桃源郷21

 第十八階層に来るとぐにょぐにょと流動する何かが中央にいた

 スライム?みたいな生き物だけど、これは猫?

 猫スライムと言うべきかな? 猫は液体って言う表現を思いっきり表しているような猫だね

 その猫スライムはこっちを見てグネグネと人型になった

「んにー、ありゃはー、ここまで来たんかー。しゃーないなー、ちょっちこっち来んね」

「あ、はい」

 人型になった姿は白すぎるくらい白い肌に白い髪に猫耳の美少女で、大あくびをしながら地面に胡坐をかいて手招きした

 その、服着てるんだけど、着物の中身が丸見え・・・。履いてないんだよこの子!

「あー、めんどくさいけど、あんたに試練を与えるんだってねー。あっしはデルタ。ニャコ様に仕える粘質猫天使だわね」

「粘質猫?」

「んあ? そっか、あんたの世界にゃいないんだわな。粘質猫ってのは猫の因子を持ったスライムのことだわ。あー、ちょっと待って、説明めんどいわ。そこにほら、説明書き用意してっから、適当に読んで勝手に理解してよ」

「あ、はい」

 彼女の横に置いてあった紙を拾い上げて読んでみる

 うわ、僕の聞きたいことや試練の内容まであらかた書かれてる

 読み終わって彼女の方を見ると鼻提灯が出てる

 寝てるよこの人

「あの、読み終わりました」

「んにゃ、ああ、じゃあそこ置いといて。あーあ、めんどいけどさー、ちゃんとやらないとニャコ様怒るんだわ。めんどくさいけどさー、戦わないといけないんだわなー」

「あ、やっぱり戦うんですね?」

「まぁちょっと待ってーな。ふひー、あっしちょっと本気出すから」

「ほ、本気?」

「よっこらせっと」

 彼女は立ち上がるとグネグネと体を震わせてグニャグニャと腕を振るった

「さてと」

 バッと扇子を開くと急に雅な動きで動き始めた

 どこかから雅楽のような音楽が流れて来る

「さて、あっしはこれから本気だ。覚悟しないと滅んじまうよ?」

 真っ白な瞳がきらりと光って、来ている服が豪華な白い着物になる

 白い花のかんざしが頭に飾られ、舞踊のように踊りながら扇子をこちらに向けた

「いきなりで御免だけど、最初っから全力で行かせてもらうわな!」

 扇子から桜吹雪を舞い散らせるとデルタちゃんが急に変な動きをし始めた

「とざいとーざーい! これより始まりますはデルタ一座の盛大なる公演にございまする! 我が前におりまするこの者を見事討ち果たしますれば拍手を頂戴~」

「な、えっと、え?」

「いざ、いざいざいざぁ!」

 扇子が手品のように純白の棒に変わり、僕を襲った

「う、わっと」

「それぇそれそれそれぇい!」

「お、わ、っとっと」

 まるでこの劇に巻き込まれるかのように僕は舞台上で彼女の攻めを避け続ける

 棒はグネグネとうねってつかみどころがない。避けるのが難しい

 対して僕の攻撃は彼女には当たらない。流動して避けてるからだ

 通常の攻撃じゃ全然攻撃できないから、マコさんの方も涙目になっている

 仙術も簡単に避けられてるしね

「うう、リディエラ様、どうやら私ではお役に立てないようですぅ」

「弱音なんてはいちゃだめだよマコさん! 限界を超えてからが力の見せどころなんだから!」

「は、はい!」

 そうは言ったものの、攻撃が当たらないんじゃどうしようも・・・

「そうだ!」

「何か思いついたのですか!?」

「うん、マコさん、少しの間彼女の動きを止めれる?」

「や、やってみます! 仙術奥義! 風斗烈波!」

 かまいたちのような風が吹き荒れ、デルタちゃんに襲い掛かる

「くわっと、おっとと、何のこれしきぃ」

「まだです! 仙術奥義、疾風撃葬!」

「ぐぬぬ、小癪!」

 二人が戦っている間に僕はセブンスエレメントを練り上げる

 デルタちゃんはマコさんの風から逃れるのに必死でこっちに気づいていない

 今がチャンスってやつだね

 それにしてもマコさん、この短時間でデルタちゃんに攻撃を当てれるようになってきている

 少しずつだけど、デルタちゃんに傷がついてきていた

 ふふ、デルタちゃん結構焦っているみたい

 よーし

「出来た! マコさん、避けて!」

「はい!」

「エレメンタルフォースマジック! ブラクグラビティラ!」

 デルタちゃんの周囲に真っ暗な空間が生まれ、彼女はそこに閉じ込められた

 段々とその空間が小さくなっていく

「な、なんだこれ! ちょ、やめ、あっしは狭いとこが苦手で! ちょ、ほんとにやめてーーー! こわいよぉおお! うわーーーん!」

「ご、ごめん! そんなに怖がるとは思わなかったんだ」

 慌てて魔法を解除すると、わんわん泣きながらデルタちゃんが出て来た

「グスッ、ひっぐ、酷い~。あっしが狭くて暗いの嫌いなの、知ってたな? うぐっひっく」

「ご、ごめんね」

 この子、見た目通りの子供なのか

「うぐぅ、先に進めよー。クスン、ニャコ様~」

 あ、帰っちゃった

 扉が開いたから先に進めそうだ

 うーん悪いことしちゃったかな

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