獣人の国3

 ガチャガチャと鎧が音を立てる。それは僕ら以外の冒険者がたてる音で、僕らは鎧を着ておらず軽装備だ

 魔法使いや精霊術師、占星術師や風水師、そういった職の人ならば軽装備も珍しくない。装備自体にエンチャントが施されているのでそれが防御力を底上げしているらしい

 ただ、僕らの装備にはそういったものが全く施されていない。なぜならセルフ精霊の加護があるからだ

 もともと有望な冒険者や勇者に授けるものだけど、自分自身に加護をかけることもできるんですよ

 主な効果は防御力の強化、攻撃力の強化という一般的なものから耐性、オートで回復など実は性能がすごい

 それもそのはずで、僕らは最上位に位置する精霊だ。本来は世界を救うほどの人物に加護を授ける存在なのだ。それを私的に使えるのも世界が平和である証拠なんだろうと思う


 しばらく歩いて行くと上流へとたどり着いたようだ。でも原因となるものは見つからないので、水の湧きだしている川の大本、山にある洞窟の中へと入ることにした

 中は肌寒いらしく、冒険者たちは薄手のコートのようなものを纏い始めてる

「お前ら寒くないのか?」

 そう聞かれて気づいたんだけど、僕は全くと言っていいほど暑さ寒さを感じない。これも精霊特有のものなのかな? 

 するとその疑問にテュネが答えてくれた。どうやら精霊王には耐性と言うよりも無効化と言っていいほどの強力な加護があるらしい。そりゃ暑さ寒さも感じないわけだ

 一応冒険者たちには耐性があることを伝えた。耐性がある人間も意外といることがあるので珍しくないんだそうだ

 洞窟を進むとわずかに水の音が聞こえてくる。チョロチョロといった弱弱しい音が洞窟内に響いてきて、光の魔法で洞窟内を照らしているため非常に明るく内部であるにもかかわらずよく見えた

 そして水がせき止められている原因が分かったよ

 なんと、水源に巨大な植物が芽吹いていたのだ。こんなものが詰まっていれば当然水は流れない

 冒険者たちは植物を焼くために炎系の魔法の詠唱を始めた。それに伴い僕とエンシュも炎の精霊魔法を行使する

 僕らの精霊魔法は普通の魔法と違って詠唱が必要ない。怪しまれるといけないので一応唱えたふりをして放ってみた

 かなり加減したつもりだったけど炎は予想以上に大きく燃え上がってしまってびっくり。大きく炎に包まれて大量の黒煙が出る

 これで水も流れ始めるはずだとみんなで安心したが、黒煙が晴れるとまるで傷のついていない植物がそこにあった

「なんだ? なぜ燃えない?」

 何人かが驚きの声をあげていると、植物ががさりと動いた気がした

「なんか、動いた気がするんだけど…」

 そう口にすると、オウルが「馬鹿言っちゃいけねぇ、植物が動いてたまるかよ」と言う

 それを合図にしたかのように植物がむくりと起き上がった。そして、まるで巨人のように立ち上がったのだ

 顔らしきものが見え、その中央にはぎょろりと一つ目がこちらを見据えている

「あれは、ミートイータープラントマンです。 人間を喰らう凶悪な植物型の魔物ですよ」

 まるで講義でもするかのようにテュネが教えてくれた

 でもそんな悠長なことやってられないんだよテュネ、なぜなら今まさに僕らを食べようと襲ってきてるんですからね

「まずいぞ! あれはBランク指定の魔物だ! 俺らじゃ勝てねぇ、逃げるぞ!」

 リーダーオウルの采配は間違っていない。勝てなければ逃げる。それは当然のことなんだ

 勝てなければ、だけどね

 僕らは逃げる彼らを尻目に立ち向かった

 それを見てオウルが僕を引っ張って行こうとしてる。恐ろしさで足がすくんだと思ったんだろう

「嬢ちゃん! 速く逃げろ! 俺が食い止める!」

 嬉しかった。まだ会って間もない僕らを危険を顧みず守ってくれようとしているのだ。でも、僕らは喰われてやる気はない

「大丈夫だよオウルさん、僕らなら勝てるから」

「何言ってんだ! 気でも触れたのか!?」

 慌てるオウルさんをフーレンの風の牢獄でとらえて守るように後ろへと下げさせた、僕は力を解放した

 その姿は精霊王マクスウェルに戻っている。幸いフーレンの風の牢獄が視界を遮ってオウルからは見えていない

 僕は手に力を収束させた。光を圧縮し、撃ちだすために

 段々と近づいてくるプラントマンは既に目前へと迫っていた。それに向かって僕は手に溜めた光を解き放つ

 一瞬周囲が輝くとそこにはプラントマンの黒焦げになった死体が転がっているのが見える

 その死体が崩れ去ると同時に勢いよく水が噴き出してきた

 僕らはオウルさんたちを連れて一気に洞窟を抜け出すと、すでに外へ出ていたメンバーと共に洞窟から吹き出る水を見た


 湖に戻ると無事滝は流れ落ちるようになっていて、それこそまさに絶景かな絶景かな

 激しく叩きつける水の勢いと美しくかかる虹のコントラストは非常に心にしみわたる光景だった

「ありがとうございました! こちら報酬の金貨20枚です!」

 管理人さんが金貨の入った袋をオウルさんに渡した。それを見て僕らはまた滝を見に行こうとその場から離れようとした

「待ってくれ嬢ちゃん。 これはあんたらのもんだ」

 へ?一体何を言ってるんだ?

 僕は別に報酬なんていらないんだけど・・・

「いいからもらってくれ、あんたらのおかげで俺らは無事帰れたんだ。感謝してんだぜ。それによ、まさかプラントマンまで倒しちまうとは思わなかった」

 そう言われると少しむずがゆかったけど、僕らは金貨2枚だけをもらってあとは全てオウルさんに渡した

「あとは皆さんで分けてください。 僕らはこれだけあれば十分ですから」

 彼らは納得してくれなかったけど、無理やり押し付けてまた滝を見に行った

 滝は本当に素晴らしく、マイナスイオンとかそういう類が出ているのか、癒しまで与えてくれるようだった

 すると、湖の水面下に何か黒い影が見えた。 じっと目を凝らすとそれはこちらに向かってくる

「ん? え? 何か来てる」

 僕がじっとそれを見ていると、それは湖から飛び上がった

 まるで蛇のような姿、鋭く生えた牙に大きく裂けた口、真っ赤な目に木の枝のような角、体色は神々しいまでに白い

 それはまさしく龍。その龍は僕の元に顔を寄せると静かに話しかけてきた

「御礼申し上げます、精霊の王よ。わたくしの名前はミスティ、霞龍にしてこの湖の守護霊獣です」

 彼女(牝らしい)は霞龍という龍で、この湖を守護しているそうだ

 周りの冒険者には話し声は聞こえていないようで、ただただ口を開けて驚いていた

 ミスティさんは滝を戻してくれたお礼をしたかったようで、彼女は僕にうろこをくれた

「そのうろこを天に掲げればわたくしの眷属があなた様に力を貸すでしょう。どうか、お持ちください」

 深々と頭を下げるミスティさん、僕は遠慮なくもらっておくことにした。

 そんな騒動もあったけど、僕らは存分に観光を楽しんでミューニアへと戻った

 次に向かうは犬型の獣人たちが住む街ワオニシアだ

 猫好きだが犬好きでもある僕は今から楽しみで仕方ないよ

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