妖怪族の国69

 蜘蛛の巣の張り巡らされた三階層から、四階層へと降りると大広間だった

 いかにもこれから強敵が待ち構えていますって感じだ

「あー、これ絶対強い魔物が出てきますよね。でもわたくし一度ここを攻略しているので全然怖くないですよ。リディエラ様もいますし。あ、攻略と言えば少し前に弟妹達もここを攻略しに全員で入ったんですよ。あ、全員って二十人くらいいるんですけど、まだ幼いにもかかわらずみんなで協力して攻略したらしいのですよ。いやはや、二十人という大所帯でしたが、この迷宮は彼らにはまだ早いと思ってたんですけど、あっさりと攻略して出て来たので姉としてはこれほど誇らしいことはありません。みんな本当に仲良しで可愛くて、私の自慢の弟妹たちですよ。リディエラ様は一人っ子でいらっしゃいましたよね? よ、よろしければわたくしと姉妹の契りを・・・。いえ、何でもありません! 調子に乗りすぎました。ああでもリディエラ様がわたくしの妹になってくださったと想像しただけで涎が。あ、あの、今のは聞かなかったことにしてください。あ、聞こえてなかったですか、それは安心しました。さて、いよいよ四階層。この迷宮も残すところここを含めてあと二階層です。張り切って参りましょう!」

 すごい勢いでマシンガンのように話すシオリさん。ほんとにおしゃべりが好きな人だ

 それと、妹になる件はちょっといいかなって思ってしまった

 僕は兄弟姉妹もいないし、シオリさんみたいなお姉さんがいたら楽しいだろうな

 でも精霊王女である僕は勝手にそんなことできない

 一人に加担しすぎちゃだめなんだ

 まぁエンシュやテュネたち四大精霊が弟子を取るくらいなら許されてるけどね

 歴代勇者とかそうだったし

 さて、広場の中央に進んでみるかな

 まぁこの感じだと十中八九ボス魔物が出てくるんだろうけどね

 中央へ向かって一歩を踏み出し、二歩、三歩進んだところで異変が起こった

 ぐしゃぐしゃ?わしゃわしゃという小豆をザルでがさがさしているような音が天井から聞こえる

 上を見上げると、数千匹はいるかと思われる多種多様な蜘蛛の群れがこちらに一斉に目を向けた

 薄気味悪く光る眼が数万単位でこちらを見つめる姿は背筋がゾッとする

「ひぃいい! 何ですかあの数! うへぇ、蠢いてますよ。 あ、落ちてきました」

 冷静に見てないで対処しなきゃ!

白狼火花はくろうひばな!」

 シオリさんの先制攻撃

 大鎌円応によって弾ける炎が周囲にまき散らされる

 落ちてきた蜘蛛のうち数百匹はそれで焼かれるけど、数が多すぎてその程度じゃ全然減ってない

「合成魔法、ダブルフレア!」

 焼き尽くす炎を二つ合成した強大な炎の魔法で未だ落ちてきている蜘蛛を焼いて行く

 ああ、これでも駄目だ。今ので千匹ほどウェルダンになったけど、それでも次から次へと落ちて来る

 あ痛っ! 噛まれた

 うー、痛い痛い。また魔法毒だ

 でもシオリさんに毒消し団子をもらってるから大丈夫

 効力が続いているうちに倒しきろう

白影炎鷲はくえいえんじゅ!」

 うわ、鳥みたいな炎が宙を舞いながら蜘蛛を焼いてる

 綺麗な炎だなぁ。って見惚れてる場合じゃない!

「合成魔法、ライトヴァーン!」

 今度は光と炎で僕とシオリさん以外を覆う巨大な白炎を放った

 それがうまく作用したのか、シオリさんの炎と混ざり、まるで白い不死鳥のように宙を飛びながら蜘蛛を焼いていく

 これはすごい

 不可抗力だったけど、僕の魔法とシオリさんの妖術が組み合わさってとんでもない技になったみたいだ

 自動で蜘蛛を攻撃してくれてる。まるで生きてるみたいに

「ななな何ですこれ! 一体何が起こってるんですか!?」

「分かんないけど、僕とシオリさんの力が組み合わさったんだと思う」

「そ、それは、わたくしたちの共同作業ということですね! ああ、幸せです。わたくしとリディエラ様は相性がいいようですね」

 なんて恍惚とした表情を・・・

 でもまぁこの合体技?のおかげで蜘蛛はあらかた片付いたみたい

 残る数百匹は二人で協力して倒しきることに成功した

 いくつか噛まれて痛いけど、まだ団子の効果が効いてくれてるおかげですぐに痛みが引いた

「さすがですリディエラ様! ああ、なんと美しいのでしょう。わたくしの目はもうリディエラ様の顔に釘付けです。はぁあ、リディエラ様が妹になってくれたら、弟妹たちと一緒に撫でぐりしますのに。ハッ! すいません、つい願望が」

「う、うん、まぁ撫でぐりくらいならいつでもいいよ」

「本当ですか! 幸せです!」

 あっという間にからめとられ、僕はシオリさんに頭をなでなでされまくった

 めちゃくちゃにされてるように見えてすっごいソフトタッチで、気持ちよくて寝てしまいそう

 眼がトロンとしてきた

「あらあら、リディエラ様、寝てしまいましたね。フフフ、何と可愛いのでしょう。ジュルリ、おっとよだれが。ああ、わたくし幸せです。愛おしいですリディエラ様」

「う、うぅん」

 数分で僕は目を覚ました

 シオリさんの膝枕が気持ちいいのでもうちょっと寝ててもいいかな?

「あら、リディエラ様起きたのですね。フフ、よだれの跡がありますよ。フキフキしましょうね」

 まるで妹の世話をするように僕の口を拭いてくれる

 でもこれシオリさんがやりたかっただけだね。僕達精霊はよだれ出ないもん

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