獣人の国6
雨が降った。しとしとと降る気持ちのいい雨だ
静かな雨音を聞きながら大きな木の下で雨宿りをしていると、旅人や商人、ここいらに住む動物たちが集まって来た
彼らと他愛のない話で盛り上がっていると、目の前に大きな雷が落ちて僕は驚いた
雷の電流がこちらに来ると危険なのですぐに見えない結界を周りに張り、電流を防いでおく
それにしてもこの雷、何かがおかしい。普通雷は高いところに落ちるものなのにこの木に落ちずに目の前に落ちた
それならまだたまたまだと思えたけど、落ちた雷の電流が拡散することなくその場にとどまっている
青白い光を放ってバチバチと音を立てる雷はやがて小さくなり、そこには鼬のような可愛い顔の獣が立っていた
「あれは、雷獣じゃないか!」
雨宿りを一緒にしていた旅人の一人が叫んだ
「雷獣だと!? 災害指定の神獣じゃないか! まずいぞ、今この場には新人冒険者のこの娘たちしかいない、逃げるぞ!」
その言葉に一斉に蜘蛛の子を散らすように彼らは走り出した。その場には特にこの雷獣を脅威に思っていない僕らだけが残された
雷獣はそっと僕らに近づくと僕に頭を垂れてすり寄って来た
「雷獣は我ら精霊族と縁の深い神獣です。特に雷の精霊ヴォルトであるライラとは主従関係にあるので我らにあいさつにでも来たのでしょう」
そう言われて安心した。それに雷獣からは全く敵意が感じられず、甘えるように僕の傍らに寄り添っているので撫でてみた
パリパリと静電気のようなものは起こるものの毛並みは非常にフワフワで柔らかく、まるで綿毛のような手触りだ。いつまでも触っていられそうだよ
そんな僕らの元にもう一つ雷が落ちた。そこに立っていたのは一人の女性型精霊だ。恐らく彼女が先も話題に上がったライラなんだろう
「リディエラ様、ご機嫌麗しゅう、わたくしはライラ、ヴォルトのライラでございます」
テュネとはまた違った麗しさを感じる。恭しく一礼をする彼女はまるでドレスのような衣装を着ており、それを手でつまんで姫のようだ
雷獣は嬉しそうに彼女の肩に乗ると一鳴きした
「一度ご挨拶に向かおうと思っておりましたが、少し問題が起きておりまして、片付き次第向かう予定でしたの」
「問題って? 良ければ力になるよ」
「いえ、リディエラ様のお手を煩わせるほどでは」
「いいから言ってみて」
「はい、実は…」
ライラは雨の精霊ウォンとともに各地に雨と落雷を蒔いて恵みを与えていた時のこと、突如飛来した竜によって邪魔をされたのだそうだ。その竜は自らをニーズヘッグの末裔と名乗りいきなり襲ってきたらしい
そのせいでウォンは深く傷つき現在動くことができないのだそうだ
それを聞いたら黙っていられない。だって、家族ともいうべき精霊が傷ついているんだから
僕はすぐにウォンの救出と竜の討伐を決めた
神にも近い力を持つ四大精霊とそれと同程度の力のライラがいるのだ
絶対に勝って見せる
四大精霊もその意見に同調してくれた。
「ライラ、案内して」
「はい!」
ライラは嬉しそうに答えた。そして、彼女と共に僕らは竜退治に向かう
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