命数指定

命数指定 原則の場合

これは、

いつの時代から始まったかは分からない。

だけど、今現在

私たちの寿命が両親によって

決められることが義務付けされている。

親が子を妊娠すると同時に、

その子の寿命を決めることが

法律で定められている。

産まれる権利

生きる権利

死ぬ権利

それらを同時に与えるというもの。

たぶん生まれた時になんらかの薬を入れられているんだろう。

その子が20歳になったときに、

政府関係者、弁護士、両親。

その三者の同席の元、

まず両親から告げられる。

「あなたは、この歳のこの日で死に至ります

これで人生設計を立てなさい」

『命数指定法』

政府関係者はそう口にした。

インターネット上では、

『死の時限爆弾』とも呼ばれている。

私は今日、20歳になった。

さらに詳しい内容を聞くことになった。

命数とは、

親が子に対して、

生まれてから死ぬまでの時間と

命を全（まっと）うできる年齢を指す。

人生の終止符を親に打たれる。

設定できる年齢は原則、

21歳以上でなければならない。

命数設定日は、

誕生日と決められている。

時間指定はできない。

子本人はこれを伸ばすことはできないが、

政府に申し出れば短くすることが

例外的に１度だけ可能である。

その際には両親、親族からの承諾等は

必須ではなく任意である。

市役所で手続きするだけらしい。

また将来就く職業によっては、

何かを運転する途中で、

死を迎える人もいる。

タクシー、トラック、バス、

電車、船、飛行機、宇宙船、等。

それらを運転する際には、

第三種免許が必須となり、

必ず複数人体制を取ることになっている。

プライベートで、

自家用車に乗る場合も例外ではない。

だが今現在の自動車は

ほぼ全てがコンピューターで制御され

ＡＩが搭載されているため

何もかも自分で運転することはなくなった。

この命数指定法は、

全国民が対象であり、

誰一人も例外にはならない。

命数を迎えたその瞬間、

電池が切れたように

身体は動けなくなるらしい。

生命活動が完全になくなるまでの間、

話すことはできないが、

思考だけは可能なようで、

ただものの数分で思考も停止するらしい。

また、

これを口外した場合。

自分の命数を人に話す。

他人の命数を尋ねる。

それらの行為が発覚した場合、

罰金と懲役に加えられ、

さらに短命(命数が短くなる)にされる。

インターネットに広がっている

『死の時限爆弾』はグレーゾーンみたいだ。

そして、

十二分（じゅうにぶん）な意思決定権を持ったと判断された者には

両親から１つの質問が投げ掛けられる。

「あなたは、今死にますか？死にませんか？」

命数指定法の説明中、

原則中の例外措置として、

本人の意思で死を選ぶことができる。

だが、

死を選ばない人が大半らしく

人生設計を立てる方に重きを置く。

だからといって死を選ばない人が少ないわけではない。

説明に納得がいかなかった場合等である。

私は、選ばなかった。

これからを生きる選択をした。

全ての説明が終わった時、

両親から『やっと肩の荷が下りた』と告げられた。

私は、それを聞いて逆上したり、悲しみのあまり短命にしたいと願い出ることもしなかった。

大変身勝手なことをしてくれたな、と思った。

インターネットで細々と広まりつつある

『死の時限爆弾』

そのお陰で多少、覚悟はできていたからだ。

私が指定された命数。

80歳。

これは、

現在の労働基準法の中で定年とされている年齢。

両親からこっそり教えられたけれど、

大体の人は、80歳と決めているようだ。

まだ、60年はある。

されど、60年しかないとも取れる。

命を短くすることもできるけれど、

今はしなくていい。

命数指定は、

完全な身勝手にされたものではなく、

『人生設計を立てやすいように決められたんだ』

そう受け取ることにした。

前時代と比べて医療も進歩し、

平均寿命も伸びた今、人口爆発が懸念されている。

政府は、この対策として、

『死の時限爆弾』を作ったともネットに書かれていた。

私の人生設計を自分で立てることができる。

その喜びがあった。