黒の国23

 七十一階層

 ここからの情報はさらに少なくて、75階層から先には誰も行っていない

 まずここはまるで街のような作りになっている

 人気はなくてゴーストタウンみたいだ

 あ、エンシュが怖がり始めてる

「リディエラ様、また何か出そうな雰囲気があるのですが…」

 確かに怖いかも。今にも何かが出てきそうで

 恐る恐る進むと家の陰から人が現れた

「お助け下さい!」

 それは兎人族と言う獣人に近い種族の女の子だった

 兎人族は人間より兎に近くて、大まかなカテゴリ的には獣人に分類されているらしい

「街の人々がみんな悪い妖精に攫われてしまいました! どうか私の大切な仲間たちを救ってください!」

 どうやら七十一階層からは冒険方式? まぁ今までも冒険っぽかったけど、ここはさらにそれらしく作ってあるみたい

 それにしても悪い妖精ってどんな感じなんだろう?

 今まで好意的で優しい妖精にしかあったことが無いから見てみたい気もする

 なんとしても八十階層までたどり着いてやろう

「僕たちに任せて! 必ずみんなを助け出してあげるからね」

 兎人族の女の子は安心したように僕たちにお礼を言って街の中へ戻って行った


 七十二階層?

 道中はただ道が続いてて、七十一階層から進み続けてどうやら次のステージに来たみたいだ

 急に景色が変わって森の中になった

 ここでは大量に出てくる虫系の魔物と戦うらしい

 親切な立て看板に、「出てくる魔甲虫を全て倒せ」と書かれている

「魔甲虫なら対応できるじゃない。楽勝よ!」

 クノエちゃん、自信満々だね。って言ってるそばから魔甲虫の羽音が聞こえてきた

「ビュンッ」

 ん?今耳元で何か音が

 後ろの木がはじけ飛ぶ。気づくと僕の頬が切れていた

 弾けた木の方を見てみると、何かが地面に突き刺さっている

「これは、ソニックスカラベですね。音速を超えた飛行速度を誇る森の殺し屋と呼ばれる危険な魔甲虫です」

 アスラムが流暢に説明している間にもそのスカラベは大量に周りを飛んでいるのが見えた

「これは、ヤバいかも・・・」

 一斉にスカラベが飛んできた

 危険だけど僕らの目なら何とかとらえれる!

 僕が防御用の結界を張り、テュネが歌で全員の防御力を強化

 これで当たっても少しなら持ちこたえられるはず

 結界にあたって落ちたスカラベから処理していく

 どうやらこの魔甲虫は角の部分以外は柔らかいみたいで、僕の杖でもあっさり倒せた

 防御さえ固めていれば問題ないね

 しばらくスカラベと戦っていると、どうやら打ち止めになったみたいだ

 いままで見えなかった道が見え、少し休んでからその道を進んだ


 七十三階層

 山昇りステージ

 小さいけど魔物のはびこる山を登って向こう側に行かなきゃならない

 ここの立て看板には、「頂上の神社で秘宝を受け取り先へ進め」と書いてあった

「秘宝だって! 面白そうじゃない!」

 クノエちゃんはこういう冒険にワクワクしてるのか、凄くテンションが上がっております

 山昇りはそんなに苦じゃないんだけど、出てくる魔物が意外と強い

 中でもどれだけ攻撃しても効かない岩巨人はやばかった

 こいつは魔法にも物理攻撃にも耐性があって、とにかく強かった

 攻撃があまりにも効かないからとにかく逃げるしかなかったんだよね

 あとで聞いたんだけど、この巨人はガンマンか盗賊の爆破系の攻撃で楽に倒せたらしい

 僕らの中にその職持ちはいなかったからどうしようもないね

 頂上に着くと神社があった

 その宝物殿、異様に広くて、その中心に秘宝と思われる宝珠が置いてあった

 それに手をかけようとすると声がした

「秘宝を手に入れんとする者よ。我を倒して力を示せ」

 宝物殿の奥から人が出てきた

 天狗族の男性で、鼻が長い

「我は天狗のゴウエン。秘宝を守りし者なり」

 ゴウエンさんは棍を取り出して構えた

「一人ずつでもよし、全員まとめてかかってくるもよし」

 相当腕に自信があるのか、一人で僕ら全員に挑む勢いだ

「この男、隙が無いですね」

 エンシュがステップを踏みながらゴウエンさんを攻撃しようと構える

 先に動いたのはエンシュだ

「てりゃぁ!」

 その強烈な蹴りは空を斬り、カウンターの棍による一撃がエンシュの脇腹に打撃を与えていた

「う、ぐ」

 一気に体力が赤色に

 ゴウエンさん、相当強い

 あのエンシュが技を見極められた上にカウンターまで返されるなんて

「く、油断しました」

 僕がエンシュを回復させるとまた向かっていった

 今度は蹴りを棍で受け止め、押し返した

 その反動を利用してエンシュの後ろ回し蹴りがゴウエンさん肩口にヒットする

「いい動きだ」

 結構すごい音が響いたんだけど、ゴウエンさんは涼しい顔をしている

 それからも二人の攻防は続いた

 エンシュが押され気味だったけど、ゴウエンさんの棍の一撃がエンシュの胸をかすめてその下の大切なぶぶんがあらわになったことで動揺したようで、その隙を突かれてエンシュの蹴りがゴウエンさんの頭を捕らえて気絶させた

