星詠み族の国1

 ここは星詠み族の国アリューエル

 古き民が住まう場所で、この地は精霊達によって守られている

 彼ら星詠み族は戦闘能力で言えば人間と変わらない

 たまに強い魔力を持って生まれる人もいるけど、攻撃に使うことはあまりない

 ただ怒らせると怖い種族でもある

 かつて驕り高ぶった人間達がいた

 彼らは星詠み族の未来予知によって世界を手に入れようと画策し、星詠み族の姫を攫ったことでその怒りに触れた

 その人間族がいた国は一夜のうちに滅んだらしい

 というのも、彼らの第三の目は未来予知のためだけに開かれるものじゃない

 恐ろしいのはその目に見られると死を繰り返す幻想を見せられ、心が壊れて本当に死んでしまう点だ

 これは魔法でも防ぎようがない

 開かれれば最後、目を伏せようともどこに逃げようとも相手を捕捉し、死に至らしめる

 それほどに星詠み族の第三の目は強力な力なんだ

 僕も母さんからその話を聞いて震えたものだよ

 でも彼らは精霊と共にある種族だから僕は心配ない。問題はハクラちゃんたちかな

 人間族がかつて犯した罪によって星詠み族は他種族との交流をかなり制限している

 精霊に認められた人、もしくはエルフや妖精と言った精霊に近しい種族しか彼らと交流はできないんだよね

「うう、あの噂って本当なのでしょうか? 精霊に認められていない種族が入ると気が狂って死んじゃうって言う」

「あー確かにそれ系の結界はこの辺りに張ってあるみたいだね」

「ひぃいいい!」

「あのハクラちゃん? 僕が誰だか忘れてない?」

「はい? あ、リディエラ様は精霊、でしたね」

「そうだよ。僕が認めてるのに精霊に認められてないなんてことないんじゃない? これでも僕王女だし」

「あ・・・」

「全くもうハクラは。もう少し物を考えて話しなさいな」

「うう、面目ないです」

 まぁ僕がいるんだ。彼らが国に入れてくれないなんてことはないだろう

 それよりもだよ。黒い男がここに来たなら心配だ

 勇者アイシスと同じかそれ以上の強者。ここの結界を突破できたとしても何ら不思議はない

 そしてその予想は、外れて欲しかった予想は当たってしまった

「結界が破られてる・・・」

 ここら一帯を覆っていた結界の魔力が感じられない 

 すでに男はこの国に入ったとみて間違いない

 僕らは急いで国に入り、状況を確認するため走った


 目に映るのは死屍累々・・・。たくさんの星詠み族が倒れ、その全員が息絶えていた

 戦った形跡もあるものの、見たところ皆一撃で殺されている

 第三の目が開いてる人達がいるってことは男はその攻撃を受けているはず

 それにもかかわらず効いていなかったってことになる

「精霊様、私、このように無残で冷酷無比なことする輩を信じれません」

 ハクラちゃんを見てぎょっとした

 赤い目がさらに赤く光り、静かな怒りを感じる

 クロハさんも同じみたいだ

「うん、止めよう。生き残った星詠み族達を助けなきゃ」

 死体が転がる先に向かう。どうやら山に向かって続いてるみたいだ

 その山はこの世界でもかなり高い山で、その頂上には神殿が築かれている

 男が封印を解こうとしているオロフェニアは十中八九そこに封じられているはず

 僕達は一気に山に頂上まで飛ぶと神殿を見つけた

 その神殿の前に女性の首を掴んで持ち上げている男の姿が見えた

 あれは前に見たことがある。星詠み族の王女

「間に合え!」

 ギュンとスピードを上げ、魔法を発動させて男の背に放った

 不意を突けたからか男はダメージを受け、星詠み族の王女を落として膝をつく

「クロハさん!あの人をお願い!」

 王女をクロハさんに任せ、僕とハクラちゃんは男の前に立った

「ぐ、邪魔が入ったか。しかしもう遅い。封印は解かれた」

 男が両腕を広げたとたん後ろの神殿が真っ黒な闇の炎を吹き出して爆発した

「もう封印を! くそ!」

 男の周りに倒れている人たちはまだ息がある

 クロハさんが全員を助け出すと僕達と男、そしてオロフェニアとの戦闘が始まった

「さぁオロフェニアよ! この世界を滅ぼせ!」

「そうはさせません!」

 黒い炎からオロフェニアが出て来た

 その姿は真っ黒な竜で、目に狂気が見える

「ハクラちゃん、気を付けて! 僕はこいつを!」

「はい!」

 オロフェニアをハクラちゃんとクロハさんに任せると僕は男に向き直った

 恐ろしく強大な竜だけど、あの二人ならきっと大丈夫

「ふん、たかが鬼人に任せるとはな。あの二人、すぐに死ぬぞ」

「それはどうかな!」

 男はかぶっていたフードを外す

 褐色の肌に左右で色の違うオッドアイ、頭にある捻じれた角と高い魔力がこの男が魔族であることを示していた

「この世界の魔族は腑抜けているな。他種族をすべて滅ぼした後はあいつらは俺が正しい魔族として調教してやろう」

「平和に暮らしている彼らに手を出させるわけないでしょ!」

「だったら止めてみろ」

 男は牽制とばかりに闇魔法をこちらに撃ってきた

 この程度どうってことない

 僕は、怒ってるんだ!

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