魔族の国3

 村を調査していると、跡地に残った吸盤の跡からいかに巨大なイカだったかがわかる

 一つの触手が山のようだと言った村人の証言は決して大げさじゃない

 そのとき、ゆっくりと海がうねり、何かが盛り上がってくるのが見えた

「うわ、おっきい・・・。あれがこの村を襲った、魔物?」

「確かに魔物の気配がしますが、ここまで大きなイカ型の魔物など見たことがありません」

 こんなのが陸に上がって暴れだしたらジューオンは、この魔族国は滅んでしまう

 僕たちで止めなきゃ!

「テュネ!」

「お任せください。ここには海があります。たゆたう水こそ私の本分ということをお見せしましょう」

 うやうやしく頭を下げると、すぐに戦闘に入った

「え、エンシュ、手伝いを!」

「いえ、ああなったテュネに敵う者はおりません。リディエラ様は安心して応援してあげてください」

 エンシュは全く心配していなさそうだ

 それは他の二人も同じで、フーレンは空から、アスラムは座り込んで見ている

「さぁ水たち、踊りなさい」

 テュネが海にそう語りかけると、海の水は巨大イカを包み込むようにしてまとわりついた。拘束したんだ

 さらに水は竜巻のようにくるくると捻じれながら槍のようにせりあがっていく

 周囲に回転する水の輪が浮き、それらが一斉に巨大イカに襲い掛かった

 勝負は一瞬でついた

 恐らくはSランクはあろうかという巨大イカは串刺しにされ、輪切りにされて息絶えた

 恐ろしい

 四大精霊って自分の影響下にあるならここまで強いんだ 

 この前熊の魔物に苦労してたのが嘘みたいだ

 でも、そうか、エンシュも回りが炎で囲まれていた環境ならあのくらいの魔物、一瞬なんだろうな

 無事巨大イカは退治で来た

 イカの死骸からは以前熊を倒したときと同じように魔化玉が出てきた

 やっぱりこのイカも作られた魔物だったのか

 魔化玉を回収してからイカの死骸も回収

 このイカ、村の食料にするんだそうだ

 試しに少し食べてみたけど、甘みがあって濃厚で、食感は程よく、生臭さもあまりない

 要するにおいしかった

 これを今仮設されている村の食料にすればしばらく持つだろう

 漁村を破壊されて漁に出れないので食料はキーラちゃんが負担する手はずになっていた

 これで負担は少しは減るはずだ

「それにしてもこの魔化玉を一体だれが植え付けているのでしょうか? あの時、勇者と共に魔王と戦ったあの日、私たちは確かに魔王の肉体が死んでいるのを確認しました。世界を脅かす魔王はもういないはずなのです」

 テュネの疑問はもっともだ

 この世界に蘇生なんて奇跡はないみたいだし、死んだらそこで終わりのはずなんだ

 でも・・・。僕は胸に不安を抱えながらもジューオンに戻った

 ジューオンでは兵士たちが出迎えてくれた

 キーラちゃんもいる

「お疲れ様なのだ! 精霊様!」

「あの、僕のこと、リディエラって名前で呼んでもらえると嬉しいな」

「リディエラ様、この度は我が国の大切な領民を救っていただきありがとうございます!」

「様もいらないよ。リディエラでいいから。それと、敬語もなしね。僕の方が年下だし」

「む、それなら、リディ、エラ、ありがとうなのだ!」

「あ、そうそう、巨大イカ、テュネが倒したんだけど死骸は食料として持ってきたよ。仮設村の人達にでもあげてよ。結構おいしいからみんなで食べてみて」

「ありがたいのだ! 早速届けさせるのだ!」

 キーラちゃんたちの歓迎を受けながら僕はジューオンの魔王城へと入った

 外観は昔から変わっていないらしくおどろおどろしいけど、中に入ってみるとところどころに花が供えられ、キーラが描いた可愛らしい絵が飾られている

 キーラは絵を描くのが趣味で、かなりの枚数がこの城に飾られているらしい

 お世辞にもうまいとは言えないけど、温かみがあって僕は好きだ

 手入れされ、丁寧に飾られたキーラの絵

 この城の人達がキーラのことを愛しているのがよく伝わる

 城の大きな部屋に通されると、キーラから嬉しい知らせを聞いた

 どうやら勇者が来ているらしい

 今はキーラを狙う何者かの調査のため城を離れているみたいだけど、今日中には戻って来るそうなので一度会っておこう

 それにしても勇者ってどんな人なんだろう?

 きっとイケメンで、強くて誰にでも優しい頼れる男の人なんだろうなぁ

 そんな僕の甘い想像は、本人によって打ち砕かれることとなった

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