黒の国24 中編

 八十六階層

 雨が降りしきる八十一階層と同じような街

 激しい雨で、視界もさえぎられる

「お、僕のとこまで来るなんて、これでやっと僕も戦えるってことかな?」

 雨の中、傘もささずに立っている男の人

 年齢は二十代くらいかな?

「僕はうつほ。言っとくけど、僕はこれまでの子よりもはるかに強いよ。まぁ雨が降ってるときって限定条件でだけだけどね」

 空さんは銃を構える

 ん? この銃、水鉄砲だ

「手加減はしてあげるからね。みんな女の子みたいだし」

 空さんが水鉄砲を撃った

 発射されたのは弾丸のように速い水の塊

 それはアスラムの方にクリーンヒットして体力を奪っていった

「うっ、水? あんなおもちゃでどうしてこれほどの威力が?」

 次弾が来そうだ

 慌てて物陰に隠れる

「隠れても無駄だよ。雨は僕の能力を底上げしてくれるんだ。君たちの居場所はこの雨でバレバレってわけ」

 物陰から覗くと空さんは僕らの隠れているビルの影とは反対方向へ向いていた

 わかってないじゃないか・・・

 でも、それは勘違いだった

 空さんは自分の能力のすごさを見せつけるためにわざと別の方向を見ていたんだ

「それっと」

 また撃った

 反対方向へ向かった弾丸は急激な曲線を描いてテュネのお腹にヒット

 そこからは一方的に攻撃され続けた

 手加減してくれている分あまり体力は減らないんだけど、こちらが仕掛けようとするたびに撃たれて攻撃に専念できない

「どうしよう・・・」

 考えろ、何か打開策はあるはずなんだ

 ふと思い出した

 そういえば、クラーケンのポチさんからもらったオーブ、まだ使ってなかったな

 これだけ広いフィールドなんだからポチさん、召喚できるかも

「いちかばちか、やってみよう」

 オーブを宙に放った

 するとオーブがまばゆく輝いて何かが飛び出した

 あれ? ポチさんじゃない?