「おっと、出てましたか」

 エンシュは敗れた部分を縛って胸を隠す

 もうちょっと恥ずかしがった方がいいと思うけど、まぁエンシュはそういう性格だから仕方ないか

「我としたことが、まだまだ修行が足りぬみたいだ。力を示したお前たちには宝珠を受け取る資格がある。持っていけ」

 無事宝珠を受け取って下山

 これ、何の説明もなかったけどどこで使うんだろう?


 七十四階層

 草原だ

 また立札が置いてあり、「魔物の群れを倒せ」と書かれていた

「来たよ。戦闘用意!」

 魔物の群れは大きな白い狼の魔物

 レッサーフェンリルと言う魔物で、凶悪な牙で敵をかみ砕く

「パイロエクスプロージョン!」

 んえ!? フーレンさん?

 突然フーレンが大魔法を放った

「ふふふ~。実は~立て看板を見たときから~詠唱してたんです~」

 あっという間にレッサーフェンリルが片付いた

 フーレンにしてはすごい機転だったと思う


 七十五階層

 立て看板には大型魔物を倒せと書かれている

 出てきたのはトロール族という巨人型の種族

 大きな棍棒に大きな盾、全身を覆う硬そうな鎧

「ここまで来るとは、なかなかやるべな。オラが相手になるべ。かかって来んべ」

 トロールさんが棍棒を振り上げ地面をたたくと地震が起きた

「うわわ」

 足元がふらついたところを棍棒の横なぎが来た

 それに飛ばされてみんなが一気に赤くなる

 まさかこの一撃だけで大ピンチになるなんて

「回復を、テュネもお願い!」

 僕とテュネでなんとか回復が間に合った

 テュネの全体を癒す回復のアリアがなかったらヤバかったかも

「おう、今までのやつらとは違うべな~」

 また地震を起こそうと棍棒を振り上げるトロールさん

 その大振り攻撃の隙を突いてフーレンが炎魔法で攻撃

「あっついべ!」

 思わず棍棒をとり落とすトロールさん

 今だ!

「一蹴骨砕き!」

 エンシュのスキルでトロールさんのバランスを崩して地面に倒れさせる

「大地鳴動、鋼!」

 アスラムがファーマーの持ち武器である大き目の金槌でトロールさんの頭を叩くと、トロールさんは目をまわして気絶した

 よし、この階層もクリア!

 次はついに前人未到の七十六階層だ


 七十六階層

 立札に、「妖精を追え」って書いてある

 目の前に怪しく光る小さなピクシーがフワフワと浮かんでた

「この子を追えばいいのかな?」

 そう言うとピクシーはスーッと飛んで行ってしまった

 それを慌てて追いかける

 道中は魔物が現れる危険な道で、さらにところどころにトラップがあってピクシーを見失わないように進むのがすごく難しかった

 でも僕らは無事たどり着いた


 七十七階層

 そこには「ピクシーとドクシーの群れを倒せ」と書かれていた

「うわ、多! めっちゃくちゃ多い!」

 途轍もない数の妖精の群れ

 一人一人は可愛らしいのに、これだけいると凶悪だよ

 その一人一人が強力な魔法を撃ってくるからたまったもんじゃない

 僕とテュネで防御を固めてフーレンの魔法で一気に倒してもらった

 魔法から逃げた何人かをクノエちゃん、エンシュ、アスラム、僕で叩いた

 一人だけなら僕の杖でも楽に倒せる


 七十八階層

 立て札に「罠を避け、目的地へたどり着け」と書いてある

 ここの罠は凶悪そのものだったよ

 一瞬でも気を抜けば罠の餌食になって終わり

 踏み込むと槍のようになる草、レーザーを売ってくる花、噛みつかれるとしばらく動けなくなる毒を注入する生きているかのような鉄球、上に突如出現して押しつぶす大きな岩、触れれば一発でゲームオーバーの吹きあがる炎

