勇者の成長11

「まずはん、十一色の塔へ行きましょうか、んふ」

 モモネが最初に案内したのは十一の色とりどりの塔群がある場所

 ここは姫二人と鬼神九人それぞれの色を彩った塔があり、それぞれの塔にそれぞれのプロフィールなどが書いてある

 さらには中にたくさんの絵が飾ってあり、それらを誰でも閲覧できるようになっている

 それぞれの塔の前には絵を描く場所があり、そこで鬼神たちの絵を描くと塔の内部に張り出され、参加賞としてこの島のどこでも使える食券をもらえる

 当然アイシスたちもそれに参加することにした

「俺はそうだな、ハクラ姫かな? キーラは?」

「私はモモネさんを描こうかな? 丁度目の前にいるし」

「では私はクロハ姫を」

 三人ともはハクラにもクロハにも会ったことがある

 全鬼神と会っているのはアイシスだけだが、モモネはちょうど目の前にいるためキーラも描きやすいだろう

 それぞれ自分が描く鬼神の塔へと向かい、絵を描き始めた

「うーんなかなかに難しいな」

 アイシスはすぐに筆を走らせ始めたが、少し書いたところで消し、また描き始めるということを繰り返している

 ちなみにここの炭はマジックアイテムである消しゴムで消える

「スラスラスラスラ、うん! いい感じ!」

 対してキーラは悩むことなくスラスラと描いているようだ

「ふふ、私の芸術が爆発していますね」

 リドリリの方の筆も迷いなく進んでいた

 そして約三十分が過ぎて最初にキーラの絵が完成した

 子供っぽい見た目とは裏腹に、キーラの絵はプロが描いたかのように写実的で、まるで生きているかのような出来だった

 次にリドリリが完成

 こちらはかなり前衛的で、見ようによっては落書きとも芸術作品ともとれるだろう

 そしてアイシスは・・・。ピカソをほうふつとさせる、いや、ただ単に絵など描いたことがないために崩れているだけだった

「ううう、全然うまく書けなかったぜ・・・」

 涙目のアイシス

「悲観しないでぇ勇者ちゃん。この絵、とても温かみがあるわぁ。一所懸命に描いてくれたことが伝わるもの。きっとハクラちゃんも喜んでくれるわぁん」

 それを聞いてアイシスは涙を止めた

 その後それぞれの絵を納めると係の者から割引券をもらい次の名所へと向かった


 今度は少し歩いた先にある娯楽施設、鬼退治シューティングという施設だった

 その施設はクロハ姫提案の元黒族達の技術によってVR空間に入り込んでリアルに楽しめるリアリティシューティングゲームができる場所だ

「すごいな、どうなってんだこれ」

「うわぁ、ほんとに怖い敵がいるみたい」

「黒族、早々に国交を結ぶ必要がありますね」

 シューティングゲームは渡された銃で化け物のような鬼を退治するゲームで、

襲ってくる鬼を討てば鬼が消える

 最後のラスボスであるクロハ姫を倒せばクリアとなるらしい

 クリアすれば鬼ヶ島の高級甘味処“花風”の和菓子の一日食べ放題券がもらえるというので、全国からたくさんの人が挑戦しに来ているらしい

 今までクリアしたのはこの島で隠居しているサクラ、最強の鬼神一人だけである

 ちなみに何度もクリアして何度も花風の勘身を楽しんでいるのは言うまでもない

「よし、俺たちもクリアを目指すぞ!」

「オー!」

 三人は銃を受け取り早速挑戦、中へと入って行った

 中は薄暗く、そこかしこで鬼の気配がしている

 そう、何を隠そうこの空間、気配までも再現されているのだった

「そこだ!」

 隠れて襲って来ようとした鬼を一撃で仕留めるアイシス

 さすが勇者だけあってその辺りの戦闘センスは目を見張るものがあった

「この! この! うう、当たらないよアイシスゥ」

 キーラはやたらめったら撃っているが一向にあたっていない

「落ち着けキーラ、魔法の用量だ」

「魔法、そっか」

 何かを掴んだのか、今度はキーラの射撃が命中しはじめた

「うまいぞキーラ」

「えへへ」

 アイシスに褒められ、ますます気合が入るキーラ

 リドリリは無難にこなし、なんと到着者も少ないボス部屋前まであっという間に到着したのだった

「ここにクロハ姫が。行くぞ二人共!」

「うん!」

「ええ」

 扉を開くと、そこには大魔王のような格好をしたクロハが立っていた

 当然これもゲームのキャラなので、本物ではない

 しかし再現度は高かった

 この島には鬼神それぞれにファンクラブがある

 その中でも特に厳しいクロハファンクラブの面々が見ても納得がいくできだろう

「よくぞここまで来たな。しかしながら私に傷をつけられたのは今までモモタロウだけだった。貴様らでは相手にもならんぞ」

 魔王らしい言葉を吐きながらクロハは刀を抜いてこちらに向けてきた

「お約束みたいなセリフも設定されてるんだな。よくできてる」

「ではかかって来い!」

 VRクロハが走り向かってきた

 そこを銃で撃つが、簡単に避けられてしまった

「どうした? 当たる気配すらないぞ?」

 今まで出てきた鬼は一撃でも当てれば倒せた

 しかしVRクロハは違う

 この回避力のなか五発も当てなければ倒せないのだ

 対してこちらは一撃でも喰らえばゲームオーバー

 それがこのゲームを難しくしている理由でもある

「確かに難しいが、本来のクロハ姫ならもっと洗練された動きをしている。読みやすいんだよお前の動きは」

 そう言ったとたんアイシスの放った一撃が見事VRクロハの肩にヒットした

「な、私に傷をつけるとは!」

 続いて死角から放ったキーラとリドリリの一撃ずつかそれぞれ腰と背中にヒット

 残り二発、アイシスは畳みかけるようにしてその二撃をVRクロハの額にヒットさせた

「ばかな、私が、こんな弱者に」

 これによりVRクロハは消滅し、ゲームクリアのファンファーレと文字が現れた

 史上二組目のクリアに会場は湧き、三人ともに花風の一日食べ放題券が手渡された

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