妖怪族の国56

 あの巨大なアヤカシをあっという間に倒してしまった白と黒の姉妹はこれまでの修行の日々を話してくれた

 二人の友人である三獣鬼も童子に成れたみたいだ

 童子はここ数百年も成れた鬼人がいない。それだけにテュネたちも非常に興味深気に見ていた

「なるほど、私達精神生命体に近い体に成っていますね。これは非常に面白いです。ということは鬼神は完全に精神生命体となり、寿命がなくなるのではないでしょうか?」

「えっと、私達はそのあたりよく分からないんです。何せ今まで鬼神になったのは絶桜鬼さん一人だけなので。その彼女も今異世界を旅しているようですし」

「ああ、彼女ですね。確かにあの子はいつも人々のためにと動き、強さを常に求めていました。最後にあったのは一万年ほど前でしょうか」

 そ、そんなに前に異世界に旅立ったの!? 過去にそんなすごい人がいたなんて知らなかったよ

「そうです。絶桜鬼さんは私達の目標なんです!」

 ハクラちゃんも嬉しそうにそう語った

 アヤカシの一件も片付いて、数週間をかけて壊れた場所の復旧だ

 まさかアヤカシの封印が解けるとは思わなかったらしく、なかなかな被害が出たけど、不幸中の幸いに怪我人はテュネ以外には出なかった

 そんなテュネもアヤカシがいなくなったことで周りの魔力を吸収出来たおかげで、すっかり元気になっていた

 ここからは観光の再開、と行きたいところだけど、妖蛇族の里はまだ当分復興のため時間がかかるみたいだ

 僕ら精霊も力を貸すために数百柱の精霊達を派遣した

 誰も彼も妖蛇族のためにと快く引き受けてくれた精霊ばかりだ

「王女様、本当にありがとうございました。復興した暁にはまた是非いらしてください」

 ミズキさんとミナちゃんが僕らに感謝の言葉をくれた

 絶対また来て今度は忍者修行をしてみたいな


 さて、次なる里は妖狸ようり族の里だ

 族長はキチヨシさんというたれ目のすごく優しいお兄さんで、案内はその妹のタカラちゃんがしてくれるらしい

 タカラちゃん。なんだか幸せになりそうな名前だ

「どうも!タカラだよ! 妖狸族の里にようこそだよ!」

 元気な子だ。ふっさりとした尻尾が可愛いね

 妖狸族の里は族長達の種族である隠神刑部いぬがみぎょうぶ族を含め、化け狸族、むじな族、まみ族、古狸こり族などの種族がいる

 余談だけどここには昔、かの有名な刑部姫おさかべひめという族長がいたらしい

「さぁ僕について来るがいいのだよ! たっぷりみっちり案内してあげるのだよ!」

 元気にちょこちょこ走り回る姿は何とも愛らしいじゃないですか! 抱きしめていいでしょうか?

「まずここでお昼食にするのだよ! 僕が作るのだよ!」

 そこは古ぼけた一軒家で、とても食べ物を出すような場所に見えなかった

「フフフ、ここには妖術がかかっているのだよ。まぁみていて欲しいよ」

 そう言うとタカラちゃんはその妖術を解いた

 すると今まで小汚い小屋だと思っていたそれが綺麗な定食屋へと変貌した

 なぜ汚いいで立ちにしていたのか聞いてみると、一人でやっているので防犯のためだったらしい

「ここは僕が経営しているうどん屋、刑部屋なのだよ! 僕の手打ちうどんは世界一って自負があるのだよ」

 ほほぉ、それはすごく楽しみだ

 店の中に入って席に座る

 掃除もしっかりとされてて、純和風な感じ。ところどころに趣があって見た目にもゆったりとできる

「待っててほしいのだよ。朝打ち立てのうどんを湯がいてくるのだよ」

 どうやらタカラちゃんは毎朝手打ちうどんの仕込みを一人でしているらしい

 完全な趣味なんだけど、その味が話題を呼んでついには店までもったという本格派

 どこでうどんの作り方を習ったのか聞いてみると、数年前にふらっと現れた異世界からの旅人が教えてくれたそうだ

 その異世界人は初老の男性で、大きな刀を背中に背負ってたから冒険者だろうとのこと。 

 異世界人の冒険者! やっぱりいるんだね

「その人はハタノトラヤスって名乗ってたんだよ。きっと名のある料理人なんだよ。うどん以外にも蕎麦や小料理も習ったんだよ」

 確かに、色々な料理を知ってるってことは料理人だったのかも

 タカラちゃんが聞いた話だと、そのハタノさんという冒険者は料理の探求をしながら旅をしていたらしい

 自分の得たスキルについても話してくれて、その力は“切断の極み”

 ほぼどんなものでも切断できるというとんでもないスキルだった

 あと、大きな刀だと思ったけど、もしかしたら大きな包丁だったのかも

 魔物と戦ってその肉をその場で切り取って料理。孤高の料理人ハンターだね

「できたのだよ! かけうどんなのだよ!」

 うどんにだし汁にネギと揚げ玉というシンプルな狸そばだけど、これが絶品だった

 うどんは腰が強めなんだけど、程よい弾力で、出汁はカツオやトビウオ、その他知らない魚で取ってあって味が豊ゆたか

 あっという間に食べつくしてお替りまでもらってしまった

「どうだったよ? 僕のうどんは」

「すっごくおいしかったよ。また食べたいね」

「嬉しいのだよ!」

 にっこにこと太陽のような笑顔で喜ぶタカラちゃん

 ちょっとだけ抱きしめちゃ、だめ? だめかな?

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