 そこに立っていたのは背中に六本の触手を背負い、白いドレスにイカの頭のような王冠をのっけた十歳くらいに見える女の子だった

「ようやく呼んでくれたか! わしこそがクラーケンプリンセスのポチじゃて!」

 触手をうねうねと動かして決めポーズをとるポチさん、いや、ちゃんだねこれ

 ポチちゃんだ

「さてリディエラちゃんとか言ったかの。わしの力、存分に見るがよいぞ! まずはこの雨をどうにかするぞ!」

 ポチちゃんが触手を空に向け、人間と同じ手をパーンと叩いた

 すると雨が一気にその場に止まり、動かなくなった

「わしの前で水など無力! 全ての水がわしの意のままよ!」

 今度は手を振り上げて空さんに向けて振り下ろした

「げ、それって、僕の力と同じ・・・」

 雨は濁流となって空さんを飲み込んでいった

「嘘だろぉぉおおお!」

 空さんの叫びが響き、この階層のクリア表示が出た

「ふ~、すっきりしたぞい。ではまた何かあれば呼んでくれ!」

「あ、ちょっと待って。君、本当にあのポチさん?」

「そうだと言っておろうが。あれは威圧のための仮の姿じゃて」

 なるほど、じゃぁこっちが本来の姿だったのか

 それにしてもなんて強さなんだろう

 もしあの時戦っていたら負けてたかも

 長話、聞いててよかった

 ポチちゃんは「絶対また呼ぶんじゃぞ」と言いながら帰っていった


 八十七階層

 おばあちゃんが一人、優しい笑顔で立っていた

「おや、雨宮のぼっちゃんはやられちまったのかい。じゃぁ私のばんさね。私はアクシア。能力は重力さね」

 アクシアさんはこちらに目を向ける

 眼光の鋭さが歴戦の戦士だということを語っている

「一気に、片付けてあげようね」

 手をこちらに向けると重力場が発生して僕らを飲み込んだ

 体が重くて動けない

「おや、その程度で動けなくなるとはね。詩季は軽々耐えてたよ」


 詩季? 確か九十階層で待ってる人だ

「あの子は私が手塩にかけて育てたんだ。私に勝てないようじゃあの子に勝つなんてまず無理だよ」

 また手をかざすとズンと重たくなった

 つ、潰れそう

「まだ、まだ、この程度で!」

 エンシュが立ちあがる

 それを見て僕たちも立ちあがった

「ほぉ、いいやる気だね。扱きがいがありそうだ」

 また重たくなる

 段々と重さが増えてるみたいだ

 それでも体が慣れたみたいで、エンシュは既に歩き出していた

「てぇい!」

 エンシュが大地を砕くほどの踏み込みでアクシアさんのに向かって走った

 そのエンシュを見て今度はエンシュの周りの重力だけを軽くしたみたいだ

 エンシュの体が宙へ浮いて行く

「メテオ」

 アクシアさん必殺の攻撃のようで、高く浮き上がったエンシュに一気に重力をかけて隕石のように地面へ叩きつけた

 それによりエンシュが戦闘不能になる

「なら~、こちらも~」

 いつの間にか重力から抜け出していたフーレンが詠唱の終わった魔法をアクシアさんへ放っていた

「デスグラビティ!」

 アクシアさんはフーレンの大魔法で地面に叩きつけられた

 ちょ、いくら痛みがないとはいえ相手はおばあちゃんなんだから、無茶はしないでよ

「一体どうやって、私の重力場を抜け出したんだい?」

 立ちあがりながら赤くなったアクシアさんがフーレンに問う

「はい~、私も魔法で~、重力場を作って~、相殺しました~」

 フーレンって天然だけど意外と鋭かったりするね

「重力使いが重力に負けてちゃまだまださね。あたしの負けだよ」

 アクシアさんが負けを認めたことで次の階層へすすめるようになった


 八十八階層

 密室のような空間に立つ女性

 右腕がなく、精悍な顔立ちに深紅の髪を携えている

「・・・」

 何も話さない無口な女性だ

千堂神流せんどうかんな

 それだけ言うと赤く光る剣を出現させた

 それもこの空間を埋め尽くすほどの剣の群れ

「死になさい」

 いや殺せないけどね! 殺せないけどね!

 でも一言一言に迫力があって怖い

「ホーリーサークル!」

 僕の結界で剣による攻撃を防いだけど、波のようにうねる剣に何度も何度も斬りつけられて結界は破壊されていった

 アスラムが土壁を、フーレンがエレメントの結界を、テュネが防御力を底上げし、剣を防ぐけど全てが無駄に終わった

 剣は減るどころかどんどん増えていって僕たちの防御をやすやす突破し、大ダメージを与えていった

 全員が今の攻撃で真っ赤に・・・

「か、回復、を」

 僕が魔法を使おうとすると「させない」と神流さんに攻撃され、僕は戦闘不能になった

「まずい、間に合わなかった」

「大丈夫! 任せて!」

 クノエちゃんが刀を振るい、赤い剣をすべて叩き落した

「え? すご・・・」

「こ、これ凄く疲れるから一回しか、無理」

 でも、テュネが回復のアリアを歌う時間を稼げた

 これで僕以外みんな回復できたみたい

 神流さんは目を見開いて驚いている

「私の、オーラブレードが」

 あ、ショックも受けてるっぽいね

 その隙を突いてエンシュとクノエちゃんで畳みかけるようにカンナさんを攻撃

「しまっ」

 しまったと言い終える前に倒しきることができた

「私の負け・・・。詩季との戦い以来。あなたたち、強いのね」

 微笑んだ神流さんはまるで女神様のようにきれい

 何とか勝利した僕らは階段をゆっくり上った


 八十九階層

 まるで学校の体育館のような場所だ

「よく来たな! 私がここの先生、じゃなかった。ここの守護者の美汐みさと、日野美汐だ! よろしく頼む!」

 先生?

 確かに白衣に眼鏡、いかにも女性教師っぽい恰好をしている

「私の姉さんを倒したなんてやるじゃないか!」

「え? お姉さん? あ、さっきの剣のひとですか?」

「ん? 違う違う。もっと前の階にいただろ」

 確かにさっきの神流さんとは名字が違う

 じゃぁその前のおばあちゃんかな?

 いやでも年が離れすぎか

「空間能力者がいただろ。あれが私の姉さんだよ」

「「えええええ!!」」 

 全員で驚いた

 だって、どう見ても反対ですもん

 美汐さんがお姉さんじゃないの?

「とある事情で姉さんは何年も眠っていたんだ。歳をとることもなくね」

 美汐さんのお姉さんは亜空切断を放ってきたクールビューティの鷹音さんだ

 言われてみれば顔が似てる

「ほんとは双子なんだよ私ら」

 その事実にさらに驚いた

「ま、そんな話はまたの機会でいいだろ。ここを通りたければ私を倒していくんだな! 今までのやつらは私の中では最弱、この私こそが最強なのだ!」

「でもまだ詩季さんが控えてますよね?」

「細かいことは気にするな! 行くぞ!}

 美汐さんの能力

 聞いただけで鳥肌が立つような凶悪な能力だった

 殲滅の霧・・・

 相手を分子レベルで分解してしまう能力だとか

 ここでは死ぬことはないんだけど、当たれば一発で戦闘不能ってわけだ

 でも、どうやら美汐さんは能力を使うのがかなり久しぶりだったらしく、あらぬ方向を分解していた

「あれ? ちょ、待ってくれ。コントロールが」

「問答無用です」

 テュネとアスラムの蹴りで美汐さんは沈んだ

「うぅ、姉さんに会わせる顔がない。てか仕方ないだろ! 普段私は学校の教師だぞ! それに平和になったあの世界で私の戦闘用能力使う機会なんてなかなかないんだよ!」

 ものすごく、言い訳してる

 まぁ一人反省会は文字通り一人でしてもらおう


 そして僕らはいよいよ九十階層へ踏み込んだ

「あら、来ましたのね」

 そこにいたのは八十一階層で見た詩季さんではなく、謎の長い青髪を風になびかせる少女だった

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