命数指定 例外の場合
「うぅっっ...くっ...待って、るか……」
時は、12月24日クリスマスイブ。
場所は、市役所の一室。
命数指定法の説明中、
そう云い遺して母親は、
僕の20歳の誕生日に床に倒れた。
周りの政府関係者は慌てていた。
どうせ上司に報告と指示を貰いに行くんだろう。
倒れたままの母親を見詰める。
どうしても、
あの人との約束を果たさないといけない。
自分の名前が呼ばれて、
胸にいくつもバッジを付けた恰幅の良い男が入ってきた。
「あなたのお母様は、
命数が本日付けだっため亡くなられました。
御愁傷様です。心中お察しします。
命数指定法の説明中に逝かれるのは、
今回のケースが初めてです。
なのでその引き継ぎは、私が請け負います」
「では訊きます。
あなたは用紙に書いてあるこの日に死にます」
「今日でお願いします」
「原則として命数指定は21歳からとされています」
「それは、
『一等親の口から言われること』
という原則ですよね。
さっきあなた方から説明されたことです。
母はたった今亡くなりました。
あなたはその代わりを請け負いましたが
養子縁組等の何の手続きもしてません。
よって、あなたは僕の一等親ではないので、
その原則には当てはまりません」
「では、養子縁組の手続きをします」
「拒否します。
現在の養子縁組の原則は、
両者の同意の元で手続きが開始されるはずです。
子本人が拒否したらそれまでのはず。
命数指定法の原則は、
『親から子への生死権の譲渡』
原則があるなら、
例外があってもいいんじゃないでしょうか?
僕は今日で20歳になりました。
法律上では、大人として区分されます。
また命数指定法の中には、
『十二分な意思決定権を持ったと判断される場合には今死ぬかどうか選択することができる』
とあります。
ここまで話せる20歳の大人は、
十二分な意思決定権を持てるはずです」
「はい、その通りです。
それはまだ説明していませんでしたが誰からお聞きに」
僕は、そこで倒れている母親を指差した。
「あの人です。
命数指定法の原則には、
『これを口外した場合は、罰金と懲役、短命が科される』
とありますが口外した本人の命数が無くなった場合については明記されていません。僕がその例外の例です。
こういう場合はどうするんですか?」
「たしかに口外した場合は、
それらが科されますが口外された本人も対象になります。
なのでこの場合は、あなたも処罰の対象になりますね」
「では罰金と懲役、短命になるんですね。
短命になるということは、
21歳未満でも対象になりますよね」
「原則ではなりません」
「僕の場合は、例外です。
先程も説明した通り、
命数を口にする権利はあなたが代弁しましたが、
あなたと僕は家族ではありません。
養子縁組も拒否をしました。
命数指定法について本意ではなかったのに亡くなった人から口外されました」
「......では法務省の方に確認しますで
しばしお待ちいただけますか」
男は出て行った。
僕は今一度、座り直す。
母親だったあの人と父親との約束を果たすまでは、一歩も引けない。
父親は、昨日すでに命数を終えた。
母親は、今日終えた。
あとは、自分だけだ。
法務省に確認する時間が掛かれば掛かるほど、
僕だけ命数指定の全ての説明がされていない分、命数が無くなることはない。
いや、産まれた時点で死ぬ薬は投与されている。
それが、たとえ80歳だろうと、
一等親から口にされていない以上、
命数指定を受け付けないはずだ。
それに命数指定法について、
死んだ母親から口外されている身だ。
短命で逝くことができる。
口外しても、されても、されていなくても、
役所では短命の手続きが1回だけできる。
そういう穴だらけの法律だ。
10分経ったか、
バッジを付けた男女二人が出てきた。
一人は、さっき口論した男。
一人は、ポニーテールをした女。
女が、一歩こちらに近付いて口を開く。
「あなたは、
命数指定法の原則には当てはまりません。
なので例外措置として、
ご自身で命数を決めることになりますが、
法の内容をお母様の口から口外されているため
罰金と懲役、短命の
法務省に問い合わせたところ、
20歳ということもあり前者が優先されますが罰金と懲役の併科は科されます」
「20歳になったので十二分な意思決定権を持っているはずです。それについては?」
「それについては適応されません。
法をお母様の口から口外されておりますのでその権利はありません」
「それはおかしいですね。
例外措置なのに原則の一部が適応されています。先程あなたは、僕に対して
命数指定法の原則には当てはまりませんと言いました。
その次に原則である罰則の説明をしました。
それには当てはまらないから、
『例外』になるのではないですか?」
女は少しの間、
バッジの男を残して他の政府関係者を部屋から追い出した。
そのうち一人は、母親を担いでいった。
女は僕の対面席に座る。
1つ溜め息を吐いた。
「はぁー...じゃあ君はどうしたいの」
「今死にたいんです」
「それは何故」
「母親と父親と約束したからです。一緒に死のうって」
「それをお母さんから聞いて何も疑問に思わなかったの?」
「はい。両親と同じ世界に逝けるなら僕もそうしたいと思っただけです」
「.........分かりました。
では、私があなたの刑罰を執行します」
右隣に立っていた男が女に耳打ちしようとするが、
女はそれを片手で払い除けた。
そして女はどこからか、
消毒剤と腕に巻くベルト、注射器を取り出して机の上に置く。
「私は、最高裁判所の命数執行官、
これから命数指定法の口外禁止罪違反の例外措置として、
被告人、
執行官、
いいですね?」
「はい」
「では腕を出してください。どちらでも構いません」
袖を捲って左腕を出した。
これやっと両親のところに逝ける。
消毒をされベルトを巻かれる。
カバーが外され、注射針が顔を現した。
なんらかの液体が見える。
痛いとか怖いという感情はもはや、ない。
今はただ両親の元に還ることができる喜びが一番だ。
「本当にいいんですね?」
執行官から、
再度確認の言葉が出る。
何の躊躇もなく同意する。
注射針が左腕に刺さった。
内筒が押される。
中にある液体が少なくなっていく。
それが身体にするすると入っていく
そして
「1分後には逝くことができます」
「ありがとうございます。これで両親の元に帰れます」
目眩がしてきた。
身体から生気が抜かれていく。
机に突っ伏してしまう。
これで還ることができる。
いってきます。
そしてただいまって言うんだ。
「あなたは、
私が見てきた中でも最高の家族愛でした」
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