十四話 シノぶもの

 お話しした。

 ちょっとシノと仲良くなった。

 シノ凧で飛んでた。



 さて地上に降りてみれば赤や黄色の山の中。


 日出国はいま秋の装い。


 ここは最初にシノを見付けたところから、だいぶ離れたところにあるようなので、追っての心配は無さそうだ。


「どれ、もう一つ忍者っぽいところを見せてやるのじゃ」


「ほー、シノは何を見せてくれるんだ?」


「見てのお楽しみじゃ」


 巫女の格好は仮の姿と宙に舞っては大バク転。


 しかして、足を地に着けてみれば華麗に遂げます大変身。


 そこにあったのはなんとどこにでもいそうな街娘の姿だった。


「それじゃあ翼さま。わぁは城なしでの暮らしに備え必要な物を手に入れるため町へと行って参りますね」


 声まで変わってる。


 と言うか骨格レベルで変わってない?


 そんな疑問を口にする暇さえなしにシノは町へと駆けていった。


「おシノちゃんもう行っちゃったのです」


「まるで猫みたいな忙しなさだな」


 シノを待つ間に何をしよう。


 そう思えば栗の木が目に入る。


「これは普通の栗じゃなくて山栗だな」


「食べられるのです?」


「うん、ふつうの栗より小振りだけど甘いんだ。拾って行こう。ついでに若木も城なしエディターで持って帰ろう」


 栗は危ないので俺が拾い若木をラビに任せた。


 去年落ちた実から生えただろう細くまっすぐ伸びる若木はラビでも簡単に引っこ抜ける。


 引っこ抜いたのは一ヶ所にまとめてもらって俺が転送。


 しかしそれも束の間の事。


「ふふっ、いっぱい取れたのです!」


「でもやることももう無くなちゃったな」


 まだまだシノは帰って来ないだろう。


 どうしたものかと辺りを眺めていると木々の切れ目から視界にいっぱい広がる野生のススキ畑。


「こりゃまた見事なもんだな」


「この草も食べるのです?」


「いやいやススキは喰えない……。ん? いや……」


 確かススキは食えたハズだ。


「ご主人さま?」


「ああ、すまん、ススキは食べられるけど俺は食べ方を知らないんだ」


「このままじゃ食べられないのです?」


「食べられないな」


「残念なのです……」


 ススキまで食べようだなんて食いしん坊なウサギさんだ。


 しかし、ススキねえ……。




「ただいま帰ったのじゃ!」


「お帰り早かったな。どうだった?」


「欲しい物は大体手に入ったのじゃ」


「そりゃあ良かった。ところでナタを持っていないか? あっちに竹林があるんだ。竹を切って帰りたい」


「あるのじゃ。ほいっ」


 シノがどこからともなく鉈を取り出して貸してくれた。


「ありがとう」


「ふむ。どうせなら竹の根も掘って行かぬかのう?」


「城なしで竹を育てろと?」


「成長は速いし竹の子も採れるのじゃ」


「唯一家屋でさえ貫通する節操の無さが欠点てか。まあ、それも城なしでなら制御は簡単だな」


 竹はお庭に植えてはいけない植物に殿堂入りする最凶の植物だ。


 でも城なしでならどうにでもなる。


 じゃあこれも持って帰ろう。


「なんじゃ、わぁより詳しそうなのじゃ。本当に日出国の出身ではないのかの?」


「別の世界の日出国から来たからな」


「わぁはからかわれておるのかの?」


「んなこたないさ。たぶん大体あってるよ」

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