第42話『特級モンスター』と『生還者』
「多腕っていやあ多腕だけど……多くね?」
一応この場所の情報は調べておいた。いくらモンスターを駆除したって言っても、そもそもなんでこんなダンジョンなんてもんができてるのかわかってないんだ。モンスターが突然現れることだってあるかもしれない。事実、そうなっている。
だから突発的なモンスターとの遭遇にも対処できるように情報を調べ、準備をしてきたのだが、さすがにあれは情報にはなかった。
「あ。え、あの……」
「話は後だ、バカ娘その一。なんで逃げない」
俺はこいつらに死んでほしくないと思い、ダンジョンにおいて生き残るための術を教えた。
その中には確かに、想定外の状況になったらとりあえず逃げろ、と教えてあったはずだ。
こいつらの能力なら、アレからも逃げることくらいはできたはずだ。
あそこに倒れてるお嬢様を見捨てられなかったとしても、一人くらいなら担いで逃げることもできるだろう。
だというのに、こいつらはあのモンスターに立ち向かっていた。
「うあ……だって、逃げたら後ろには大勢の人が……」
「それでも逃げろって教えたはずだ。助けられるのなら助ければいい。だがなお前たちは今、他の誰かを助けようなんて思える状況か? 違うだろ。自分の命の安全を確保し、その上で余裕があるなら他人を助けろ。そう教えたはずだったと思ったんだが、それは間違いか?」
「う……すみません」
俺はこんな状況になったことに苛立ち、その苛立ちを宮野へとぶつけるが、今はそんなことをしている場合じゃない。
「……まあいい。ともかく今はアレを倒すぞ」
「逃げないんですか?」
……誰のせいだと思ってんだ? 俺だって逃げられるなら逃げたいさ。
「ああ。お前らのせいでな。今更逃げたところで、あれはお前らを追ってくる。俺は他人なんて知ったこっちゃないが、それでもお前らに死んでほしい、死んでもいいと思ってるほど薄情じゃねえつもりだ」
他人なんてどうでもいい。死ねば多少何か思うかもしれないが、無理して助けるほどではない。
だが、仲間は見捨てたくない。それがたとえ一時的なものだったとしても、だ。
「そこのお嬢様。俺のことは気に入らないだろうが、生き残りたかったら言うことを聞け」
「……」
北原によって治癒を受けているお嬢様に向けて話しかけるが、まだそれほど治っていないのか、それとも俺のことが気に入らないのか、黙ったままこっちを向いている。
だが、話を聞いているのならそれで構わない。
「それから……そこのバカ娘その二、三、四! しっかりと働いてもらうぞ! 特に猪娘! 休んでないでこっちに来い!」
「誰が、いのししだってのよ……」
これまでの戦闘で疲労が溜まっていたのだろう。モンスターに明らかな隙ができているというのに、浅田は大槌を杖がわりにして寄りかかりこっちを見ているだけで動いていない。
そしてそれは安部と宮野も同じだった。
俺が現れたことで驚いたってのも影響してるんだろうけど、それくらいで注意を逸らすのだからそれは集中力が途切れてきている証拠だ。
これはさっさと多少の無理をしてでもケリをつけないと、誰か死ぬかもな……。
「作戦は簡単だ。俺がアレの動きを妨害して隙を作る。お前らはそこに攻撃を叩き込め。浅田は脚。安倍は頭部。宮野とお嬢様は腕を減らすのを優先だが、ある程度減らしたら頭部にいけ。北原は攻撃を避けながら回復。ただしできる限りアレの意識に入らないようにしろ。以上だ」
「随分と大雑把な作戦ですね」
「そうだな。ろくに作戦会議してる余裕もないからな。それに、したところであんなデカブツ用の訓練なんてしてないんだ。連携なんてとれないだろ」
すぐそばで話を聞いていた宮野が言葉を漏らしたが、大雑把と言われようがこれしか作戦がないのだ。
「チッ! もう動くぞ!」
だがまあ、調べてきた情報にはなかったって言っても、想定はしてたんだけどな。
何せ俺はこれまで三度も想定外に遭遇している。呪われてんじゃないかって思うくらいの遭遇率だ。
そんな俺が、もしかしたらもう一度遭遇するかもしれない、なんて、考えないわけがないだろ?
「まずはこれだっ!」
取り出したのは、銃。エアガンとか魔法銃とかそんなんじゃなくて、マジもんの銃だ。
いくらここがゲートやダンジョンや魔法なんてものがあるって言っても、ここは地球なんだ。十くらいあるさ。
だったらなんでみんな使わないのかっていうと、そんなの、銃を使うより殴った方が強いからに決まってる。
ただし、それは一級や特級、あとは特化型の二級くらいなもんで、三級は銃で戦った方が攻撃力という点では上だ。まあ、当然ながら免許が必要だけど。
それに、持ってても残弾の問題とかがあるからほとんどサブウェポンとしてしか使わない。
これが軍隊とかだと銃をメインとして使う部隊もあるんだけどな。
「やれ!」
まあそんな銃でパンパン、と巨猿の膝を撃ち抜き転ばせる。
すると、俺の声を聞いた宮野、浅田、安部の三人が一斉に攻撃した。
大槌が巨猿の足の親指を叩き潰し、炎が頭部を焼き、剣が腕を切り落とす。
そんな痛みに巨猿は絶叫しながらやたら滅多に暴れるが、その頃にはもう全員離れている。
さて次を、と思ってたら宮野が切り落とした腕が新しく生えてきた。
……再生能力があるのは知ってたが、ここまでか。
だがまあ、それも想定内と言えば想定内。
なので気を取り直して次の行動に移る。
「次行くぞ!」
さっき怯んだうちに準備しておいた魔法を発動し、耳の中に水を生み出す。
そしてそれを頭の中へと潜り込ませ——暴れさせる。
それによって巨猿は絶叫をあげてのたうち回る。
暴れているので少し攻撃を当てづらいが、それでも宮野達は外すことなく着実に攻撃を重ねていった。
巨猿が自身の頭を殴りつけると、パンッ、と魔法が壊された。
もう同じ手は効かないかもしれないが、それならそれで構わない。
起き上がった巨猿は、今のを誰がやったのかわかっているのだろう。俺を睨んでいる。
そして雄叫びをあげると再び腕を再生し始めた。
このままでは相手が再生できなくなるまでの持久戦になってしまう。
だが、そうはさせない。こちとらお前で四度目なんだよ。再生能力のあるボスくらい遭遇したことがあるわボケ!
俺は再生するんだろうな、と予想し、あらかじめ腕の切り口部分に魔法を設置していた。
普通なら再生した腕にぶつかって壊されるのがオチだ。
だがそうはならない。普通で無理なら、普通じゃないことをすればいい。
俺の設置した魔法は、巨猿の再生とともに腕の中へと飲み込まれていった。
そして、完全に腕が治ると、俺は取り込まれた魔法を発動した。
するとどうだ、巨猿の腕は確かに治っている。にもかかわらず全く動いていない。
——グオオオオッ!?
動かない自身の腕が不思議なのか、訳のわからなそうな叫びを上げている。
まあ神経の接合部に石を割り込ませたんだから動くわけないんだが……でも、それは隙だぞ?
俺はもう一度銃を取り出して、巨猿の目を撃ち抜いた。
腕が動かない混乱と、眼球を撃ち抜かれた痛みから、巨猿はまたも叫びをあげ、そしてそこを仲間達が攻めていく。
……このままいけば、倒せるな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます