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みんなで月旅行に行った数日後、咲夜は人生で1番焦っていた。
何をどうしたらいいか分からず、悩んでしまう。
「どうすればいいのでしょうか・・・・・・」
あんまり動くと良くないのかな、とか今日からご飯の栄養バランスを見直した方がいいのかな、とか考えていた。
気づいたのはつい先ほどで、いつものように夫である結人を送り出し、食器を洗おうとした時に、少し違和感を感じたのだ。
最初は、体調が悪いのか?と不安に思ったが、その違和感の原因が微かに魔力をまとっているのを感じて確信に至った。
とりあえず結人さんに連絡すべきでしょうか、ですが結人さんは今お仕事中・・・・・・
邪魔にならない方がいいでしょう。伝えたらきっと仕事を放り投げて帰ってきてしまいます。
ならお母様は?
・・・・・・少し信用になりません。
そうなると今1番信用できるのは琴音お母様ですね。
そう判断した咲夜は、すぐに電話をかける。確か先日、ドイツから日本に帰って来ていたはずだ。
手慣れた手つきで、相手の顔が見えるビデオ電話を行った。するとすぐに応答があった。
〔もしもし、どうしましたか、咲夜さん。〕
「お義母様、今よろしいでしょうか。」
〔大丈夫ですよ。ちょうど暇をしていましたので。〕
そういいながら、琴音は微笑む。思えばこれが、自分の息子の嫁からかかってきた初めての電話だったからだ。
咲夜は、少し顔を赤らめながら、要件を伝えた。
「実はですね、身体にちょっと違和感を感じまして・・・・・・」
結人の母とはいえ、直接伝えるのは少し恥ずかしい。これで伝わったらいいな、という期待をしつつ、曖昧な事を言う。
すると、こちらの狙い通り、本当の意味を汲み取ってくれた。
〔それはっ!おめでとうございます、咲夜さん。〕
「はい、ありがとうございます、お義母様。」
〔それで、結人さんには伝えたのですか?〕
「いえ、結人さんは今お仕事中なので邪魔をしない方がいいかなと・・・・・・」
今日は確か、東京に行っているはずだ。
新型のワープ用ポータルについての研究をするとおっしゃっていたので今はその最中だろう。
まだまだ先は長い研究ではあるが、邪魔をするわけにはいかないと判断したのだ。
しかし、琴音からお叱りを受ける。
〔ふふふ、ダメですよ、咲夜さん。夫にとって、妻の妊娠というのはこの上ない喜びです。いち早く報告した方がいいですよ。〕
「そうなのですか。」
〔はい、電話で構いませんので自分の口から伝えてあげて下さい。私も今からそちらに向かおうと思いますが、今は新居にいるのですか?〕
「はい、先日購入した新居にいます。」
〔わかりました、今からそちらに向かいますのであまり無理はしないようにお願いします。〕
どうやら私が心配で、こちらに来てくれるらしい。
流石琴音お母様、できたお方だ。
「わかりました。ありがとうございます、お義母様」
私がお礼を言うと、琴音お母様はニコニコした顔でこう返して来た。
〔お礼なんていらないですよ、私も頼っていただけて嬉しいですから。それより結人さんにしっかりと連絡するのですよ。〕
「は、はい。では、失礼します。」
そう言って通話を終了する。
琴音お母様が来るならば部屋の片付けをしなきゃだな、と思いつつ、愛する夫である結人に早くこの事を伝えたいなという感情が湧き出てくる。
咲夜は、即座に結人への報告を優先させた。
さっそく電話をかける。
〔はい、どうした?咲夜〕
「あ、あの・・・・・・結人さん、今よろしいですか?」
〔うん、問題ないよ〜今は休憩中だから。〕
「そ、そうですか、実はですね・・・・・・その、できたみたいなんです。」
〔できた?何ができたの?〕
昔から察しの悪い結人はそう聞き返す。どうやら本当になんのことか変わらないようだ。
咲夜は、恥ずかしい気持ちと早く伝えたいという気持ちが混ざりながら呟いた。
「私たちの子供が・・・・・・」
〔・・・・・・〕
「・・・・・・」
お互いに、何と言っていいのか分からず黙り込む。結人に至っては、頭のネジが何本か外れ、頭が真っ白になっていた。
〔僕たちの?〕
「はい・・・・・・」
咲夜は、弱々しく答える。
その瞬間、嬉しい気持ちが湧き出てきた。自分と愛する人の初めての子供だ。一気に妄想が膨らみ、幸せな気持ちに包まれた。
〔今すぐ帰るよ、そこで待ってて。〕
「あ、あの結・・・。」
結人は、それだけ伝えると電話を切った。
咲夜からの電話を何も言わずに切るなど、普段の結人にはありえない光景だった。
咲夜が、お仕事を優先してほしい、と伝える前に切られた。
そこから十数秒後、とてつもない量の魔力をまとった何かが猛スピードでこちらに向かって来るのを感じた。
言わずもがな、結人だ。
咲夜の探知魔法に引っかかったと思った次の瞬間、結人の魔力反応が2人の新居の上で止まった。
そして、自由落下しながら、家のベランダに着地した。
「咲夜っ!子供ができたって本当?!」
「ゆ、結人さん!お仕事の途中だったんじゃ・・・・・・」
「美月に後始末を任せてきたから大丈夫。」
「大丈夫じゃないですよ。もー結人さんったらっ慌て過ぎですっ!次からはお仕事をしっかりとして下さいね?」
先ほどまで自分も慌てていた事を棚に上げ、とても慌てている結人を注意する。
実際、まだ男なのか女なのかもわからないので、見にきてもあまり意味はない。だが結人は、そのままじっとしているという事が出来なかった。
「ご、ごめん、居ても立っても居られなくなっちゃって・・・・・・」
「ふふふ、私の身体の中心部分を見てみて下さい。まだすごく小さいですが、魔力を帯びているのを感じますよ。」
咲夜に言われて、結人はそっとお腹に手を当てた。すると、確かに魔力を帯びたモノを感じた。おそらくこれがそうなのだろう。
でも・・・・・・
「2つある・・・・・・もしかして双子なのかな?」
「おそらくそうだと思います。」
よくよくみてみる、確かに2つ塊がある。しかもその2つは、別々の魔力を帯びているようにも感じる。
「おめでとう、咲夜。」
「はい、ありがとうございます、結人さん」
結人は、この上ない幸せに包まれながら、咲夜をそっと抱き寄せた。
この小さな命を絶対に守ると誓って・・・・・・
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