龍族の国2
一進一退の攻防が続き、力はややあちらが上という驚くべき実力
僕とハクラちゃんの二人で相手してようやく拮抗している感じだ
クロハさんには五龍王を守ってもらってるから手出しができない
「五龍王、私も行くのであなた達はこのことをアンミツ姫に!」
何とか神殿外まで五龍王を逃がしたクロハさんがそう告げると、マキラさんがうなづいて五龍王は龍の姿に戻り、飛んでいった
これでクロハさんも戦える
「精霊様! 助太刀します」
女性と僕達の間に入ったクロハさんはすぐに刀に呪いの力と神力を纏って斬り込む
「呪神力解放、逢魔が時百鬼夜行、暗!」
刀にまとった力が髑髏の形に見え始めた
禍々しい呪いの力が女性に襲い掛かってまとわりつき始めると、女性の攻撃が段々と弱弱しくなっていく
「う、ぐ・・・。お願い、邪魔を、しない、で」
涙を流し始める女性を見て、さすがにクロハさんも戸惑っている
なぜこんなことをするのか、妹がどうとか言ってたけど理由を聞かなくちゃって思った
「クロハさん、そのまま拘束をお願い」
「分かりました」
呪いがさらに女性を締め付け、彼女は完全に動けなくなった
そうしてようやく彼女に近づいて話を聞く体勢が整う
「一体なぜこのようなことを? 一体何をしてたの? それに妹がどうってもしかして人質にでも取られているの?」
「話すことはありません。どちらにしろ私は失敗し、妹も殺されることでしょう・・・。なんで・・・、なんでこんなことになってるのよ! 私達は自分の世界で平和に暮らしてただけなのに!」
女性はぽろぽろと大粒の涙をこぼして歯を食いしばり叫んだ
事情は分からないけど、この人は悪い人じゃない
他の異世界からの侵略者に比べてこの土地の人達を傷つけていないし、誰も入ってこないよう結界も張っていた
それに僕達は攻撃を受けたけど明らかに手加減されていた。もし本気だったらお腹に穴くらいあけれそうなんだもん
「僕たちは今異世界から来た侵略者たちを倒して回ってる。今までの奴らはこの世界の住人を傷つけてたけど君は違う。もし僕らに何かできることがあるなら放して欲しいんだ。きっと力になれるから」
「・・・」
沈黙が流れる
彼女は僕から視線を逸らすとゆっくりと語り始めた
「始まりはいきなりでした。家にいたはずなのに突然視界が真っ黒になって、気づいたら妹と共に見知らぬ大きな建物の中にいました。そこには何人かのよくわからない人たちがいて・・・。戸惑っている私と妹を引き離すと、妹は小さなカプセルのようなものに捕らえられて連れていかれました。直後に建物全体に響く、放送のようなもので伝えられました。自分の言うことを聞かなければ妹を殺すと・・・。私は! 妹を助けなきゃならないんです!」
やっぱり彼女は人質を取られていて、仕方なくこの神殿にいる神獣を暴走させようとしていたみたいだ
ここには神獣フェリウスという龍が住んでいて、この龍の国を守っているらしい
もし暴走すれば五龍王でも止めることはできず、国は滅茶苦茶になっていたかもしれない
彼女の事情は分かったけど、妹さんを救うにはどうしたらいいんだろう
話を聞いたからには放っておけない
「そいつらがいるのはどこですか? 僕が行って助け出してきます」
「そんなに簡単に言わないで! あそこには私よりも強いやつらがたくさんいるの! もう、おしまいよ・・・。私も、私の妹も、私達の世界も」
女性は泣きわめき、絶望していた
そんな中突如ピシリと言う音がして空間が裂ける
その空間から一人の男性と少女が現れた
少女の方は憔悴しているけど命に別状はなさそうだ
問題なのは男性の方で、ところどころ傷だらけで深い傷は骨まで達しているみたい
「エマ、この子、を」
「利善さん!」
二人はどうやら知り合いみたいだね
利善さんと呼ばれた男性はそれだけ言うと倒れ込み、気絶してしまった
「利善、さん。エリを、助けてくれて・・・」
女性は衰弱している少女のことをエリと呼んでいる
恐らくこの子が女性の妹なのかな?
じゃあ利善さんはこの子を助け出してくれたのか
とにかくすぐに古代魔法で彼を治療すると、顔に血色が戻り、傷も塞がった
「この子が妹さんだよね? まずは落ち着いてから話を聞かせてもらえないかな?」
僕がそう言うとエマさんはゆっくりとうなづいた
クロハさんはもう大丈夫だろうとエマさんの拘束を解き、彼女はすぐに妹さんに駆け寄って安否を確認していた
それからホッと一息ついて、龍族の国にある来賓用の家で休ませてもらうことになった
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