第6話 情報暴露
「舞田さー 今度の土曜って暇なん?」
「……え?」
思いがけない質問に固まる。
ミカは3日前の金曜日、ギャルで巫女だった『
「暇なら駅前のファミレスあんじゃん? そこでゴチしてくんない?」
「ゴチはちょっ──」
【縦に首を振らなければ無理矢理振らせるぞ】
「ちょうど誰かに奢りたい気分だったんだよね」
頭の中の魔王に逆らえず、断腸の思いで了承する。
悲しい程に人権が無い。文句を言っても、自らを『師匠』を自称し、弟子であるミカは全てに応えなくてはならないのだ。
「マ? きびついって感じなら別に良いし」
「イヤイヤぜひ! お願い……します」
「じゃーよろー」
朝のテンションからか気だるそうな返事でミコトは返す。
一方のミカは唇を噛み締めているおかげで目が覚めた。
【よしよし順調だ あの女から有益な情報を掴めるかもしれん】
(これで空振りだった一生篭ってるよ)
土日は空振りで成果は得られず、今度の休みも潰れる事が確定している。
平日であっても、親の目を盗んで夜中に外に出る事もある。ミカの体力的にも精神的にもかなり参っていた。
【……たまには甘やかすのも師匠の義務か 土曜まで調査は休みにしてやろう】
(本当? 裏は無い?)
有り難い提案だったが、先に疑念が出てしまうのは魔王の信用の無いせいである。
気まぐれな優しさには素直に答えないと、痛い目にあうというのを、この僅か2秒後に知る事となるミカだった。
「どうした舞田氏? 頭など抱えて?」
「何でもないよ 小田くん とんでもなく頭が痛いだけだから」
「それは致命的なのでは?」
隣の席で、ミカの友人である『
友達になったきっかけは隣になったからだが、遅かれ早かれ仲良くなっていたぐらいには、二人は気が合っていた。
「それにしても……先程"陽ノ者"と親しげに話しておられたが いつから
「いつ組んだのそれ?」
ミカは陰陽より日向ぐらいが、自分のポジションなのではないかと自負していたが、どうやら小田は違うようだ。
確かにギャルとは、住む世界とは違う世界の住人だという事はミカは理解している。
しかし、そんな事はどうでもよいのだ。
「──巫女ギャルって良いよね」
「どうした突然」
とにかくミカは疲れていた。
「あっごめん 疲れてたからつい性癖が漏れちゃった」
「どんな疲れ方してんの舞田氏」
「だってさ……古くから続く由緒正しい神聖な存在である"巫女"さんと 今時の流行りに敏感で新しいものを好む"ギャル"の組み合わせって素晴らしいと思うんだよね」
【──何を言っているだ? 貴様……?】
魔王が初めて、ミカに謎の恐怖を覚えた。
紡がれた言葉が微塵も理解できず、謎の説得力を醸し出すミカ。
重圧に飲まれてしまいそうな感覚に襲われ、魔王は早口で語られる内容が、とにかく凄いとだけ理解する。
「成る程──確かに"背徳感"をおぼえますな」
【此奴……分かるのか? この男が言っている意味を……!?】
理解する必要は一切は無いのだが、幸か不幸か、伝えられる者はいない。
そしてミカが熱の入る論争を続けようにも、一限目の教師が阻止した為実現出来なかった。
「休日に女の子に呼ばれてファミレス──これはデートと言っても過言では無いのでは?」
【過言だろう】
一週間後、約束のファミレス前へとミカは来た。
だが呼び出されたファミレス前で足踏みをし、中々入ろうとしないミカを、魔王が痺れを切らして一喝する。
【何をもたもたしている! さっさと入らんか!】
「まってよ魔王様……! 初めてなんだから一旦落ち着かせて!」
心の準備が出来ず、ファミレスの前でもたもたしてミカは入ろうとしない。
ただでさえ今の魔王は、魔憑き探しを休んでいたせいで機嫌が悪い。普段から遠慮は無いのだが、今日は一段と容赦が無かった。
【貴様……これ以上我輩の邪魔をするのならきつい仕置きをせねばなるまい】
