大勇者の旅3

 立木桃の家でくつろぐアイシス

 桃はまるで妹、もしくは娘を見ているかのようにアイシスに目をかける

 その様子を微笑ましく眺める付き人のメーリーであった


「もう行くのですね? 可愛い後輩ちゃん」

「はい、ありがとうございました桃さん! おかげで俺は・・・」

「ふふふ、またいらしてね。貴方ならきっと救えるわ。そうね、次は救世界へ行きなさい」

「救世界?」

「ええ、そこには多くの英雄、勇者、聖女に聖人、果ては神々が集まっています。きっとあなたの道しるべとなるはずですよ」

 桃によって指示された指針、そこは救世界と呼ばれる世界で、かつて救世の女神によって作られた世界だった

 その世界はまたの名を、アドライト異世界交流世界と言った


 立木桃から教わったことを胸にアイシスは示された世界へと扉をくぐった

 後ろで見守る二人はアイシスを笑顔で送り出す

 頼もしい後輩、大勇者アイシスの小さな背中に思いを託した


 扉の先にあったのは広場、数多くの人々が行き交う賑やかな場所だった

「すごい、こんなにも力ある人々が集まってるなんて」

 ただ歩いているだけの人を見てよくわかった

 一人一人が並々ならぬ力を持っていることがだ

 今のアイシスに比べればそこまで強くはないが、一人一人が一つの世界で勇者や英雄などと呼ばれていた者たちばかり

 当然の如く実力者ぞろいだった

 目が回りそうなほどキョロキョロとしていると後ろから声をかけられた

「もしそこな少女、君は勇者だね?勇者に違いない間違いない。我の目を欺こうったってそうはいかないよ」

「いや欺くも何も俺何もしてないんですけど」

「いやいやおやおや、いけませんいけません、謙遜などいけません。君は決して弱くない。もっと胸を張り給え、その小さな胸を!」

 そう言ったところで声をかけてきた男はアイシスの拳によって吹っ飛ばされた

 ほとんど本気で殴った。殴ったはずなのだがどうにも手ごたえがない

「いけませんねぇ、ええいけません。このような幼稚なパンツでは力も出ますまい、もっと大人なものを履くとよろしいでしょうとも」

 男の手には可愛らしい兎がプリントされたパンツがしっかりと握られていた

 それを見たアイシスは顔を真っ赤にしてそれを取り返そうと必死になる

「この! 返せこら! それは今最先端の鬼ヶ島マリハモデルだぞ!」

 アイシスが今しがた奪われたパンツは鬼ヶ島のファッションリーダーであるマリハがデザインしたもので、子供向けのものであるのだが、元の世界ではその可愛らしいデザインで大人の女性にも愛用されているようだ

「はぁ、ですからこれを履きなさいと申してグゲベ!」

「こらオルゴン! またセクハラしてるの!? 今度こそ本当に殺すよ?」

「いえいえミシュハ殿、これはセクハラではなくファッションチェックでございましてですね。このお嬢さんの指導をグゲブ!」

「いいから謝ってそれ返す! マジでキレるよ?」

「ぐ、それは勘弁願いたい。すみませぬなお嬢さん、ファッションの講義はいずれまた」

 あまりの勢いでもはや怒りが吹き飛んだアイシスはパンツを受け取ると男を殴りつけた女性の案内で、公衆トイレにて取り返したパンツを装着した

「ごめんねぇ、君新人? いやぁホントにごめん! あいつドスケベなんだけど実力だけはあるんだよねぇ。まったく、また言い聞かせとくから」

「あ、あの、ありがとございました。俺はアイシス、大勇者です」

「私はミシュハ・・・。ってえ!? あなたが大勇者!? え、嘘、ほんとに!?」

「は、はは、そうですよね、俺みたいな弱いやつが大勇者だなんておこがましいですよね」

「違うわよ! 力が強すぎて驚いてんの! 女神かと思ったわよ!」

 女神と言われてまんざらでもなく照れるアイシス

 それから彼女にここに来るまでのいきさつを話した

「そう、それなら大歓迎よ! 今ね、悪の組織の拠点を叩いてるところなの。さっきも一個大隊が送られたところよ。ねぇ。貴方なら実力も申し分ないし、その作戦を手伝ってくれないかな? これから第二大隊が送られるところなの、良かったらあなたも私と一緒に来てくれない?」

 何を隠そうこのミシュハこそその第二大隊のリーダーだった

 偶然にも今転移装置へ向かう途中だったというわけだ

「そう言うことなら喜んでお手伝いさせてください」

 当然アイシスはその提案に乗った

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