164.溺れるほど愛するから覚悟して
お祝い事が続くと、国民の支持率が上がる噂は本当だったようだね。ここ最近、民から続々と届けられる祝いの言葉を眺めながら、僕は驚いていた。
悪虐皇帝と言われるくらい処罰をしていた頃から想像できない。天使を娶り、彼女が子を宿し、側近の結婚式を控えている。そのことが国の雰囲気を明るくした。意外だったのは妊娠した国民が増えたことだ。
貴族は分かる。皇族におめでたの話があれば、大急ぎで同じ年齢の子を作ろうとする。異性なら婚約者狙いで、同性だったら学友や側近として。恒例行事に近いが、平民にもその習慣が広がったのは意外だった。僕やニルスが、文官や武官を平民から募集したことが影響しているみたいだ。
いい傾向だよ。いっそのこと、貴族階級を一代限りにしたらどうかな。必死で勉強すると思うし、剣の腕も磨くだろう。どちらの才能もなかったら、諦めて平民として生きていけばいいんだからね。逆に平民の中から有能な者を貴族に据えたら、腐敗も減りそうだ。考えておこう。
「エリク、そんなに急に育ったりしませんわ」
困惑顔のトリシャの腹を撫でながら、僕はベッドに横たわる。食欲が落ちたトリシャだけど、もう少ししたら落ち着くはずだと医者もソフィも口を揃えた。悪阻は吐くものだと思っていたけど、調べたらいろいろな症状があるんだね。食欲不振や寝続ける人もいるようで、トリシャの不調の原因がわかって安心した。
育児書を用意するように頼んだら、驚くほどたくさん運ばれてきた。種類はたくさんあるが、いくつかの本は
生まれてくる子に良い世界だけを見せたい。そんな夢みたいなことを考えながら、トリシャの腹を撫でる時間は幸せだった。寝る前に30分ほど撫でて、それからトリシャにキスをする。もちろん夜の営みは子どもに障るから禁止で、時々暴走してキスが深くなるけど我慢していた。
「エリク……側妃を、選ぶのですか?」
不安そうに尋ねるトリシャの声に、腹を撫でる手がぴたりと止まった。いま、なんて? 驚いて目を見開いた僕に、覚悟を決めたトリシャの言葉が重なった。
「もしそうなら、私……」
「それは絶対にない!」
「でも、我慢しておられるのに」
誰かが余計なことを吹き込んだの? それとも自分で考えた? どっちにしても酷い侮辱だからね。トリシャ以外が口にしたら、首を刎ねるくらい腹立たしい。
「ねえ、トリシャ。僕が抱きたいのはトリシャだけ。信用できない? 試しに艶かしい美女を目の前で裸にしてみようか。僕はぴくりとも反応しないけどね。トリシャだから、匂いや仕草ひとつで愛したくなる……理解してくれてると思った」
悲しそうに目を伏せた僕は、トリシャの胸に抱き締められた。豊かな胸の柔らかさと、爽やかなのに甘い香りに目を閉じる。こうして急所を晒して無防備に振る舞うのも、トリシャだからだよ。
「ごめんなさい、心配で。つい……エリクを傷つけるつもりはなかったの。本当にごめんなさい」
僕こそごめんね。君が思ってるほど、僕は傷ついていない。トリシャがこうして僕のことだけ考えてくれる時間が欲しくて、こんな言い方して。
背に腕を回して抱き締め、彼女の頬や額にキスをした。こんな男に捕まって、本当に可哀想だよ。でも気づかなければ幸せでいられるから、不幸にしないから安心してね。
「いいよ。まだトリシャへの愛の示し方が足りなかったんだと思うから。溺れるくらい愛するから覚悟して」
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