 それらを時間をかけてゆっくりと潜り抜けたときには僕らは憔悴しきっていた

「はぁ、はぁ、きつい、もう無理」

 クノエちゃんがバタンキューと倒れた

 体力はまだ大丈夫だけど、精神的につらくなったみたい

 しばらく休憩してから次の階層へ行くことにした




 七十九階層

 人質の間

 ここには攫われた町の人々が閉じ込められていた

 どうやら休憩室も兼ねていたようで、ここで休憩できる仕様だったみたい

 さっきのフロアで休憩した意味が・・・

 仕方ないので十分に休息をとって全快してから次の階層へ進んだ


 八十階層

 その立て札には「妖精女王を倒せ」とある

 そしてそこに立っていたのは異世界から来た妖精女王ティターニアだ

「やぁ、僕はシェイナ。異世界から来た悪い妖精さんだよ」

 いたずらっぽく笑うシェイナさんはすごくきれいで、思わず見とれてしまった

「僕と戦って勝てれば街の人々は解放するよ。せいぜい頑張ってね」

 虹色に輝く羽を広げると、僕らに攻撃を開始した

「ホワイトアウト」

 シェイナさんが魔法を唱えると、凍える風が視界を遮りながら襲い掛かって来た

「フレア!」

 フーレンが対抗するように炎魔法でそれを消し飛ばす

「やるね。じゃぁこれならどうかな? ペイン」

 強烈な痛みが僕とエンシュを襲った

「うあああ! がっぐっ」

 痛すぎて視界がぼやける

「解呪のエチュード!」

 テュネのおかげで痛みがなくなる

「あらら、これも対抗されちゃったか。それなら、アースクエイク」

 地面が揺れ、先ほどのトロールさんよりもはるかに激しい地震が僕らの動きを封じる

「さらに、ローズウィップ」

 棘の生えた植物の鞭がうねうねと伸び、エンシュを叩いた

 でもエンシュはその鞭をうまくつかんでシェイナさんを引き寄せて蹴り上げた

「うぐ、さすがにここまで来ただけあってやるね」

 どうやら上に飛んで威力を少し殺したみたいだ

 でもダメージは残ってる

 今のうちに畳みかけるんだ!

「エンシュ、クノエちゃん、アスラム、行くよ!」

 僕が回復呪文でエンシュを回復させる

 三人は一斉にシェイナさんに攻撃を仕掛けた

「烈風神脚!」

「暴風式、神風!」

「大地の恵み、怒りの拳!」

 エンシュがシェイナさんを蹴り上げ、それをクノエちゃんがさらに斬り上げてアスラムが放った土の拳が叩きつけた

「ぐぁあ!」

 直撃したシェイナさんは赤くなってる

 もう少しで倒せそうだ

「ここまで、追いつめられるなんてね。でも、これでどうだ!」

 シェイナさんが指を天に掲げる

「トゥインクルシューティングスター!」

 輝く星が空に現れ、一気に落ちてきた

「やばい!」

 僕は慌てて結界を張ったけど、その結界を砕いて星が僕たちに直撃した

 それによってクノエちゃんとエンシュの体力がなくなり、黒くなった。つまり戦闘不能だ

 残りのメンバーは真っ赤

 これはかなりやばい

 そこで僕はアイテムを使うことにした

 まずはゴーレムのメダリオンでゴーレムたちを召喚

 シェイナさんの足止めをしてもらう

 その間に十階層でもらった回復用のオーブで回復

 さらにテュネと僕で倒れたエンシュとクノエちゃんを復活させた

 復活は一日に一回しか使えないけど、ここが使い時だと思ったんだ

「う、皆復活しちゃってる・・・。僕には回復手段が無いって言うのに、ずるいじゃない」

 シェイナさんは悔しがっている

 一気に形成は逆転

 無事シェイナさんを倒せた

「ふー、久しぶりに戦ったから疲れちゃった。すごいね君たち。これでも僕、元の世界では最強だったんだけどなぁ」

 悔しそうだけど嬉しそうなシェイナさん

 それから彼女は身の上を語ってくれた

 もともといた世界が闇の力を持った異世界の戦士に壊されたこと

 それによって自分は一度死に、妖精に転生したこと

 そこから仲間たちとその闇の戦士たちを打ち破って平和を取り戻したこと

 平和になった世界で暇を持て余していたら黒族に出会い、この塔に誘われたこと等々

 どうやら彼女を含め、異世界からスカウトされた塔の管理者(階層守護者)たちは元の世界への行き来が自由らしい

 前の階層にいたデュラハンのフェルディスさんも時々帰ってるらしいけど、元の世界には未練が無いからここでの暮らしがメインだそうだ

 ちなみにシェイナさんは妖精女王という立場があるから元の世界へ頻繁に帰ってる

「ちょっと長話しすぎたね。はいこれ、僕を倒したご褒美だよ」

 シェイナさんが胸元からペンダントを取り出した

「それは妖精の加護。それを持ってれば妖精族が助けてくれるよ」

 シェイナさんが言う妖精族は彼女の世界の妖精たちで、シェイナさんを慕って手伝ってるらしい

「僕を倒したんだからクリアしてよね。この先にいるのは僕の友達。僕よりも強いから覚悟しておいてね」

 サバサバとしたシェイナさんと握手していよいよ八十一階層へ

 異世界の妖精さんとも仲良くなれて幸せです

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