勇者3

 あの少女、厄介なところに逃げ込んでくれたもんだ

 ここは植物人の国プランティアじゃねぇか

 昔駆け出し勇者だったころに来たことはあるが、俺たちに対してはかなり友好的だったはずだ

 精霊様の加護も受けていたからだろう

 だが、一度怒らせればそれこそとんでもないことになる

 早く捕まえてこの国から引きずりださないとな

 とにかく植物を傷つけないように細心の注意を払わねぇと

 入国すると、国境を守っている植物人の女性が地面から生えるように現れた

 植物人は女性しかいない。今出迎えてくれたのは以前にもあったことのある女性だな

 確か名前はミシアさんだったか

「お久しぶりです勇者様、世界を救われて以来ですね」

 にこやかに対応してくれるミシアさん

 よかった怒ってないみたいだな

「あぁ、ところでここに魔族の女性が入ってこなかったか? 俺は今そいつを追っているんだが」

「えぇ、先ほど入国しましたね。特に嫌な感じはしなかったので通しましたが、それが何か?」

「嫌な感じがしなかった? 本当か? あれは現魔王の暗殺者だぞ」

「まぁ!あの子がですか? でも、彼女からは悪いものが感じれなかったのです。 それどころか悲しみが伝わってきました。ここは心の傷を持った者が癒しを求めて、あるいは争いに嫌気がさして来ることが多いのでそう言った方かと思ってました」

 なるほど、確かにこの国は傷心した者や戦争や争いに嫌気がさした者が来る場所でもある

 それに、悪しき心を持つ者が入ろうとすればそう言った感情を察知できる植物人族が通すはずがない

 幻覚などでだますこともできない彼女らの目をかいくぐることもできないだろう

 これは・・・。彼女には何か裏があるな

 悲しみの感情を感じたと言っていたか

 殺さずに捕らえて事情を聴いた方がいいかもしれん

「勇者様が追っているのであれば案内いたします。あの子は今集落の奥に隠れているようですね」

 仲間と情報共有をしたようだ

 すでにこちらの伝えた情報はいきわたっているとみていいだろう

 彼女たちはその全てが姉妹と言ってもいい

 植物を介して情報共有するのもお手の物だろう

「捕らえました。あとは勇者様にお任せしても?」

「あぁ、すまないがそうして欲しい」

「分かりました」

 意外なほどあっさりと捕まってしまった少女を一見する

 少女は観念したのかおとなしい

「殺してください。もう私は疲れました」

 生きる気力を彼女から感じられない

「何があった? 話だけは聞いてやる。処分はそれからでもいいだろう」

 話を聞いてみると、彼女にも同情すべき点があった

 名前はニーバ、辺境地にある村の最後の生き残りで、洗脳と幻覚を得意とする特殊な魔族だった

 魔王との戦争によって家族も自分を可愛がってくれた村の人達もすべて殺され、ただ一人生き残った後は魔王に使われていたらしい

 魔王が倒されてからはとある男の下に半ば無理やり従わされるように仕えていたようだ

 その男は現魔王の転覆をもくろみ、亡き者にした後は自分が魔王として君臨しようとしているようだ

 ニーバ自身はこの男に会ったことがなく名前すら知らないそうだが、呪いによって逆らえば殺されてしまうのだそうだ

 男との連絡はいつも仲介人か通信魔法を使って行っているみたいだ

「この会話も恐らく聞かれています。私はまもなく死ぬ、でしょう・・・。う、ぐすっ、うぅううあああ」

 突如泣き始めたニーバ


「何故泣くんだよ。死ぬ覚悟はできてるんだろう?」

「私は、両親や村の人達のおかげで、助かったんです。でも、もうこれで、うぅ、私は死んでしまう。みんな、ごめんね、ごめんね。せっかく助けてもらったのに・・・。お父さん、お母さん、もうすぐそっちに、行くから」

 ・・・

 俺は、何をやって来たのだろうか

 あの戦争ではこのような子がたくさんいたはずだ

 そんな子も助けられないで何が勇者だよ!

「安心しろ、お前は俺が助けてやる」

「え? でも、私は・・・。うっ! ぐぁ」

 いきなり首を抑えて苦しみだすニーバ

 呼吸ができていないようだ。このままでは彼女が死んでしまう!

 俺はすぐにニーバを起こすと、首に紋様が浮き出ているのを見た

 呪いの紋だ。それに手をかざす

「アンチカーズ!」

 呪いを解く魔法

 俺の聖魔法はかなり強力だ。これなら呪いも解ける

 紋様は砕け散るように消えた

「うっ、カフッ、ゲホゲホ」

 呼吸ができるようになり、大きく息をするニーバ

 そのまま気を失ってしまった

 それから数日間、彼女は眠り続けた

 相当な負荷がかかっていたのだろう

 やがて目を覚ますニーバ

「ここは・・・。私、死んでない?」

「お、目覚めたみてぇだな」

「ゆ、勇者!?」

 ニーバは驚きベッドの陰に隠れた

「安心しろって、俺はお前を攻撃しねぇから。それよりほれ、飯だぞ」

 俺は植物人たちに作ってもらったおかゆを差し出した

 恐る恐るそれを手に取って夢中で食べ始める

 小動物みたいで可愛いな

「ニーバ、今まで大変だったな。これからは俺が守ってやるよ。それがあの戦争の中心にいた俺の償いだ。それと、すまなかったな。お前の家族を助けてやれなかった。俺が殺したようなもんだ」

 自分の素直な気持ちをニーバにぶつけてみた

「・・・。私を、許してくれるのですか?」

「許す? 何言ってんだ。お前をそんな風にしちまったのは俺が原因だ。俺が殺されても仕方ねぇよ」

「でも、私は暗殺の手伝いを・・・」


「大丈夫だよ。魔王も無事だった。お前も無理やりやらされていたんだ。これからはもうそんなことに手を染めなくていい。ここで平和に暮らせ。植物人との話はついている。畑仕事を手伝うならいつまでもいていいそうだ」

 それを聞いて気が抜けたのか、ニーバは大声で泣いた

 俺はそんなニーバを軽く抱きしめた。小さいな

 魔王キーラと同じくらいの歳だろう

 まだ子供だ

 こんな子を無理やり暗殺者として送り込むなど・・・。許せねぇ

 その男の尻尾、必ず掴んで引きずり出してやる

 俺はニーバを抱きしめながらそう誓った

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