竜人族の国17
翌朝のこと、ラキアさんと宿の外で合流した僕たちはゆっくり歩いて景色を楽しみつつ次なる温泉を地図を頼りに探した
ラキアさんのおススメは迷宮だったから、今度はもっとゆっくり浸かれるところがいいということで、桜温泉というところに行ってみることにした
ここには常時様々な種類の桜が咲いているんだけど、今の見ごろは蒼海桜という世にも珍しい青い花びらの桜だ
この世界特有の桜なのかな? 他にもソメイヨシノや八重桜なんていう見知った種類もあるみたいだけど、今は咲いてない
「桜なら鬼ヶ島でも見ましたが、あの時はソメイヨシノしかありませんでしたね」
アスラムは植物全体に詳しく、鬼ヶ島で見た桜について語ってくれた
「そもそも桜は異世界からもたらされたものでして、この世界には自生していませんでした。しかしその美しさは見事としか言いようがありませんね。多種とも共生できたのでそのまま自生してもらいましたら、桜の精霊も生まれましたし。あ、そう言えばリディエラ様はまだ会っていませんでしたね」
「うん、その精霊はどんな感じの精霊なの?」
会ったことないから一度会ってみたいな
「そうですね、一言で言うとポヤポヤしています。いつも笑っていて、花の妖精や精霊達と野山をかけている。そんな子ですね。名前はサクです」
花の妖精テュルリスや植物の精霊ティアンヌには会った事があるけど、サクは性格が全く違うみたい
笑顔を絶やさず、ふわふわと宙に浮いたような歩き方で周囲がなぜか安心できるような空間をつくりだすんだそうだ
「呼んでみますか? 桜があればそこを通ってこちらに来れるはずです」
精霊召喚で召喚した方が早いと思われるかもしれないと、僕は会った事のない精霊を呼び出すことはできないんだ
とりあえず桜温泉についたから、受付でお金を払って中に入った
脱衣所で前と同じように脱いでから温泉へ
当然のようにラキアさんを見た女性たちが群がろうとしてきたけど、テュネが止めたおかげで遠巻きに眺めるだけになった
ラキアさん、魅了のスキルでも出てるんじゃなかろうか?
スキルに関しては僕は分からないからなあ
魔力だけで発動するものならともかく、気力や霊力、仙力などだとまだ感知できないんだよね
それはさておいて温泉への暖簾をくぐると桜特有の甘い香りが鼻をつく
そして衝撃の光景が広がっていた
海のような深い青さの桜が咲き誇り、それが温泉の湯船に映って辺り一面海の中にいるようだった
「本当に蒼海のような色なのですね。私も初めて見ましたが、何と見事なのでしょう」
テュネはため息をつきながらそんな感想を述べる
それに関してアスラムが補足説明をしてくれた
「この蒼海桜はソメイヨシノを改良したものになります。サクは桜の木に関してはやはりプロなので、ティアンヌよりも改良がうまかったようです」
アスラムの説明が終わると桜の花びらがはらりと落ちてピンクの煙がボフンと炸裂した
「呼ばれたような気がしたので来ちゃいましたよ。どうもサクです。リディエラ様、会いたかったです~」
ニッコニコの全身ピンク色の女性がその煙から飛び出してきて僕に抱き着いた
桜のいい香りがする
それで結構力強いんだね。苦しい
「はー、このリディエラ様の抱き心地、なんて素晴らしいことでしょうか。ずっとこのままでいたいのですが~、それはアスラム様がお許しにはなりませんので~、残念ですが引きます」
やっと放してくれたんだけど、アスラムさんちょっと、顔怖いです
「サク、いきなり抱き着くとは何事ですか。いつももっと精霊らしい振る舞いをと言っているでしょう?」
「えーいいじゃないですか~。アスラム様や他の四大精霊様ばかりいつもリディエラ様といるのはずるいと思うんですよ~」
「そ、それはっ・・・」
確かに四大精霊はいつも僕の護衛と称して一緒にいるからね。他の精霊達はかなりそれを羨ましがっていると聞いたことがある
それだけ精霊達に愛されているのを嬉しく思う反面、もっとみんなを召喚してコミュニケーションを取ろうと思う僕だった
それはそうと体をしっかり洗って湯船に浸かってみる
足先を付けたとたんにさらに香る桜の匂い
温度は少し熱いけど、それが桜の匂いを充満させてくれているんだね
「気持ちよさもさることながら、この香りを堪能できるのもなんとも幸せですね。リディエラ様、近くに行ってもよろしいでしょうか?」
う、ラキアさんがあの顔で少しずつ近寄ってきてる。まぁ変なことはしないはずだからとりあえずはいいかな
「り、リディエラ様の香り! すばらしっ、はふん」
僕に触ったりはしないけど、気持ち悪いですラキアさん
多分僕は変態のそれを見る目だったと思うけど、ラキアさんはそれすらご褒美ですと言いながらハフハフと興奮していた
うん、まあ、ラキアさんはいい人、ラキアさんはいい人、ラキアさんはいい人
言い聞かせ? いいえ暗示です
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます