九話 バナナのシャンデリア

 お腹すいた。

 石食われた。

 すっごーいかまど出来てた。



「はいっ! と言うわけで地上の方へとやって参りました」


「やって参ったのです!」


「今日の地上は砂浜! ほら見てください海の水が非常に澄んでいます。しかもですね、エメラルド色! エメラルド色の海ですよ。いやあ、人生一度はこんなところに来てバカンスしてみたいですよね!」


「バカンスしてみたいのです! でもバカンスってなんなのです?」


「いやんバカンス、バカざんす! バカンスをご存じない!?」


「ご、ご存じないのです……。ご主人さまにはわかるのです?」


「すまん俺にもわからん」


「ならなぜラビはバカざんす言われたのです!?」


 いやだってほら毎日がホリデーだったけどバカンスとは無縁だったし。


 しょうがないね。


「そんなことよりあれを見るんだラビ!」


「話は終わっていないのです! ご主人さまは話をはぐらかそうとしているのです!」


「ああ、そうだそのとおりだ! それの何が悪い!」


「開き直ったのです!?」


「おいおい、いつまでもそんな事に構けていて良いのかラビ? 俺の指し示す先にあるのはバナナだぞ?」


「バ、バナナ!? 食べられるのです……?」


「もちろん食べられる!」


「おいしいのです……?」


「一億三千万人が愛してやまないほどには!」


「いちおくさんぜんまん!」


 ごくり……。


「ほら行こう。置いてっちゃうぞ?」


「あっ、あっ、置いてっちゃイヤなのです!」


 なんてアホウなやり取りをしながらバナナの元へ。




「はー、たくさんなっているのです!」


 なるほどバナナってヤツは一本の木に大量になるらしい。


 数十本のバナナの層がシャンデリアやひっくり返したウェディングケーキみたいに輪になって積み上がっている。


 なんだか、見てるだけでも気分が良い。


 バナナを一本取るとラビに差し出した。


「そら、バナナだ。美味しいよ。食べてごらん?」


「はい! いただきますなのです! あーん……」


 嬉しそうにそのままバナナを口に運ぶラビ。


 そう、皮を剥かずにそのまま。


「いや待って、バナナ皮を剥いて食べるんだ。ほら、こうやって」


「す、すごいのです! まるでこうやって食べられる様に出来ているみたいなのです!」


 ラビは、バナナの皮を剥く様子を興奮しながら眺めて絶賛した。


 たしかにバナナの皮は不思議だな。


 言われてみれば、わざわざバナナが食べやすくあろうとしている様に見える。


「んんー。あ、ま、い、の、で、す!」


「そうかそうか。美味しいか。いっぱいお食べ」


 バナナは良いな。

 なんもせずむしってかぶり付けるのは素晴らしい。

 城なしに植えるか。


「お腹いっぱいになったのです!」


「それじゃあ毎日たくさん食べられるように、食料をたくさん集めよう」


「はいなのです! あっ、でも、ラビじゃバナナに手は届かないし、海でお魚とるのもむずかしいのです……」


「そんな事は無いよ。ほら、おいで」


 ラビを抱えると波打ち際に向かった。


「良いかいラビ。海に浮いているあの緑のふよふよした葉っぱも食べられるし、砂を掘れば……」


 貝が出てくるのだ。


「これなら、ラビでも集められるのです!」


「そうだろうそうだろう? たくさん集めておくれ」


「わかったのです!」


 さて、貝集めはラビに任せよう。


 俺はバナナの木を運ぶわけだがちょっとこれは大きすぎて無理じゃあなかろうか。


 こんなん抱えて飛べるか?


 無理無理。


 城なしに何か運ぼうと思うとどうしても輸送手段がネックになる。


 これは城なしに住む以上早急にどうにかしたいところだ。


 しかし、そんな輸送手段が都合良く見付けられるわけがない。


「あーあ、物を運べる何かがあれば城なしにももっと石を食べさせてあげられるんだけどな……」


 おっとなんでか思考が一人言になって飛び出してた。


 最近一人言多いな俺。


「来るのです……」


「えっ? ラビ……?」


 ピンとお耳はまっすぐに。

 姿勢もピン、尻尾は変わらずまあるくポン。

 瞳はそっとつむって澄まし顔。


 なんだかラビの様子がいつもと違う。


「上なのです……!」


「上?」


 言われて空を見上げる。


 何もない。


 ドンッ!


