第111話イレギュラーの調査

「……そう、ですね。見にいくべき、ですよね?」


 そう言いながらも、宮野はどこか違和感を持っているようで、他の三人とは違って首を傾げている。


 だがその理由もわからなくもない。

 多分イレギュラーが現れたってことで警戒してるんだろう。初めてあったのが特級のイレギュラーだったし。


 まあ、普通は相手が特級だとか関係なしにイレギュラーの遭遇なんて基本的にないんだから、遭遇したとわかった時点で警戒するのは間違っていない。俺だってそう教えたし。


 だがそれでも、なんとなく今回は平気なんじゃないかって思えてしまう。

 それは宮野達が俺の予想以上に成長してたからってのもあるだろうけど、なんというか、今回の敵からは『圧』を感じないんだよな。


 ……あれ? さっき俺はもっと警戒するべきだって思ってなかったか? 

 んー? なんでそんなことを思ってたんだ? 


 確かに警戒はするべきだが、それでも特級クラスの圧を感じない現状ではさほど危険ではないと思うんだが……なんだこの違和感。


「まあイレギュラーって言っても特級しかいないってわけじゃないし、なんつーか、今の時点で特級ほどの威圧感を感じないんだよな。特級が現れたなら、その瞬間に嫌な感じがするもんだが、それがないんだよ」

「じゃあ敵は一級?」

「もしくは二級。……まあこっちはないと思うから多分一級じゃないかって思ってる」


 イレギュラーとして発生する時点でそれなりに力を持っている存在ということになるので、二級という可能性は低い。

 だから敵は一級。だがその中でもそんなに力のない類じゃないかと思ってる。


 まあ、そんな特級未満なモンスターでも二級以下が前情報なしに遭遇したら死ぬだろうし、一級でも死ぬかどうかは半々ってところだろうから危険なことには変わりないけど。


「ただ……」

「ただ?」

「心配事もある」


 威圧感は感じないが、だからといって何も感じないわけでもない。


 それに、頭の片隅では、本当に様子を見行くべきなのか、行ってもいいのかって思いが消えない。

 大丈夫なはずなのに、大丈夫じゃないという思いが植え付けられているような、そんな不快感と違和感を感じる。


「ここは土竜が出てくるが、ダンジョンとそこに住むモンスターの関係ってのはかなり関係が深い。モンスターがいるからこそそれにとって最適な環境のダンジョンができるのか、それともダンジョンがあるからそこに適応したモンスターが出るのか。どっちかわからないが、それでもダンジョンとモンスターの間にはそう言う『関係』がある」


 卵が先か鶏が先か、みたいな話だが、どちらにしてもダンジョンとモンスター、と後ついでに素材の能力には関係がある。関係というか共通点か?


「イレギュラーが現れたとしても、その関係から大きく外れたものは出てこない。例えば、陸地に魚とかは絶対にない」


 まあ、今までの記録からするとないってだけだから、今後も絶対にないとは言い切れないんだが、そう言った本当のイレギュラーは頭の隅には置いておいても、状況をまとめる段階では考える必要はないだろう。


「だが、今回は土の中に潜る土竜と、空を飛ぶ蛸が出てきた。まあ蛸の方は見間違いかもしれないが、なんにしても繋がりが見えてこない」


 元々のモンスターの性質を考えれば、イレギュラーが現れるとしても地中で発生、生息する系のモンスターである可能性が高い。

 だが、実際にはそうではない。


「土竜は降ってくる飴を嫌って土の中にいる。じゃあ蛸の方はなんで空を飛んでる? これが雲の上を飛んでるとかならわかるが、違うんだろ?」


 ここのモンスターが地中に潜ってるのは、空から降ってくる雨飴を嫌ってのことだ。いかにモンスターといえど、空から降り続ける小石を受け続けたくはないんだろう。

 だから食らわないように最適化し、地中に潜るモンスターとしてなっている。


 そんな環境の中でイレギュラーが発生するのなら同じように降ってくる飴を嫌うように移動する類になると思うんだが、宮野からの情報ではその蛸は降ってくる雨飴の中を飛んでいるらしい。


「見た感じでは雨の中にいました」

「だよな。そうなると、本当に訳がわからなくなる」


 可能性としては、飴の攻撃程度では効果がないような硬さを持つか、もしくは幽霊のように物理無効という可能性もある。


 だが、飴の攻撃が意味ないほどの硬さを持つのなら空を飛んでいないはずだし、幽霊のような非実体系のモンスターは空から降る雨飴に魔力を使っているために空間の魔力自体は少ないから生存できないはずだ。


「なんにしても、見に行くしかないんですよね?」

「……まあそうなんだがな」


 なのでわけわからなくなっていたのだが、宮野の言葉通り見にいくしかないのは間違いない。

 どことなく感じているおかしさはあるんだが、それでも行かないわけにはいかないのだ。


「全員装備の確認をしろ。それが終わったらすぐにいくぞ」


 俺がそう言うと、浅田が自身の背負っている保存容器を示して話しかけてきた。


「ねえ、これはどーすんの?」

「……一応持ってけ。すぐに終わる可能性もあるし、結界が役に立つかもしれない。だが、必要だと思ったらすぐに捨てられるようにしておけ」


 問いかけてきた浅田もそれ以外の三人も、俺の言葉に頷くと各自確認をし始め、俺も自身の装備がしっかりと使えるか軽く発動させたりして確認した。


「……?」


 なんだ? 急に嫌な感じが強くなった?

 本当にこれでいいのか? そんな思いがしてならない。


 何かを見落としている?

 だが、基本的な考えに間違いはないはずだ。


 違和感の正体はわからないが、それでも先ほどまで考えていたよりは警戒を強めるべきだろうな。


 それほど強さを感じないとは言っても、相手はイレギュラー。

 元から警戒しないわけにはいかないし、どこかおかしいと思ったのは事実だ。


「……なんにしても、気をつけていくしかないな」


 戦いになったとしても派手に戦闘して地中のモグラモンスター達を呼び起こすわけにはいかないし、慎重に行動しないとな。


 そうして俺たちは装備の確認を終えると、イレギュラーの調査のために進んでいった。

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