第27話「森の大熊」
いくらレベルが22あっても、50体以上のモンスターを相手にするのはオレが
しかしオレの〈感知〉スキルをフルに使用しても、周囲から壁のように迫ってくるモンスター達との戦闘を完全に回避する事は難しい事だった。
故に選ぶのは、モンスターの数が少ない場所を全力で突破して先に進む。
平均レベル【15】のモンスター達をアリアの弓の援護を貰いながら、ソラとクロのコンビネーションで倒して進むこと1時間ほどが経過。
壁はなんとか抜ける事に成功したが、アクティブになったモンスター達に影響されて他のモンスター達も活性化してしまったようだ。
襲ってくる奴らを倒しても、すぐに別のモンスターにターゲティングされる。
基本的にこういう状況では、足を止めたら囲まれて死ぬのは常識だ。
苦しいけど、今は耐えて目の前の敵をひたすら処理するしかない。
「はぁ!」
ソラは全長50センチほどの蜂型モンスター〈ポイズンビー〉の毒針による連続の突きを紙一重で回避すると〈ソニックターン〉で背後を取り、剣に青い閃光と共に放った〈ストライクソードⅡ〉で敵のライフを削り切った。
そんなオレに向かって三体の巨大な蜂の尻から、毒針が弾丸のように放たれる。
ハ、止まって見えるわ!
一時期VRのFPSゲームで、ひたすら銃弾をバールで打ち落とす修行をシンとロウの三人でしていた俺には遅く見える。
冷静にソラは音速で迫る毒針を見据えると〈ソードガードⅡ〉を発動。
剣を振るい、全て着弾する前に切り払った。
「ソラ!」
〈ポイズンビー〉の横から〈ソニックターン〉で姿を現したクロが〈デュアルネイル〉を連続で使用。
まるでコマのように敵の周囲を高速回転して、三体の〈キラービー〉のライフを全て削り取る。
「ソラ様、クロ様!」
まだ周囲を取り囲んでいた〈ポイズンビー〉を、木の上にのぼったアリアの速射が次々に射抜いていく。
そこをクロとオレの〈ソニックソード〉が、暗闇の中で光の軌跡を描いた。
地面に落ちた敵を、二人で協力して綺麗に3分割にしてやる。
斬撃が浅くライフを削りきれなかったモンスターは、起き上がる前にアリアが射抜いてトドメを刺した。
これで殆どのモンスターは倒した。
しかし、これで終わりではない。
「さてさて、本日のメインディッシュかな?」
「大きい!」
まるで先に行かせんと立ちはだかるは、レベル【25】の巨大な熊だ。
ソラの〈洞察〉スキルは森の強者たる風格を纏う、かの者の詳細を教えてくれた。
〈フォレスト・ベア〉
巨大な熊型のモンスター。
レベル10程度の冒険者のライフを、一撃で削り切る攻撃力【300】のスキル〈ベアナックル〉は要注意。
しかし、オレとクロのライフはMAXで【300】以上ある。
一撃で殺されないのであれば、こんなのはただのデカイ的だ。
──そう思っていた時期がワタシにもありました。
「いやぁ、ヒットアンドアウェイの対策なんてこんな序盤にするかな」
ヒットアンドアウェイ。
攻撃しては危険域から離脱する戦法で、大型モンスターから一撃を貰わないようにするのならこれ以上の戦い方はない。
言うならばゲームにおける基本戦術だ。
しかし〈フォレストベア〉は中々に厄介なモンスターだった。
「ソラ、いくら攻撃しても回復するみたいだね!」
「ああ、こいつは一気に最大火力を叩き込まないとダメっぽいな!」
先程から攻撃を避けながら〈ソニックソード〉でチマチマとすれ違いざまに攻撃していたソラとクロは、10秒後にダメージを全回復する敵の驚異的な〈
〈洞察〉スキルによると、地面からエネルギーを吸い取って回復しているとの事。
攻略法は地面から離すか、回復する前に削り切るか。
こんな巨体を地面から離すなんてどう考えても無理なので、オレ達が選べるのは一つだけ。
10秒以内に一気に削り切るしかない。
となると、ここは〈
「クロ、強化するぞ!」
敵の属性は〈木属性〉。
発動させるのは〈火属性付与〉と〈攻撃力上昇付与〉。
それをオレとクロに使用して、MPは【220】から【140】減って残りが【80】となる。
「はぁっ!」
危険を冒して巨大な腕による重く鋭いナックルをかい
──カウントスタート。
彼女は振り返ると、追走するオレに向かって叫んだ。
「ソラ、今だよ!」
「任せろ」
〈フォレストベア〉に接近するソラ。
