獣人族の国再び3

 リオさん自らが案内してくれた迷宮は代々王家が管理していて、正式な手続き、国への申請をしないと入れない

 それはこの迷宮が危険だからだ

 本来この世界にある迷宮は神様が管理していて、中で死ぬような怪我をしても生命の神様の力で完全回復した状態で外に排出される

 でもここの迷宮はその生命の神様の力がかかっていない純粋な迷宮だ

 より強さを求め、その力を正しいことに使える人のみがこの迷宮に挑むことを許されるらしい

 その名を神明迷宮しんめいめいきゅうという

 世界にはこの神明迷宮がいくつかあって、それらすべてを制覇した人は歴史上異世界から来た黄金人のカイト・タキガミさんと、史上初の鬼神、絶桜鬼さんという人らしい

 この絶桜鬼さんは夜桜終焉やおうしゅうえん神鬼じんきという鬼神になったと言われている

 未だに異世界修行の旅から帰って来てないっていうから、もしかしたらもう・・・

 だって数万年も前の人だもの

「それでは精霊様、私はここまでです。ハクラ、しっかりと精霊様をお守りするのですよ」

「はい! 精一杯頑張ります!」

 ハクラちゃんはビシッと敬礼のようなポーズをとっているけど、お姉ちゃんと離れているせいか、足がガクガクと震えていた

 だ、大丈夫かなぁ

 僕が先に入って、その後についてハクラちゃんがおっかなびっくり入って来た

 少し震えているけど、僕を守ろうと必死になっているのが伝わってくる

「精霊様は私がまもる! 笹船に乗った気でいてくださいね!」

「さ、笹船なんだ」

「だって、私お姉ちゃんがいないと、何もできませんし…」

「ほら、弱気にならないで進むよ」

「は、はい」

 ハクラちゃんは僕をかばうように前に出ると先を歩き始めた

 震えてはいるけど、彼女は彼女なりに頑張ろうとしてくれているんだ

 しばらく進むと小さな部屋に出て、そこにスイッチが一つ置いてあった

 その他には何もないから押せってことかな?

「お、押しますね」

「うん、気を付けてね」

 ハクラちゃんは恐る恐る刀の柄でボタンを押す

 ポチュンという音がしてスイッチが押し込まれると、目の前の壁が下に下がって行って階段が現れた

「ただのスイッチだったね」

「はい、ただのスイッチでしたね」

 階段を降りて先へ進むと迷路のような階層に出た

 ここが一体何階層あるかは分からないけど、とにかく先に進むしかない

 まず真っ直ぐに進むと道が二手に分かれていた

「どっちに行く?」

「こういう時は左ですよ精霊様! 左手を壁につけながら進んでいくんです!」

「ハクラちゃん博識だね」

「父上に教わったんです。父上はいろいろなことを教えてくれて、それに母上も」

「そっか、大好きだったんだね」

「はい!」

 ハクラちゃんに教わった通り左手を壁につけながら歩く

 この迷路かなり広いかも

 歩けども歩けども分かれ道は続き一向に出口が見えない。じっと手を見る

 ふざけてる場合じゃなくて本当に、数時間ずっと歩き通しで疲れてきた

 ハクラちゃんも精神生命体になってるから肉体的疲労はないけれど、精神的にきつい

 精神生命体だけにね!

 うん、先へ進もう

 そこからさらに三十分ほど歩いたところで広い場所に出た

 ふぅ、ここで少し休憩できそうだ

 道中魔物が出るわけじゃないけど、一応警戒はしてる

 魔物が出ないことでハクラちゃんの方は落ち着いたみたいだけどね

「精霊様、これをどうぞ」

「これは、桃?」

「はい、桃源郷の桃仙果を砂糖漬けにしたものです」

「ありがとういただくよ」

 僕は桃を一切れつまんで口に運ぶ

「うわ、凄くおいしい!」

「そうですか! ソウカも喜びます」

「あ、これソウカちゃんが作ったんだ」

「はい、ソウカは料理が得意で、あの仙料理をもマスターしたのですよ」

「それはすごい、今度食べさせてもらいたいなぁ」

「ぜ、是非! ソウカ、大喜びしますよ!」

 二人で和気あいあいと話し込み、気力も湧いたのでまた二人で歩き出した

 左手を壁につけ、少しずつ進んで、とうとうたどり着いたのは広い広い場所

 ここが最深部らしくて、奥に入口の所にあったのと同じようなのと同じようなスイッチが見える

 でもこの広さ、今までクリアした迷宮から考えると絶対何か出るはず

 警戒しつつスイッチの方へ歩き始めると、案の定何かが近づいてくる気配がした

 すぐにそちらの方を振り向くと、一匹の犬?

 子犬がハッハッハッと舌を出してちょこんと座っていた

「わぁ可愛いですねぇ」

「うんうん」

 二人で近づいて手を出すと、子犬は僕らの手をペロペロと嘗めた

「でも何でこんなところに子犬が?」

「分からないですけど、可愛いからいいじゃないで、す、か・・・」

 ハクラちゃんの言葉が止まり、自分の左手、が、あった場所を見ている

 ハクラちゃんの左手は子犬が咥えていて、それを噛み砕くと光の粒子になって消えた

「え、え? 私の手・・・」

「お、落ち着いてハクラちゃん! 周囲から魔力を集めて左手に込めてみて!」

「は、はい!」

 すぐにその要領を飲み込んだハクラちゃんは左手を綺麗に再生させた

 精神生命体はこういうところ便利だなぁ。ってそんなこと思ってる場合じゃない!

 子犬はゴキゴキと、どこにそれだけの体積があったのか、その体を変貌させた

 大きさは五メートルくらいの真っ黒な魔物

 ヘルハウンドに似てるけど、それにしては大きかった

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