ・水属性付与Ⅳ

 ・風属性付与Ⅳ

 ・土属性付与Ⅳ

 ・雷属性付与Ⅲ

 ・光属性付与Ⅲ

 ・闇属性付与Ⅲ

 ・攻撃力上昇付与Ⅲ

 ・防御力上昇付与Ⅲ

 ・素早さ上昇付与Ⅲ

 ・跳躍力上昇付与Ⅲ

 ・異常耐性上昇付与Ⅲ

 ・付与軽減Ⅲ


――――――――――――――――――――――


 最近のクエストとレベル上げで、現在のステータスとスキルはこんな感じだ。


 称号とスキルの効果で経験値を通常の倍以上で獲得できるオレは、ハッキリ言って攻略組のトッププレイヤー達の中で突出し過ぎてる。

 確か次にレベルが高いのは、精霊の森でずっと一緒だったクロだ。

 彼女は今、レベル45だったはず。

 トップ層の平均値は大体35〜38なので、これを見るといかにソラと組むとレベルが上がりやすいのかが分かるだろう。


 おかげで一時期は、経験値ブースト目的のパーティー申請が多すぎて、今は基本的にフレンド外のプレイヤーからの申請は全てOFFにしている。


「そこにいるのは、ソラじゃないか」


「あ、ソラですね」


「うん?」


 声を掛けられて、視線を向けてみる。


 するとそこには槍を手にした軽装重視の魔術師、長身が特徴的な黒髪の少年。


 それと盾を手にした軽装重視の騎士、天然の茶髪と整った顔立ちが印象に残るイケメン少年の二人が、仲良く並んで立っていた。


「お、シンとロウじゃん。おまえらもこの国に入り浸ってるのか」


「レベル上げ頑張ってるからな」


「おかげで今は42ですけど、流石にソラには追いつける気がしませんね」


「まぁ、流石に常時経験値ブーストしてるからな。おまえらがレベルを1上げてる間に、オレは2上がってるんじゃないかな」


 苦笑すると、二人が何やらメニュー画面を開いて操作する。

 すると、ノータイムでパーティー申請が飛んできた。

 目をパチクリさせて二人を見ると、シンとロウは微笑を浮かべた。


「久しぶりに一緒にやろうぜ」


「せっかく誘ったのに、一週間はマトモに一緒にプレイすることが出来ませんでしたからね」


「ああ、良いぞ。それなら今から一緒に、スキルショップを見に行くか」


「お、良いね!」


「二人共、エルの備蓄は十分ですか?」


 ロウの言葉にニヤリと笑みを浮かべて、ソラは小さな胸を張って言った。


「ハッハッハ、問題ない350万エルはあるぜ!」


「マジかよ、俺なんて槍をキリエさんに新調してもらったから100万エルしかないぞ」


「ボクなんて装備の全部を新調しましたから、80万エルしかありませんよ」


 二人は顔を見合わせると、全く同時にオレの肩に手を置いた。


「「いざという時は、ヨロシク!」」


「そんだけアレば大丈夫だろ!」


 むしろ80万エルも持ってて、足りなくなる方が怖いわ。

 三人は久しぶりに他愛のない談笑をしながら、スキルショップに向かった。

 

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