無能の異世界人3
小林りえは生まれてからずっと体が弱く入退院を繰り返していた
心臓に疾患があったためか大人にはなれないだろうと医者に言われいていたのだ
そのせいか発育も悪く、十五歳になった今でも小学生のような見た目である
五人の中では一番背は小さく幼い見た目だが、彼女はこれでもかなりの頑張り屋だった
物心ついたころには年のほとんどを病院の病室で過ごし、たまに家に帰れたとしても数時間ほど
しかし彼女は一切の弱音を吐くこともなく常に笑顔でいた
痛みに耐え、難しい手術に耐え、ここまでずっと耐え忍ぶ人生を歩んできたが、そのかいあってか十五歳まで生きてこれたのだ
両親は彼女を本当に心の底から愛し、彼女のためなら命すらなげうつだろう
そんな両親の愛を知っているからこそ彼女は痛みに人一倍強くなれたのだ
そして世界の種からの力を得た
力は彼女の体の構造を変え、病を掻き消した
今彼女はこれまでにないほどに調子のいい体にウキウキしていた
世界の歪から異世界に飛ばされ、何の力も持たず彷徨っていた彼女だったが、それでも耐え続けたからこそ世界は彼女を選んだのだろう
「この世界、何もなくて私、嫌いです」
ぽつりとつぶやくりえにみんなが一斉に視線を落とした
「わ、私、今までずっと病院にいて、気づいたら別の世界に来てたけど、そこはとってもきれいな場所だったの。いつも病気がちで倒れる私を助けてくれる人たちがいたり、薬を取って来てくれる人がいたり、回復魔法まで使ってくれる人もいました。何もできなくて歯がゆかったけど、あの世界は私の第二の故郷になったんです。もう一度戻って皆にお礼がしたい。それに本当の私の世界にもかえって、私は元気だよって両親に抱き着きたい」
それは他のメンバーも同じだった
異世界に飛ばされどうしようもない状況でもあきらめなかった不屈の者たち
それでも故郷には帰りたいのである
「ふむ、この不肖エーテさんも一肌どころか二肌も三肌もいくらでもぬいであげよう。よいコラショ」
「ちょ、何本当に脱いでんですか!」
突然比喩ではなく本当に服を脱ぎ始めたエーテを止めるアモン
その顔は真っ赤だった
「おうおううぶだねぇ、初々しいねぇ。お姉さんちょっと襲いたくなっちゃったよ」
「何がお姉さんよ。あんた私らと歳あんま変わんないじゃない」
「気分的なもんじゃよお若いの」
こんな調子で五人は打ち解けていった
だが肝心な問題が残っている
この世界には人が全くおらず、生物はいるものの知的なものは一切いない世界
そのためか情報収集をすることができず、どんな世界なのかもよく分かっていない
幸いにも危険そうな生物にはまだ出会っていないものの、いないとも限らないのだ
さらにはこの世界からどのようにして抜け出し、別世界へと行くのか
それが一番肝心な問題だった
他の生物はいたため食料は問題ない。飲み水も確保できているからすぐに死ぬことはないだろう
彼らにとってはサバイバルなど障害の内にも入らない。しかしアウルの邪悪なたくらみを止めるためにもここから抜け出すのは必須条件
五人はそれぞれで考えを巡らせた
すると一番年上のアーキアが意見を出した
「ねぇ、僕達って何か力を得たよね? もしかしたら何か別世界に行くための力があるかも」
「確かに、試してみる価値はあるわね」
「うむ、エーテさんその意見に賛成さね」
「じゃあそれぞれ見せ合いっこするってのは?」
「見せあいっこ・・・。なんかあんたが言うと卑猥に聞こえるわね」
「何でだよ!」
ボケと突っ込みがすでに決まっているのは別として、五人はそれぞれどのような力を持っているのかを確認し始めた
一時間後
それぞれの力を把握できたことでこれからどのようにして世界を渡るのか、その道筋が見えてきた
「いける、これなら!」
「ええそうね!」
「うんうん、エーテさん大満足さ」
「が、頑張ります!」
「あの、僕まだ見せてないんだけど」
四人はキャッキャとはしゃいでいるが、若干一名その環に加われないでいる
「あの、僕まだ」
「さぁそうと決まれば今日は早く寝て明日に供えよう!」
「そうね、りえちゃん、一緒にあっちで寝ましょ」
「はい!」
「あの僕・・・」
一人寂しく残されるアモン
ふぅとため息をついてそのまま就寝した
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます