二章 かやぶき屋根の竪穴式住居
登場 シノぶもの『シノ』
十一話 下剋上! 夜の色に染まる少女の瞳
※ここだけ三人称です
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時は戦国世は大乱。
なんてどこぞの国の歴史を遡ったような国があり、そこでは絶えず戦が行われていた。
しかし、戦と言えど必ずしも戦場で起こるわけでではなく、
★
「主さま……!」
城の一番目立つ場所、天守で少女が主人に対して悲痛な声を投げ掛けた。
「シノ、か、来てしまったのか……」
「なんとひどい傷……。今手当てを!」
「必要ない、これで良いのだ……」
主人は傷を庇いながらも、手当てをしようとするシノと呼ばれた少女の手をつかんで止めた。
「良いわけがないのじゃ! どうして、どうしてこんなことに……」
「下剋上じゃよ」
「下剋上? そんなの嘘じゃ。画策段階でわぁが気付かぬハズがないのじゃ!」
「ふっ、お前を完全に騙せたか。くくっ、ならまだ捨てたものでは無かったということか。うっ、ごほぁっ!」
吐血。
「あ、主さま……!」
シノは震える声を上げ、震える手で主人の姿勢を楽なものに変え口元の血を拭う。
「もう喋ってはいけないのじゃ! そのような無理をしては死んでしまう……」
シノの目には涙が浮かび、安静を願う声は掠れている。
けれどそんなシノの叫びには取り合わず主人は言葉を続けた。
「シノ良いか? 良く聞け。謀ったのはせがれじゃ」
「はっ? せがれ殿が!?」
「せがれを……。うっ、ごほっ、ごほっ!」
「主さま!」
「どうかせがれを──、そして──」
主人の言葉を聞いたシノが目を見開く。
直後主人の体から力が抜けた。
その最後の言葉に呆然とするもほんの寸刻。
「主さま! あぁ、ああぁ……!」
声を上げてシノは泣き崩れた。
「なっ! 殿!? なんという……。貴様か!」
騒ぎを聞き付けた者たちが次々とが駆け付けて、その内の一人がシノに問いただした。
「ち、違う、わぁではないのじゃ!」
「何を言うか! 殿へ目通りが叶うものに貴様のようなヤツはおらぬわ!」
「ぐっ、それは……」
誰よりも主人と顔を合わせていたがシノには明かせない事情が二つもあった。
二つの内どちらを明かしてもむしろ状況は悪化する。
いや、それどころか一挙一動、どれを間違えてもシノは殺されるだろう。
そこでシノは主人の命を守り、唯一己が生きながらえるであろう逃げを選択した。
「あっ、待て!」
待てと言われて待つハズもなく、シノは窓から飛び出すと獣のように四脚で瓦の上を駆けた。
「くっ、化け物め! お前たち絶対に逃がすな!」
「ハッ!」
夜の天守で三編みが優雅に揺れる。
しかし、そこにあった悲しみを知るものはもう誰もいない。
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