 背後に何か落ちた。


 どうやら落ちるのと見上げるのが同時だったようだ。


「なんか落ちてきたのです!」


「なんだ? いったい何が落ちてきたんだ? これは……、岩か?」


「城なしに似ているのです!」


 落ちてきたのは直径1メートル程度の岩。


 ラビの言うように城なしそっくりで水源まで再現されている。


 それでもってそれはふよふよとほんの少し宙に浮いていた。


「ご主人さまのおうちもあるのです!」


「簡易テントも再現したのか」


 簡易テントは木の枝をツタで縛って骨組みを作り、枝を立て掛けただけのものだ。


 それもちゃんと再現されている。


 しかし、なんでこんなものが落ちてきたんだ?


 そりゃあ落としたのは城なしだろうけど。


 いや……、待てよ?


 これが落ちてくる前に俺はなんて言った?


『あーあ、物を運べる何かがあれば城なしにももっと石を食べさせてあげられるんだけどな……』


 そうだ。俺はそう言った。


 これはつまり。


「もしかしてここに石を乗せろってことか?」


 ならためしに石を乗せてみようか。


 石を手に取り城なしのミニュチュアの上に石を持っていく。


 すると。


「なんだこれ!?」


「ご、ご、ご主人さまの腕が消えてしまったのです!?」


 そう俺の手、正確には肘から先が消えてしまった。


 しかし、石を掴んでいる感覚はある。


 今度は腕を城なしのミニチュアから離して見たところ、ちゃんと腕もあったし石も握ったままだった。


 もう一度城なしのミニュチュアに腕を近付けるとまた肘から先が消えた。


 しかし、そこで気が付いた。


 よくみると何かを掴んでいるような小さな腕が手が城なしのミニュチュアの上空に現れていたのだ。


「これはもしかすると……」


 腕をぐーっと城なしのミニュチュアの地面に近付けてみると小さな腕もぐーっと小さなミニュチュアの地面に降りていく。


 そうして石を置く。


 すると石はミニュチュアに残る。


「ここに乗せたものは城なしに届くのかもしれない」


「えぇ!? そんなことがあるのです?」


「確証はまだないよ。どれ……」


 試しにラビを抱えて城なしのミニュチュア乗せようと試みた。


 ドサッ。


 素通りして砂に落ちた。


 ふむ。


 人は無理か。


「なんで落っことしたのです!?」


「いやすまん。運べるかなって」


「むむむ、これラビには触れないのです……」


「ん? 俺だけが触れるのか」


 城なしはラビだとイタズラをするとでも思ったんだろうか。


 まあ何にせよ物が城なしに届くのか確かめてみなくては。


 石だと喰われる恐れがあるのでバナナをひと房簡易テントの前に置く。


 このバナナが城なしにあれば城なしに物を楽して運べるってわけだ。


「よし、一回城なしに戻ろう。まあ、直ぐにまた砂浜に戻るけど」


「じゃあラビは行かなくでも良いのです?」


「いや、一人残していくのは……」


「ラビは一人でも大丈夫なのです。ラビのお耳はよーく聞こえるのです。魔物や悪い人が来たらちゃんと穴を掘って隠れるのです」


 ラビはお耳と胸を反らせて“ラビは優秀なのです!”と主張する。


 なるほど。


 非力なのに野生じみた過去を臭わせていたのは、長いお耳がそれを可能にしていたからなのか。


 だが、おドジには実績がある。


 不安しかない。


「ご主人さまはラビをもっと信用して欲しいのです」


「信用ってのは、行動と結果の裏付けがあって初めて生まれるもので、言葉だけじゃあダメなんだ」


「んー。んー。む、ず、か、し、い、のです……。あっ! でもでも、それじゃあ、ラビが一人でも大丈夫と見せるにはどうしたら良いのです?」


 むっ? それは……。


 機会がなければ信用を得ることも出来ないか。


 なんだかへりくつな気もしないでもないが……。


 まあ、ここはラビの気持ちを汲んでみようか。


「わかった。ラビを信じてみるよ」


「はいなのです!」

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