#18 奇妙な依頼③

私の両親は魔法師だった。


魔法師と言ってもそれ程強くなく、C級魔法師だった。

しかも前線には出ているものの、実際に魔法で戦闘するのではなく、高速艦の艦長と副艦長をしていた。父はある魔法師の話をするのが好きだった。


『青の悪魔』


青色の鬼の仮面を被っている事からそう呼ばれるようになった彼は前線で大いに活躍し、人気を集めるかのように思われた。

しかし、何処からか湧いた負のイメージに犯され、今では恐怖の対象となっていた。


ある日、父と母は偵察任務中、不運な事に超級UCに見つかってしまった。

UCによる最初の一撃で通信機器をやられ、弾は当たらず、魚雷は底をつき、もうダメかと諦めたその時、何処からか颯爽と現れた青色の鬼の仮面を被った少年はほんの数分足らずで超級UCを海に沈めてしまった。


父は言っていた。彼は『悪魔』なんかではなく『勇者』だと。


幼い私は父の話を聞くのが好きだった。

どんどん話を聞いていくうちに私は名前も顔も知らない彼に憧れた。



多くの人が嫌う彼だが、実は根強いファンがいたりする。

ネット上には少数派だが、彼を擁護する声もある。

私は調べていくうちにどんどんのめり込んだ。

まさか、こんな所でとは知らずに・・・







「ぐすん・・・」


「泣き止んだか?」


樹は目の前の状況に戸惑う。なんて声をかければいいの変わらなかったが、とりあえず泣き止まらせる。


「は〜だいたいお前も魔法師ならマシンガンを持った男1人ぐらいどうにかしろよな。こんな事でビビるなよ。」


すると、アリサは顔を上げ、樹をみつめる。


「え?・・・どうして私が魔法師ってわかったの?言ったっけ?」


「何処で会った誰なのかは分からないが、お前が隠蔽魔法を使って正体を隠しているのは分かる。隠蔽魔法を使う時は隠蔽魔法を隠蔽する方法を考えるんだな。」


隠蔽魔法は様々な事象をまるで別の事のように変える事ができる。

その活用方法は多様で、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の5感に加え、魔力感知を掻い潜ったりする事ができる。

ただし、あくまで書き換えで完全に消す事は出来ない。

そのため、腕のたつ魔法師には隠蔽魔法を使っている事がバレてしまう。

もっとも結人や咲夜ならば完全に隠蔽する事も可能だが、普通の魔法師にはまず無理だ。



「イベントに来る客に魔力パターンを隠したいのは分かるが、対策が甘過ぎると思うぞ。こんな隠蔽、C級魔法師でも気づくぞ。」


「そ、そうだったんだ・・・」


「んで?どうしてお前は泣いているんだ?」


「泣いてないし!ちょっと考え事していただけだよ。」


泣いた理由を知られたくなくて軽く嘘をつく。

そして、席を立つと樹に別れを告げた。


「今日は、もういいわ。午後のテレビ収録は休ませて貰う、あなたはもう帰っていいわよ。明日も朝8時にここに来てちょうだい。それじゃ。」


そして、扉を勢いよくあけるとゆっくりと帰っていった。







謎の男襲撃から数十分後、身柄を警察に引き渡すと、マネージャーを交えて社長さんと話す事になった。

今日の出来事の事情徴収をしたいらしい。

案内された部屋に入ると既に幹部と思しき男達が席に座っていた。

俺は席に座ると経緯を説明した。

そして文句を言う。


「おたくの警備はどうなっているんですか?不審者の侵入を許すばかりか、警報1つならないのはおかしいと思うのですが・・・」


すると、幹部の1人が代表で答えた。

どうやら、受付の人を脅し、場所を特定した時、ハッキングを受けて防犯システムを乗っ取られたらしい。


ハッキングは暗号化されており逆探知は不可能。また、共犯者がいる可能性が高いとの事だ。

その辺は警察に任せるとして、今すべきなのは今後の対策だ。


今回の犯人の目的が俺の排除だったため、まだ良かったが、これが嫉妬に狂ったファンがアリサを殺す事が目的だったとしたら大問題だ。

下手したら殺されてしまうかもしれない。


樹は対策となる方法をいくつか提案した後、帰宅した。








次の日、本社ビルの前にたどり着くと、護衛対象である『星戸 アリサ』が笑顔で待っていた。

逆に気持ち悪い。


「おはようございます。」


「あ、どうもおはようございます・・・」


「さっ中へどうぞ。」


彼女に先導され、昨日とは別の部屋に案内された。

部屋は片付いており、妙に生活感がある。


「えっと~何の部屋だ?ここは。誰か住んでんのか?」


「よくわかったわね~正解、ここは私の部屋よ。入れてあげた事に感謝しなさい!」


「は?」


「とりあえずそこでくつろいでいてちょうだい。今朝食を持って来るわ。」


ここはアリサの部屋だった。

いや、そうじゃない。問題はそこじゃない、どうしてこんな所によばれたのか、だ。


「え?何?くれんの?」


「か、勘違いしないでくれる?これは~その~そう!昨日のお礼よ、お礼。存分に召し上がってちょうだい。」


顔を少し赤らめながらそう答える。


この表情に不覚にも可愛いと思ってしまった自分が憎い。さすがアイドルだ。


用意されたのは、パエリア。朝からこれかよとは突っ込まない。軽くながす。


「お、結構美味いな」


「当然でしょ?なぜならのこの私、『星戸 アリサ』が直々に作ってあけげたものだからね!残さずに食べなさいよ!」


「はいはい、分かってますよ。それで?こんな所に連れ出して何の用だ?」


「実は・・・」


アリサは両手を正面に持ってくると、自信にかけた隠蔽魔法を解いた。


髪色は金髪から茶髪に変わり、目の色は赤色から黄色へと変わる。

見た目が変わってもアイドルオーラを放っていた。


「お前は・・・」


樹はこの彼女を知っていた。そして全てが繋がった。


「お前は、有瀬ありせ 星奈せいな!」


「良かった、覚えててくれたんだ・・・そうだよ、私は日本魔法師育成学校東京校1年Aクラス、有瀬 星奈。それにしてもよく覚えていたね、完全に忘れられていると思ったよ。」


「ということはこの前の特別訓練で俺を何らかの方法で見たんだな。」


「正解、たまたま夜空を見つめていたらあなたを見つけたってわけ。改めてよろしく、樹君♪」


有瀬 星奈


彼女は東京校の1年生なら大半の人が知っているだろう。

その美しい容姿と抜群の魔法センスから『1年生3大美女』の1人として名を轟かせている。

あまり人前に立ってハキハキとしている様子は見られないが、その可愛さと実力は折り紙付きだ。


ちなみに、『1年生三大美女』の残りの2人は咲夜と雷華だ。本人達は気づいていないが、裏でたくさん噂されていたりする。


「ま、嫌でも名前は入ってくるわな。それにしてもこんなによく喋るやつだったとは・・・」


「学校じゃあ猫被っているからね〜流石にバレないと思うけど、一応念の為目立たないようにしているのさ。名前は裏で広く知れ渡っているらしいけど・・・」


話を聞きながら、結人と咲夜はとっくに気が付いているんだろーなと、想像する。


考えてみればダメだ、多分あの二人はこいつの魔力パターンが分かっても、『星戸アリサ』を実際に見た事ないだろうから結びつかないだろうな・・・


「そこは仕方がないだろ。実際可愛いし、クラスでも一目置かれているじゃん。それで?どうして俺にそんな事を?」


「(可愛い・・・)え?あ、うん。別に?深い意味は無いわよ。ただ後でどうせバレるなら早めに言っといた方がいいかなと。」


「なるほどな、間違っていない。」


「うん・・・」



「それで?今日の仕事は?」


微妙な空気になったため、樹は話を変える。


「今日は映画の撮影とレッスンよ。よろしくね、樹君♪」


「いや、頑張るのはお前1人だけで十分だが・・・」


そして、樹の護衛生活が再開する。

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