オーク族の国2

 案内してもらった場所は厳かな神殿で、エニミさんのおじいさんだというグリンブルスティはここで余生を過ごしているそうだ

 神殿の作りは簡素だけど綺麗に手入れされていて、ところどころの装飾が美しい

 どうやら装飾はオークたちの手によるもので、彼ら意外と手先が器用なんだなって分かるよ

 大きすぎず小さすぎない神殿

 その奥に一つ部屋があって、どうやらグリンブルスティはそこに住んでいるみたいだ

 別にどこも壊されたり、何かが侵入した後もないことから、なんとか間に合ったようだね

「今祖父を呼んでまいります。グスッ」

 未だになんで泣いているのか分からないけど、エニミさんはその扉を開いて中に入って行った

 その数分後、鋭い目つきの老人の手を引いてエニミさんが出て来る

 目は怖いけど、優し気にエニミさんを見ていることから、孫に対する愛が深いことがうかがえる

「これエニミや、急になんじゃ。そちらの方は誰かの?」

「あ、僕は」

「こちらは精霊様ですよおじいちゃん。うう、ようやくこの国にも、精霊様の加護があああ。うええええん」

「また泣きおって。申し訳ございません精霊様。この通りエニミは国長としての実力はあるものの、こう泣き虫なのが玉に傷でして・・・。それにしてもまさか我らにも精霊の加護が」

 グリンブルスティおじいちゃん(長いから以降おじいちゃんでいっか)が感謝の言葉を伝えてくれようとしたとき、不穏な空気が辺りに漂った

 グルグルと渦巻く魔力が辺り一帯を覆って、そこから人がパシュンと現れる

「グリンブルスティ見つけた。魔力ほとんどない。外れ」

 そいつは見た目は少年で、両方の耳が尖っていることからエルフかそれに準ずる種族に見える

 肌は浅黒く、ダークエルフに近いけどよくわからないな

 彼はおじいちゃんに目を向けると手をかざした

 まずい気配がしたからすぐにおじいちゃんとエニミさんを抱えて転がる

「リディエラ様!」

 クロハさんがすぐに近づいて追撃を刀で弾いてくれた

 危なかった。もう少し反応が遅かったら二人とも灰になってたかも

 なにせその攻撃が当たった場所、溶けてどろどろになってるんだから

「役に立たない。排除」

 再び力を溜めてこちらに撃ち込んでくるけど、それらは全てクロハさんとハクラちゃんによって弾かれた

 少年は腹が立ったのか鬼神二人をにらんでそちらから排除しようと動くことにしたようだ

「この程度ならどうってことないです!」

 ハクラちゃんは攻撃を簡単に弾き続け、少年との間合いを詰めて切り込んだ

 少年は腕を飛ばされてたじろぐ

「僕の腕」

 出血はない。もしエルフなら普通に血が通ってるはずだけど、この少年なんだかヒト族じゃないような気配がするんだよね

 少年は腕を拾い上げると切り口にあてた

 するとみるみるうちに傷口が塞がり、彼は手をにぎにぎと動かすとすっかり元通りになった

「僕の体切れる。お前は有益」

 ハクラちゃんをターゲットに絞ったようで、攻撃が彼女に集中する

「私の妹に何をするの!」

 あ、やばい、クロハさんがブチギレモードに移行しちゃった

 こうなると彼女はハクラちゃんが全力で止めるまで止まることはない

「お前邪魔」

 少年は今度は先ほど撃ち出していたエネルギー波のようなものを手に圧縮して剣のようなものを作った

「触れれば危なそうですね。精霊様は彼らを連れて下がってください」

 クロハさんは少年に向かって刀を突きつける

 少年が一瞬でクロハさんに詰め寄ると剣を横なぎに振るった

 しかしクロハさんはそんなことはお見通しとばかりに受け止め斬り返す

 少年の方も負けじとその攻撃を受け、再び斬り込んだ

「なかなかの腕前。でも私の剣技には遠く及びません」

 クロハさんの刀が黒く光る

「剛鬼剣技奥義、煌き三閃!」

 黒い光が三つ流れたと思うと、少年の体が三つに別たれた

「うわ、エグイ」

 ドサリと三つに分かれた少年が地面に転がる

 ただその後の光景があまりにも異常だ

 それぞれが突然融解してどろどろに溶け、それらが一塊になってまた人型、少年の姿に戻ったんだ

 唖然とする僕らを横に少年はぎろりとクロハさんを睨んだ

「お前も、いい素材」

「素材?」

「お前たちを、使う」

 何を言ってるのか分からないけどろくでもないことは確かだ

 それにしてもこの少年、スライムみたいな体だな。と言うことは魔法で攻撃すればいいはずだ

「クロハさんハクラちゃん! 一旦引いてこの二人をお願い」

 僕はエニミさんとおじいちゃんを二人に任せて前に出た

「お前に用はない。僕が欲しいの、強い剣士」

「そう言わないでよ。僕は剣士としては未熟だけど、魔法はけっこうなもんだよ!」

 僕は魔力を溜め、手始めに古代魔法を放ってみた

 結構自信があったけど、なんと少年はその魔法を吸収したかのように掻き消してしまった

「うそ、魔法ももしかして駄目なの?」

 驚いたけどとにかく手数で攻めてみることにして色々と撃ってみた

 その結果、全ての魔法が掻き消える、いやこれは喰われてるのかな?

 でも焦ることなんてない。今ので攻略方が見えた気がした

 そのまま僕はとにかくずっと魔法を撃ち続けてみることにした

 すると一定量数ごとに後ろの方に魔力として排出しているのが見えた

「なるほど、一定量蓄えたら排出しないと容量オーバーになっちゃうってわけだ」

 活路を見出した僕はそっと念話でハクラちゃんに語り掛ける

 この場合はハクラちゃんが適任だと思うんだよね

「分かりました!」

 ハクラちゃんが神力を練り始める

 彼女に撃ってもらうのは強力な神力による氷結攻撃だ

 僕が魔法をとにかく撃ってる間に神力を溜めたハクラちゃんが高く飛び上がり、少年の真上に来た

「神力大解放! 至宝大氷河!」

 別に体全体を凍らせる必要はない

 彼女に凍らせてもらったのは少年が恐らく排出口として使っているであろう一点のみ

 魔力を輩出する際はそこしか動かしていなかったからね

 そこを凍らされて少年は焦ったけど、攻撃を受けたくないのか吸収をやめなかった

 その際も排出口の氷を何とか溶かそうとしてたけど、その程度で溶けるようなやわな氷じゃないらしくとうとう彼の体が膨張し始めた

「そんな、こんな単純な攻撃で」

 ピキピキと体にひびが入り始める

 そのまま彼はパキーンと砕け散って破片が辺りに散らばった

 再び散らばった破片が元に戻ろうとし始めたんだけど、どうやらそこからは元に戻るのが時間がかかるようで、ハクラちゃんがそれらを一気に凍らせて僕が古代魔法によってブラックホールを開き、そこに放り込んでおいた

「これでまぁ抜け出そうにもなかなか出れないでしょ。なにせ重力が渦巻く亜空間みたいなもんだからねコレ」

「さすが精霊様です!」

 とりあえずはおじいちゃんの危機は去ったので解決、かな?

 それにしても今の少年は一体何だったんだろうか

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