大勇者の旅4

 飛んだ瞬間に見えた

 見てしまった

 転移先は一寸先も見えない闇だったが十二獣神の力によってまるで昼間のように見えていたアイシス

 そこで目の当たりにした光景はあまりに悲惨なものだった

 味方はほぼ全員が焼けこげて死んでおり、さらに数人が今まさに炎に飲まれようとしているところだった

「させねぇっての!」

 守りに特化した黄金鎧である蛇の鎧を着ると鱗を展開した

 最も力を込めた状態だったが、そこまでの力は必要なかったようだ

 あっさりと炎は鱗に防がれて消える

「んだよ勝手に消すなっての。なんだよおまえはよぉ!」

 炎を放った男は自分の炎で消し炭にならなかったことに激昂して地団太を踏んでいる

 そしてアイシスがかばった二人の少女と二人の男

 その四人はあっけに取られて黄金のアイシスを見上げていた

「お前ら下がってろよ。こいつかなりの実力者だ」

「分かったわ! 誰だか知らないけどありがとう! 利善ちゃんにレイドちゃん! 走るわよ」

 女性口調の大男は小脇に一番小さな少女を抱えるようにして走り出した

「逃がさねぇっつってんだろが!」

 黒い炎を操る男は左腕を向けて竜のようにうねる炎を生み出した

 しかしそれすらもアイシスが体で防いでしまった

「邪魔だよお前。俺の楽しみを奪うなよ」

 先ほどまで怒りに染まった顔だったが、今は氷のように冷め切った顔をしている男

 そんな男をアイシスは本能で危険だと判断した

 怒りに身を任せて襲って来るならまだいい。攻撃も単調で読みやすくなる

 しかし一番厄介なのは怒りで冷静になるタイプだ

 男の狙いはどんどん正確になっていき、逃げる四人を着実に追尾して攻撃している

「だからさせねぇってんだよこのバカ野郎!」

 鱗を最大限に大きくして炎を防ぎつつ、チャクラムのように鱗を回転させて飛ばした

 それらを躱しつつ炎を打ち込んでくる敵

 実戦経験や実力はアイシスの方が明らかに上なのだが、男はその天才的なセンスのみでアイシスを翻弄しているようだ

 しかしその拮抗状態も長くは続かなかった

 アイシスは一瞬だけ炎が弱まった隙を突き、黄金鎧を換装し変えると猿の黄金鎧へと変わった

 生体武器が生成されて黄金のなぎなたを振るうと男の心臓あたりを一突きした

「え? あれ? 俺がなんでこんな、おかしい、おかしいっての・・・」

 口から大量の血をドバっと吐き出すと倒れ動かなくなった

「すごい、何あの子、あれほどの実力者をこうもあっさりと倒しちゃうなんて・・・」

「やほアインちゃん、どう? 凄いでしょ彼女」

「ミシュハちゃんじゃない。助かったわ。あの子はあなたが連れてきてくれたの?」

「うん、あの子こそが全ての世界を救うべく世界に遣わされた存在、大勇者のアイシスちゃんよ!」

 決めポーズをするミシュハにアインと呼ばれた大男は無言でうなづく

「ふぅ、で、あれで終わりなのか?」

「ありがとう大勇者ちゃん、あなたが来なかったら私達は死んでいたわ」

「ああ、ありがとう、助かったよ」

 二人の男が礼を言い、それに続いて大きい方の少女も必死で頭を下げた

 ちなみに一番小さな少女はスヤスヤと眠っていた

 彼らは先兵としてきていたこの闇の世界に対しては有利な力を持った者たち

 派手な衣装を着た大男はアインドーバという炎使い

 闇を照らす光を使う鳳凰の獣人にして不死鳥の先祖還りのクルル

 巨人化によって潜むウルの雑兵を倒す目的で来ていた少女レイド

 そして空間の力を操り、この世界の空間を把握しつつ敵の攻撃を防ぐ役目を持っていた利善

 彼らが先んじて切り開いたところを後から来た殺された者たちで一斉に叩く算段だったのだが、彼らは全てが炎に飲まれ殺されてしまった

 リーダーを含めてである

 誰もがAランクを超える実力者であったにもかかわらずだ

「そうか・・・、少し遅かったんだな俺は」

 落ち込むアイシスの肩に手を置くミシュハ

 しかし落ち込んでもいられない

 この世界の闇は全て一人の者の能力によって作り出されている

 大幹部のダート

 それがこの世界を闇に包んだ者の名だ

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