「分かったよ! 入れば良いんでしょ!」
一方のミカも、もう慣れていた。
元々面倒な性格が幸いしてか、どうするか考えるよりも、ありのまま受け入れた方が被害が少ないと気づいたのだ。
「やっと来たし」
「ごめんなさい! 先に着いてたんだね」
ミカが店に入ると、窓際の席にミコトともう一人、ミカの知らない人が座っていた。
「アレー? 思ったよりカワイイ系の子が来たんですけどー? もしかして弟とか?」
「ちげーし 同じ
(ギャルが……増えた)
悩んでいる人を紹介して欲しいとの事だったのだが、ミカの勝手な偏見ながら、ミコトの友人が悩んでいるようには見えない。
「ええと……この人がお祓いで悩んでる人?」
「そ 中学で一緒だったんだけど今は別の学校」
「ミコミコのお家てば神社じゃん? だからウチの彼氏の相談したんだよね〜」
(ミコミコ)
この人も苦手だなと思いつつも、頭の中の魔王の機嫌を損ねる方が面倒なので、ミカは我慢して挨拶をする。
「初めまして
「マイマイってばチョーカタイ ウケるんですけどー」
【良かったではないか うけているぞ】
(うるさい)
四面楚歌。ミカの頭にそんな言葉が浮かんだが、下手に考えると魔王にまた痛い目に遭わされる為、一度深呼吸して落ち着く。
苦手な相手なのであれば、早く本題について話せば良いだけだと、ミカは自分に言い聞かせた、
「アミでーす よろしく〜」
「よろしくお願いします 早速なんですが……」
「すいませーん この彩りパフェってのください」
「聞いて!?」
ミカの言葉を遮り、店員に注文をするアミ。
やはり相容れないと、住む世界の違う人なのだと、改めて実感させられた。
「ってもアタシじゃなくて彼氏だし」
「じゃあ何で来たんですか……」
「舞田がゴチしてくれるって言うから連れてきた」
原因が白状した。言いはしたが、少しぐらい遠慮が欲しかったというのがミカの本音である。
よく見れば伝票にはランチの痕跡があった。ミカが来る前に、既にミカの財布は攻撃を受けていたのだ。
「ミコミコ〜これ凄い映えそう〜」
「いーじゃん 頼みなよ」
「お願いですから本題の話を聞かせて……」
今は昼食時で人が賑わい、注文のパフェがくるのは時間がかかるだろう。
話をするなら今しかない。そして、早々に切り上げたいと、ミカは切実に頼む。
【因みにこの女は"白"だ 魔憑きではない】
(ありがとう)
「ミコミコにはもう話たんだけどさ 彼氏の様子がおかしくてさ〜」
「いつから?」
「夏休み明けだから……三週間前ぐらい? 目の下にめっちゃ隈作ってさ それだけなら寝不足ぐらいに思うんだけど……」
神社に"お祓い"を頼む何かに心当たりがある。だから巫女であるミコトに相談したのだ。
「夏休み終わる前の日にさ……"廃ビル"に肝試ししに行ってからなんだよね……おかしくなったの」
(廃ビルって……まさか!?)
【十中八九あの時の廃ビルだろう】
ミカと魔王が初めて魔憑きと遭遇した廃ビル。その日以来足を運んでいなかったが、まだ解決していなかった。
【有り得ん話ではない 霊は霊を寄せ より強力になろうとする性質がある──生者を誘き寄せる為に】
そして魔力を持ち、生者に実害を出すようになったのが『
何らかの思念が廃ビルに集まり、興味本位で足を踏み入れた者を取り込む。
(まさか……知ってたの?)
その性質を知っていて、あの廃ビルに戻らないのはどう考えてもおかしい。
魔力を溜める為なら、自身の器であるミカですら利用する魔王である。
【知っていたとしたら──どうする?】
邪悪な声がミカの頭に囁く。
自らの復活の為には、何であれ利用する。それがミカの身に宿る魔王。『ベルフェゴール』であった。
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