暗躍する者たち

 だだっ広い部屋の中に二人の男女が立っていた

 一人は身の丈三メートルはありそうな巨体と筋肉粒々な体の大男

 もう一人はごく普通の女子高生に見える

「・・・」

 大男は寡黙で、腕を組んで壁にもたれかかっていた

 女子高生の方は時折スカートなどの埃を神経質そうに払っている

 その顔は暗く沈み込んでおり、今にも泣きだしそうな悲し気な顔だ

 そんな沈黙が流れる部屋に突如として賑やかな声が響いた

「イヤバダバドゥ! ほれほれ二人とも、今を楽しまなきゃ人生何も楽しくなくなるぜぃ!」

 現れたのは道化師のような格好の全体的に黄色い少年で、タタンと靴を鳴らして踊るように二人の前に立つ。そしてうやうやしくお辞儀をした

「そう! 僕が来たよ!」

 三人の間に少しの間沈黙が流れる

「なんだよなんだよノリが悪いなぁ」

「うるさいぞ。そもそもお前は誰なんだ?」

 怪訝な顔で大男がそう言った

 どうやら先にいた二人と少年は初対面のようで、女子高生の方はどう反応していいのか戸惑っている

「そっか、僕を初体験ってことは自己紹介しなきゃいけないよね! 僕のことはジョニーとでも呼んでよ! 本名は教えられないなぁ」

 またしても沈黙が流れる

「ノリわっる!」

 ぷんすかと言った様子でジョニーは怒るが、それもまた道化師としての性分のようにコミカルだ

「それはそうと、君らの名前を教えてよ! この僕がいいニックネームをつけてあげよう!」

 二人は答えない

「もう、なんなんだよ。勝手に付けちゃうよ?」

「わ、私は・・・レイド。本名は、教えれないわ」

「俺はグラッドだ」

 勝手に付けられるのが嫌だったのか、二人は本当の名前ではない名前を明かす

「ふんふんふん、これで僕達お友達!」

 握手を求めて来るジョニーに対してレイドは握手をし返したものの、グラッドはふんと鼻をならして拒否した

 そこでまた扉が開いて誰かが入ってくる

 今度は数人で、それぞれがそれぞれの反応を見せながら部屋を見渡した

 先客がいることに気づいた彼らは先客三人の元へ歩き出す

 彼らの中の一人は、まるで囚人のように鎖でがんじがらめになった少女がいて、その少女を男が担いでいる

「まだ全員集まってないのか。数十人はいると聞いたが?」

「知らないよ。僕に聞かないでよ」

 目を赤く光らせた男が双剣を腰に下げた少年に聞いている

 どうやら彼らはこの部屋の外で集結してこの部屋に通されたらしい

 その誰もが個性の強そうなメンツで、協調性は皆無と言っていいだろう

 そしてその全員の目が鎖でがんじがらめの少女に注がれる

「ちょっと! 何でこの子はこんなひどい状態に!?」

 レイドがすぐに駆け寄ってその少女の体を見る

 ところどころが傷だらけで、いまだに血がドクドクと流れ出ている

「誰か応急手当か回復できる人はいないの!?」

 レイドが少女の鎖を外そうとすると、少女を担いでいた男が止めた

「やめろ。その鎖を解くな。殺されるぞ」

「何言ってるのよ! それじゃあこの子死んじゃうじゃない!」

「いいからやめろ」

 力づくで少女からレイドを放そうとしたが、レイドは急に光り、その体を変質させた

 かなりの高さがある部屋だったが、その部屋の天井に頭が憑くほどの巨躯になったレイドは、鎖少女の鎖を一気に引きちぎった

「なんと、このような能力者までいるのか」

 グラッドは喜ぶように驚いているが、他のメンツはそれどころではないといった様子で避難する

 鎖を解かれた少女は血を流しながらも立ち上がり、ニタリと笑う

「アッハァアアア! 暴れていいよねいいよね! アアアアアアアアア! 殺しがいありそうありそう!」

 血まみれの少女は心臓のあるあたりに空いた穴に手を突っ込み、そこから血液の塊のようなものを引きずり出した

「ブロッディウェポン」

 血の塊を握りつぶすとそこから長い太刀のようなものが作り出された

「まずはでかいのから! アアアアハハハハハハハハハ!!!」

 太刀を振り上げてレイドに向かって振り下ろす

 突然のことに反応できないレイド、このままでは縦割りに真っ二つになるだろう

 その攻撃が当たる瞬間に太刀が消えた

「誰? 何で止めるの? 血と内臓見させてよ!」

 血まみれの少女が怒り、もう一度穴に手を突っ込み、武器を作り出そうとするが、どこからか鎖が伸びてきて少女をがんじがらめにした

「ぐっ、むぐーぐー!」

「まったく、だから言ったんだ」

 鎖を出したのは少女を抱えていた男だった

「こいつは破壊衝動が抑えられないんだ。だからこうして封じてたんだよ」

「そ、そうだったんだ、ごめんなさい」

 レイドは元の姿に戻り男に謝った

「いや、最初に説明していなかった俺も悪かった。俺はダブ。あーなんだ、こいつの保護者みたいなもんだ。で、こいつはエリザだ」

 男は自己紹介をしてエリザを再び抱え上げた

 それからしばらくするとさらに何人かがこの部屋へと入室する


 彼らがなぜこの場所に集められたのかは分からない

 しかしながら誰もが自ら進んでこの場所に来たわけではなかった

 彼らを集めた何者かは、当然彼らを利用するために集めたのだから

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