あの巨体だ、片足に深手を負った状態からバランスを立て直すのは容易ではないはず。
案の定〈フォレストベア〉は左手で身体を支えながら、ソラの接近を阻止しようと不安定な姿勢で右腕を横に振るった。
──カウント残り8秒。
「は、その程度で止まるかよ!」
タイミングを見てソラは跳躍すると、敵の大きな右腕を足場にして〈ソニックソード〉で更に加速。
ほぼ0距離となったオレに噛みつこうとする〈フォレストベア〉。
それよりも早く、右手に構えた燃える白銀の剣が青い光を放つ。
渾身の力でソラが繰り出した〈ストライクソードⅡ〉は巨大な熊の腹に根本まで突き刺さった。
──カウント残り5秒。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
雄叫びと共に〈デュアルネイルⅡ〉を発動。
突き刺した状態で青から緑色に光り輝く刃を横に切り抜き、高速回転からの二撃目で敵の頭を深く切り裂いた。
だが、削り切れない。
回復までのカウント残り3秒。
〈フォレストベア〉のライフは残り一割ほどで踏みとどまり、敵は回復する体勢に入る。
「ソラ様!」
そこに戦闘が始まってから木の上でずっと援護射撃していたアリアが、これ以上ないタイミングで〈フォレストベア〉の眉間を射抜く。
クリティカルヒットした一撃によって残っていたライフを失った〈フォレストベア〉は、他のモンスター達と同様に霧散して消えた。
──あっぶねぇ、残り1秒だった!
後少し倒すのが遅かったら、全回復されていたところだった。
内心で冷や冷やものだったが、アリアの最後の一押しのおかげだ。
「ハァハァ……これで、全部だな」
〈感知〉スキルで調べる限り、この周辺に敵の反応はない。
ホッと一息つくと、木から下りてきたアリアと合流した。
「お疲れさん!」
「ソラも!」
オレとクロが右手を出してハイタッチすると、アリアが物珍しそうな顔をする。
ソラは右手を上げると、彼女に説明した。
「冒険者流の称賛や祝勝を分かち合う仕草だよ。ハイタッチっていうんだけど、アリア達の文化にはないのか」
「いえ、わたくし達にはそういったものはありませんね」
「はい、アリアも手を上げる!」
「え、あ、わかりました」
クロに言われてアリアが手を上げると、そこにすかさず彼女がハイタッチをする。
「……ッ!?」
ジーンと衝撃に痺れる右手を、アリアは驚いた様子で眺めた。
「冒険者様達って、楽しいことを思いつくのですね」
「ふふん、だろ?」
「はい、あの……ソラ様ともタッチしてもよろしいでしょうか」
そう言ってアリアは右手を上げた。
オレは思いっきりその小さな手にハイタッチをする。
……ああ、喜びを分かち合うというのはやはり良いものだな。
少しだけ感傷に浸っていると、アリアはこう言った。
「あれだけの数をお二人だけで殆ど倒されるなんて、ソラ様とクロ様はやはりお強いですね」
「ソラが半分以上一人で倒してた気がする」
「そこは〈感知〉スキルのおかげだな」
範囲を絞れば、囲まれても背中を向けながら避けられるのはやはり強い。
それと敵の位置をこと細かく知ることができるから、すぐに次の獲物に向かえるのも強みか。
クロが羨ましそうな顔をすると、こう言った。
「目視しなくても安全確認できるの良いね」
「取得方法が分かれば教えてあげられたんだけど……」
「ソラのは限定クエストなんだから仕方ない」
「それっぽい情報を仕入れたら最優先で教えるよ」
「ほんとに?」
「ああ、約束する」
「やった!」
まぁ、見つかったとしてもすぐに俺と同じレベルで〈感知〉スキルを扱うと頭がおかしくなると思われるので、先ずはニメートルからだろうな。
そんな事を思っていると〈魔法灯〉を手にしたアリアが笑った。
「仲の良い姉妹みたいですね」
「姉妹というよりは、同じ師を持つ妹弟子だよ」
「わたしも、ソラの事は団長から兄弟子だって教えてもらったよ」
「兄? え……なにやらお二人には複雑な事情がおありなのですね」
「そうだな。とりあえずムダ話もアレだし、早くアリアの仲間の拠点を目指して出発しようか」
「はい、一刻も早く森を救わなければなりませんからね!」
そう言って気合を入れると、アリアは先に立って歩き始めた。
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