イレギュラーな悪意

 目に光のない少女が何人かのフードをかぶった者たちと共に一つの世界に来ていた

 その少女の腕には手錠がかかっており、黒いフードの集団の中、唯一白いフードをかぶった男が手錠のカギを外した

「さぁ試運転です。イレギュラーらしい貴方の実力、見せていただきますよ」

 少女は表情一つ変えることなくその世界そのものに手を向けてぐるりと回った

 その回った直後、世界はなくなった

「フフフ、ハハハハハ! 上出来ですよイレギュラー! 素晴らしい、素晴らしい!」

 何もかもがなくなった虚無の空間でフードたちは感嘆の声をあげた

 そのリーダーらしき白いフードをかぶった男はイレギュラーと呼ばれた少女に手錠をつける

「さて抑制装置はつけました。アルマの元へ戻りますよ」

 白いフードの男は高笑いし、部下達、イレギュラーと共に虚無空間から去った


 ウル本拠地、場所不明

 この地では様々な世界からウルに協力する者、無理やり従わされている者が数多く在籍していた

 幹部クラスの者は白いフードをかぶり、その直属の部下たちは黒いフードをかぶらされていた

 黒いフードの中でもフードに赤いラインの入った者はリーダーと呼ばれ、幹部の右腕だ

 虚無空間から戻ってきた白いフードの男はフードを脱ぐと部下に渡す

 その見た目は思ったよりも若く十代後半に見える

 プロフェッサーと呼ばれる彼は洗脳、改造を得意としており、この組織で反抗的な者をそれこそ脳を改造して従わせたり洗脳したりと非道なことを繰り返している

 その他にも能力向上のための改造手術をしたり、魔物との合成実験に反抗的な者を使ったりと、ウルに進んで協力している者ですら彼を嫌悪する者は少なくない

「フハハハハ、試運転は大成功ですよぉ! 皆さんお疲れ様です。あとでメンテナンスしてあげますから順番に私の研究室に来てくださいねぇ」

 プロフェッサーがそう言うと黒いフードの部下たちはフードを一斉に脱いだ

 その頭には酷い傷跡があり、それぞれが頭に何らかの装置を埋め込まれていた

 脳改造手術によってプロフェッサーの従順な兵隊にされた者たち

 みな家族もあり、平和に暮らしていた能力者達だったが、攫われ反抗的な態度をとっていたため無慈悲な改造を受けてしまった

 この装置はもし洗脳が解けてまた反抗しようとすれば装置が爆発する仕組みになっている

 当然外そうとすれば爆発、誰かに助け出されても爆発する仕組みだ

 これはたとえプロフェッサーを倒しても全てが連動して爆発するよう設定されており、もはや彼らを助け出す手段はほぼ皆無と言っていい

 唯一助けられるとすればイレギュラーメルカだが、彼女は既にプロフェッサーの手の中

 その彼女も体内に同じ爆弾が仕込まれている

 プロフェッサーは不気味な笑いを浮かべてイレギュラーと共に自分の研究室へと戻った

 

 研究室ではたくさんの改造と洗脳を受けた者が培養液のような液体に浸かっており、その周りでは改造を受けていないプロフェッサーに従順な研究者たちがあくせくと動き回っていた

「みなさん、彼らのメンテナンスをお願いします。私はイレギュラーの調整をしますからねぇ」

 洗脳されているイレギュラーメルカは何の反応も見せない

 しかしとある培養液の中の男を見て少し首を傾げた

 そこには一度彼女を助けようとしたヘリオという名の男と、彼に目元がよく似ている少女の二人が入れられている

 頭には大きな傷、そして爆弾が埋め込まれていた

 ヘリオが組織に逆らいメルカを助けようとしたことで兄妹で改造手術を受けさせられてしまったのだ

 メルカはジッとその二人を見つめていた

 それが誰か思い出せるでもなく、何を思うわけでもない

 しかしほんのひと欠片残った記憶が彼女に首をかしげる程度の違和感を植え付けていた

「何をしているんですかイレギュラー、行きますよ」

 プロフェッサーに呼びかけられ、イレギュラーメルカはその後について歩く

 ほんの少し芽生えた違和感、それがメルカに根付いた

 いずれ芽吹き花開く反撃ののろしとして

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