鬼人たち2

 この世界の問題は彼女たちにとってなんの問題もなく解決できるものばかりだった

 ウルはおらず、世界を滅ぼしたあの忌々しい女の情報もない

 それに自分たちの親友もこの世界にはいないようだった

 

 一か月が経った頃、彼女たちはこの世界のヒーローとなっていた

 だがすでに次の世界へ進むためのリチャージはすんでいる

 惜しまれながらも九人は世界を超えた


 九人の心は沈んでいる

 深く深く沈み込み、アカネなどは今にも泣き出しそうだ

「あたしたち、本当に強くなったんすかね? あいつには、全く勝てる気がしないっす」

「それでもやらなくちゃ。きっとハクラちゃんやクロハちゃんだって今も戦ってるはずだもの」

「分かってるっすけど、不安にはなるっす」

「そうですわね。くしくもアカネと同意見ではあります。わたくしたちの鬼神の本領を発揮しても勝てなかったんですもの」

 いつも自信満々なシエノもあの時の敗北によって心が折れているようだった

 それでも進むしかない

 この先にはもっとつらいこともあるかもしれない

 だがまずは主にして親友を見つけ、自分達の世界が滅亡したことを報告しなければならない

 それはあの二人にとってもつらい現実となる

 九人は二人が悲しむ顔を見ることが何よりつらかった


 次なる世界は広大な荒野が広がる世界

 灼熱の太陽が照らすため気温は高いが、ハクラ以外の鬼神は特に問題なく行動できるだろう

 この世界にも知恵のある生命体がいるのか、こんな荒野にも道があり、案内板が立っている

「この先に街があるみたいっすね。えーっと、うん読めない」

 矢印があることは分かり、サクラの教えた能力によって文字の変換はできている

 ただ単にアカネの頭がついて行っていないだけだ

「もう、この先ニキロにアッティバルトって街があるみたいですわね。アカネ、もう少しお勉強しましょうね」

「はいっす」

 アッティバルトの街までは九人の足なら数分と掛からずに到着したのだが、街は酷く荒んでいるようで、人々も憔悴していた

 街並みは西部開拓時代のような街並みで、中には拳銃を腰のホルダーに下げている者もいる

 ただその誰もがやせ細り、日々の生活さえも苦しそうだ

「どうしてこんなことになってるのかしら? 畑があるのに何も育ってないし、家畜もいない。それに、こんなに皆飢えて」

「あ、うう、何か食べ物をくれぇ、水でもいい」

 水が欲しいという男にソウカが水を空中から出した

 彼女の鬼神としての力は揺蕩う水

 空中から水が出たことで男はかなり驚いたが、それよりもよほど喉が渇いていたのか、水を一気に飲み下していた

「ありがとう、ありがとう、ぶしつけで悪いが、街の皆にも、水を」

 言われた通り街のみんなに水を配り始めるソウカ

 どこからでも水を自在に呼び出せるため、街の人々全員にいきわたるほどだった

「ありがとうございます! どこのどなたか存じませんが助かりました」

 街の人々に口々にお礼を言われるのだが、その人々が見つめる視線の先には彼女たちの角

 この世界に鬼種の人族はいない

 それどころかこの世界は人間だけの世界だった

「ねえお姉ちゃんたち、その角って本物なの?」

 元気になった子供のうちの一人が好奇心のまま聞いてきた

「そっすよ。触ってみるっすか?」

「いいの?」

「どうぞっす」

 アカネの角を触る子供

「ひゃんっ!」

「あ、ごめんなさい!」

「大丈夫っす。ちょっと角は敏感なだけっすから」

 それで街の人達とも打ち解けることができたのだが、やはり街には問題があったようだ

 この街から少し離れたところに盗賊たちがたむろしているらしく

 そいつらが毎週のように来て食料を奪っていくそうだ

 既に食糧は全てそこをつき、次に来るときは街の女性や少女を連れて行くと言われているらしい

「盗賊、ほんとどの世界にもいるのね」

「真面目に働く、できない奴ら、ろくでもない」

 街の人々も困っているし、九人は即決で盗賊たちを退治することを決めた

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