世界に選ばれし者たち3
兎少女の名前は月兎アサメ
月兎一族という非常に珍しい種族であり、天人という種族と常に一緒にいる種族の筈だった
しかし月兎も天人もすでにどの世界にも生き残っているはずがなかった
かつての神々や力ある者たちの連合軍と、世界の外から来た異放者との戦いによって絶滅した
ある一人の月兎を残してだ
「私達月兎は既に滅んだ種族、この子だけはどうしても守りたかったんです。あなた方には感謝してもしきれません」
月兎がウルに狙われた理由は恐らくその力によるものだ
彼らは狂気の目という力で精神に狂気を植え付けたり、壊したりできる
ただ普通の月兎なら一人、もしくは数人が限界、強い力を持つ者でも十数人が限界である
生き残った最後の一人である月兎はその中でも群を抜いて力が強く、一個軍隊を相手取って狂気の目を発動させれるほどの力があった
しかしこのアサメという少女の力は桁が違う
一つの世界そのものを狂気に巻き込んだその目は、本来ならば目を見なければ発動しないはずの狂気をウィルスのように蔓延させることができる
アサメは月兎の中でも突然変異と言っていいほどの力を持っていた
しかし彼らの個体数はもはや風前の灯で、この家族含め数世帯しか生き残ってはいない
それ故に両親はアサメに力を使わせたくなかった
優しすぎる彼女に狂気を見せたくなかったのと、それによって争いに巻き込まされるのが嫌だったからだ
親ならば当然の願いである
「この子と一つの世界で、ただの獣人として平和に暮らしていたのに・・・。あのウルとかいう組織は問答無用で我々を攫って行きました。恐らく別世界に散った仲間も彼らに囚われていると思います・・・。この子の従姉にあたるトウコも、一体どこに消えてしまったのやら」
取りあえずはこの月兎たちを助け出せたのは良いが、そのまま置いておけばまた攫われるのは目に見えている
そのためエーテが特殊な力で彼らをただの獣人として変質させた
彼女の能力の一つには、改変という力まである
「ありがとうございます! これで、私達は普通の暮らしを・・・」
よほどうれしかったのか、父親が涙を流しながらペコペコと頭を下げた
そのまま彼らはこの世界に住むことにしたらしい
「もともと根無し草です。この世界は科学という力も発展していますし、それに獣人も人間も本来分け隔てなく暮らしているようです。まだ狂気による混乱は続くでしょうが、なに、この子と幸せに暮らすために我々もがんばりますよ!」
さらにお礼を言われ続け、きりがないからと母親兎が止めている
エーテたちも彼らが幸せに暮らせるよう祈り、世界を後にしようと転移門を開いたその時のこと、レノンナの右腕がいきなり地面にポトリと落ちて血が噴き出した
「え? 私の手」
そのままレノンナの左腕も同じように飛ばされた
とっさにアモンが彼女の両腕を一瞬で回収すると、傷口に押さえつけて能力によって引っ付けた
「っつ・・・。ありがとうアモン」
「まだ仮止めだから君は休んでて。僕は不意を突いて君にこんなことをしたそいつを、これから倒すから」
アモンの前、レノンナの腕を斬り落とした何者かは、漆黒のローブを身にまとい堂々と立っていた
「あの黒いローブ、幹部の黒さよりも黒い? まるで闇の根源のような」
漆黒ローブはフードを脱いで顔を見せる
顔面に大きなバツの傷がついた少女
その少女の目に光は無く、明らかに何かに操られているかのようだった
彼女は何の武器も持っておらず、手を手套にしてこちらに向けている
「そんな手套でレノンナの腕を?」
傷のある少女は何も語らず手を振り下ろした
観察の目で気づいたエーテは言葉を発するよりも素早くアーキアの腕を引いた
すると今アーキアのいた場所が何かに切り裂かれたかのようにえぐれる
「不可視の刃、それが君の力か。悪いけど取り押さえさせてもらうよ!」
今度は自分の番とばかりにアモンは自らの力を解放した
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